第9新卒:『お嬢様は薔薇の香り』その4(終)
【黄島クリスティーヌ】
怪しい研究室に、目の前は殺人ロボット。
頼るべきはマジカル三姉妹のみという、まあ微妙に嫌な状況になってきましたわ。
「――あのズタ袋のやつ、一体何っ!? 超動いてるけどっ!?」
マジカルギャルがビビってますわ。
そりゃあ、あの声のトーンと動きから異様な空気を感じられない人間はどれだけ鈍いんだっていう話ですものね。
何しろ、あれは殺人ロボット。放っておくと、ワタクシたちを殺しに来ますわ。
「あれは、破壊兵器SK! この研究所で生み出された殺人ロボットだ!」
そのあたりについては、ワタクシに代わり相羽くんが解説。
「視界に入る人間を抹殺する、科学が生み出した恐るべきモンスターだ……」
「――えっ、さっきと言ってる事違っ――」
「えっ!?」
「いや、なんでもないなんでもない……。と、とにかく、あれは、倒さないとダメな今回の敵って事ねっ!
――じゃあ、いくよ、なわとびウィップ!」
マジカルギャルは、どこからともなく縄跳びを取り出して、敵に向けてぺちぺちとムチのようにそれを振るいましたわ。冬場に当たると痛そうですわよねコレ。
しかし、それにしては敵がダメージを受けている様子は皆無に等しく、相も変わらず不気味な声を出してのっそりとこちらに来るだけ。
さて、どうしたものか……。
「伏せろっ! 爆弾独楽!!」
今度はマジカル女番長がベーゴマ式爆弾の一撃。見事な操作で敵の両肩の関節の上を回った爆弾独楽は、回れば回るだけ鋭利な軸で敵の身体にめり込み――爆発。
距離が近すぎた為に、小さな風がワタクシたちを襲います。
尤も、この程度の爆風に動揺するワタクシではありませんが……。
「ア、アアアア、ア……」
うーん……厳しいですわね。現状、我々も正攻法で勝てる予感は皆無ですわ。
体表に物理攻撃を仕掛けてもほとんど無効、かつ破壊されても自己再生するという厄介な代物……。弱点は、ひたすら「のろい」事なのですが、そんなの倒すうえで何の役にも立ちません。
単純に、逃げるだけならば出来るワケですが……。
そこで、横で逃げているだけの相羽くんアドバイス。
「マジカル三姉妹! そいつは物理攻撃が効かない!
でも、君たちなら大丈夫だ! 魔法使いならきっと、それ以外の能力で攻撃できるはずだっ! 火を出したり水を出したり時を止めたりするんだ!」
「ごめんなさいっ、それは買ってないから無理なのよっ!
こっちは、三人とも、物理攻撃しかできないっ! 買えば出来るかもしれないけど!」
「買ってない? 買えば? ――えっ? どういう?」
「だって、私たちの魔法は、魔法じゃなくて科学なのよ!?
西洋魔術とか陰陽道とかそういう伝説的な魔法のモチーフや宗教性すら、私たちの手にはほぼ皆無なのっ! この前、図書館で勉強してみたけど、調べた事全部無意味よっ!
つまり、私たちが持ってるのは、どこかの世界の誰かが、適当につけた現象の名前としての『魔法』なのっ!
だから、この魔法は魔法であって魔法ではなく、どちらかというと科学なのよ! そう……アイデンティティ田島がアイデンティティ田島であって、決して野沢雅子さんでない事と同じよっ!」
うーん……マジカル委員長もだいぶ支離滅裂ですわね。あっちの委員長と同じになってますわ。
「ごめん、忙しい中で長々説明してもらっておいて何だけど、意味がわからない……」
えっと……相羽くんも流石に今の説明で伝わらなかったようですが、基本的に魔法少女は、通販で武器を買いますものね。魔法とは似て非なるモノですもの。
彼女らは、相羽くんの求めるような能力バトル的なトリッキーな技は一切持ちませんわ。強いて言えば、扱いが上手かったり、魔法値が高かったり、業務用の機械で変換すれば、また様々な運用が出来るのですが……三人はおそらくそうではない。
「――仕方ない、まずは、とにかく拘束だっ! それから考えよう!」
言ったのは、マジカル女番長ですわ。
右手に何かを持っているようですわ。
そう、御縄妖妖でしたわね、あのヨーヨーを使って敵の全身を捕縛。ものの見事に殺人ロボットの臀部より上をぐるぐる巻きにしました。
しかしながら、おそらく、その程度で封じられるJASON-SKではありませんわ。
「アアアアア……」
やはり――。
直後には、ぱんっ、と風船の破裂するような音とともに、殺人ロボットはただの腕力でそれを跳ね返しました。ヨーヨーの細長く赤い光が吹き飛び霧散します。
「えっ!? 効かないっ!?」
……敵ながら感嘆モノですわね。
おそらく、極悪帝国にいる中隊長以上の実力……。まあ、実際の中隊長クラスは、変な経験主義で目が曇っていて、ワタクシ以外は使えないのが多いのですけれど。
「と、とりあえず! 魔法の二刀流よ!」
今度は、マジカル委員長が両手に剣を出現させ、接近。
こちらも鮮やかに関節部を狙っていきます――そこならば脆いと考えたのでしょう。
「はぁっ!」
しかしながら、奴はそう簡単には崩れません。おそらく、ミサイルの直撃にさえ耐えられる作りの化け物。……ゆえに、弱点はない。
激突するも、落ちず。
「くっ……! やっぱりダメよっ! 私たち、効かない物理攻撃しかできないものっ!」
やはり、マジカル委員長の攻撃も跳ね返されたようですわ。
かなり無理な状況ですわね。
「くっ! 最近強敵が多すぎる! 一体どうする……」
「どうしよ。勝てるの? これ……」
「これは詰んだかもしれないわ……」
諦めすぎですわマジカル三姉妹。
「だが、あいつがもし、ここにある仲間を全部起動してしまったら、それこそ大変な事になる!
くっ……! 一体誰があんな殺人マシーンを再起動してしまったんだ!」
それはあなたですわ。
「どうしましょうか……」
しかし、ワタクシもちょっと困りましたわ。せめて、もう少しこちらに余裕があるタイミングで出てきて欲しかったものですわね。
少し、躊躇しますわ……。
今すぐにファントムお嬢様へと変身し、彼女たちと一時的に共闘してしまおうか、と。――例の対処法も存在する事ですし。
ただし、万一、正体を晒した場合にはワタクシの素性を調べられる可能性もあり、そうなればワタクシは今まで通り夢咲家で暮らす事は出来なくなるでしょう。
いざ、という時以外、マジカル三姉妹の前で姿は晒せない……難しいところですわね。
――しかしながら、そんな複雑な思考は、すぐに打ち消される事となりましたわ。
「ア、アアアア……アアアアアアアアアアアッ!!!」
――と。
殺人ロボットは、あまりにも突然に哭きました。
先ほどまでは出す事のなかったかのような、喉の奥から掻きだされるような悲しみや怒りに満ちた声。果たして、それは何の合図なのか。
「――っ!」
獣の遠吠えを聞くかの如く、全員が警戒しましたわ。
「……」
これまで、あらゆる攻撃を甘んじて受け入れ、そこで蓄積された怒りが放出されるとばかり思っていたのですけれど――しかし、どれだけ待っても何も起きません。
この殺人ロボットは、その直後に我々を害する事はありませんでした。
「ア、アアアアアアア、アアアア……」
「え……?」
ワタクシたち五人の方を見向きする事もなく、殺人ロボットは全くあらぬ方向へと歩き出したのです。
研究所の隅へ。
……そう、埃まみれになって倒れ込んでいる、あの掃除用メイドロボットの方へと。
ワタクシたちに一切の興味を向けず、その殺人ロボットは、ただ一身にメイドロボットの方へと一歩一歩、揺らめきながら――そして、哭きながら、そこへ向かっていきましたわ。
随分と奇妙な足取りです。
「なんだろ……」
「あ、あれは、壊れたロボット……?」
マジカル三姉妹は、初めて見るそれを訝しげに見つめています。何故そこに向かったのか、という怪物の意図を探って少々体をこわばらせていました。
仲間を起動させるつもりでしょうか?
まあ、尤も、あれが起動する事などないのでしょうけど……。
同時に、ワタクシと、相羽くんは顔を見合わせましたわ。
「……アアアアア……」
力強く、殺人ロボットはメイドロボットを起こしましたわ。
対して、メイドロボットはあまりに力なく揺られています。
殺人ロボットに体を引かれるように、メイドロボットは抱かれましたわ。
「アアアア……」
「――あれは」
見れば――俯いて突っ伏すように倒れていた先ほどまでのメイドロボットからは見つける事ができなかった、頭の両側にある巻き髪が露わになっています。体の下に挟まっていたのですわ。それが、揺り起こされた事によって晒されたのです。
そう、金色。
それは、今は黒まじりですが、薄っすらと金色の原色を遺していました。――このメイドロボットは、どうやら金髪の縦ロールという髪形に設計されていたのです。
そう、ワタクシが思い出したところでは、そう……確か、殺人ロボットの弱点は、金髪縦ロール髪の女の裸、だった覚えがありますわ。
なんだか小さな符合を感じますわね。
「ア、アアアア、アアアア……!」
殺人ロボットは、メイドロボットに縋るように、埋もれるように抱きながら、更に激しく咽び哭いていました。
それは、獣の声というよりは、もはや人間の声のようですらありましたわ。
「――」
……ああ、なるほど。彼は、もしかするとそのメイドロボットを、知っていたのでしょうか。
さながら、それは想い人の亡骸を抱えて哭いているようにさえ……。
いえ、きっとそうなのでしょう。そうでなければおかしいくらいに、その姿は明確に同族の死を悲しんでいるように見えます。
相羽くんは唖然としていましたわ。
「一体、これは……?」
「……ワタクシにも、ちゃんとはわかりませんが。
しかし、きっと、悪魔のように見えたロボットは、ただの悪魔ではなかったという事です……。
我々が見えていないところに、彼の真心があったのでしょう」
――だとすると、果たして、彼らロボットも人格を持ち、誰かを愛する心を抱いていたのでしょうか。
それは、まったくもってわかりかねますが、殺人ロボットの悲愴な叫びはそれをワタクシたちに強く感じさせるほど響き続けます……。まるで、悲しいピアノソナタを聞いているようですわ……。
頑強な力を持っていた筈のあの殺人ロボットは、それを見た瞬間に、生きる意味を失ったようにさえ見えました――。
そして。
「……機能、完全停止シマス……」
あの掃除ロボットを抱いたままに、殺人ロボットは力なく、ぷしゅー、と最後の息を噴出していきましたわ。
全身のどこにあったのか、ミクロな放熱器があったようで、目に見える乳白色の煙が各所から一斉放出。
そこから空気が抜けるようにしてひざまずき、二度と動く事はなくなりました。
「と、止まった……?」
本当に止まった、ようですわね……。
マジカル三姉妹の戦いを無意味にするほどに殺人ロボットは強く、そして、あまりにもあっけない終わりを迎えましたわ。
アラレちゃんの如く、マジカル女番長がつんつんと突いてみますが、どうやら二度と動かぬ様子……。そこにはもう屈強さはありませんわ。それは既に、ただの鉄の塊です。
「止まりましたわね……」
金髪縦ロールに弱いロボット……思わぬ弱点でしたわ。
あくまで推測に過ぎませんが――ロボットの恋心に起因する弱点だった、とは。
それが見つかったのは、単なる偶然ですが。
「――勝った、のか?」
「ええ、勝ちましたわ。我々の勝利ですわ。殺人ロボット恐るるに足らず……」
まあ、なんであれ、結局、ワタクシは何もしてないですが、これだけは譲れません。
なんか知りませんが、なんとも見事に無事勝利。そう、負けなかったので勝ちですわよ。勝利だけは受け取りましょう。
……しかし、ただ言っておくならば、全く以て偶然のもとにぴったりと、この殺人ロボットを倒せそうな唯一の場所に招き入れられたというのは、実に都合の良い話のように感じてなりませんが……。
「――しかし、たまたま止まったから良いものの、この基地の発明品は、もう我々の手に負えませんわ。
相羽くん、本部には見つけた事だけをそれとなく報告して対処だけ考えてもらいましょう。
おそらくですが、もう二度とここの兵器を悪用する事もないでしょうし。……何しろ、扱えませんもの」
相羽くんは、強く頷きますわ。
あのロボットの恐ろしさを知る者として。
しかし、ええ、これでとりあえず、我々は真の意味で心安らぐ事が出来るわけですわ。
「結局、これはどういう事だったんだ……?」
マジカル三姉妹は、頭の上に疑問符を浮かべている模様。
どうあれ、彼女らが詳しく知る必要はありませんわね。今回の主役はあくまでワタクシたち。モブが知る必要はありません。
それより。
「……マジカル三姉妹の御三方。
少々悪いのですが、先に出口で待っていただけると助かりますわ」
「えっ」
「こたび、少々、相羽くんと二人だけで話したい事もありますので」
言うと、三人は顔を見合わせ、相羽くんもこちらを見ていましたわ。
それぞれ、まだどこか釈然としないようですけれど、とりあえず一件落着した以上、マジカル三姉妹は、ワタクシを信じたようで、
「わかった。じゃあ、外の出口で待ってるよ」
と、納得して出ていきましたわ。
信頼しているのか何なのか知りませんけれど、三人がこの一室から出てしばらく過ぎて――ワタクシは、安心します。
さて、これでワタクシも本当の姿になれるというもの。
「二人だけで話って……?」
「ファントム、レディ――!」
相羽くんの一声を遮り、ワタクシは両手を広げてファントムお嬢様へと変身。
本日二度目の真の姿。
こういう豪奢なドレスの方がワタクシの性には合っていますが、今この姿を晒す事ができるのは、既に正体を知る相羽くんただ一人です。
何しろ、この姿のワタクシは、指名手配の犯罪者同然ですもの……。
「相羽くん、この姿の事は、今後も内緒にしてくださいまし」
「当たり前じゃないか」
「……ありがとうございますわ。信じます」
案外、相羽くんも平然としてますわね。まあいいですわ。
「――で、変身して何をするんだ?」
相羽くんは訊きました。
ワタクシは、応える事もなく、その手に力を込めて、魔法で一束の花を創出します。
薔薇の固定イメージから、生み出されたのは――武器にもならないただの薔薇の花束。血のように赤いその薔薇を、ワタクシはあのJASON-SKと掃除ロボットの眠る場所へと華麗に、ブーケのように投げましたわ。
「これは、魔法で創出した薔薇ですわ。
時間が経てばすぐに消える事となりますが――まあ、本当の花もいずれ枯れますものね。
こういうのは、あくまで気持ちの文化なのでしょう」
仮にも、めぐり逢い、散った命。
殺人ロボットとはいえ、我々はそれを起動させ、一連の彼の動向を見守った責任というものがありますわ。
それを果たすとすれば、こういう形しかないでしょう。
「手向け?」
「ええ、どうやら、これは我々マッドサイエンス研究所の業。
過去の罪とはいえ、我々がその恩恵を預かるものである以上、ここに見捨てられた怪物たちには花でも手向けておきましょう」
「――そうだな」
「……おーっほっほっほっ!
……こんな場所でも、あのロボットにとっては、思い出深い場所だったのでしょうね!
相羽くん、あなたはせめて、手でも合わせておきなさい」
相羽くんは、黙って目を閉じて手を合わせましたわ。
……まあ、色々とアレですが、素直な人であるのは確か。それが相羽くんです。
で、ワタクシは訊きます。
「――相羽くん、今、何を願いました?」
「いや、こういう場所で手を合わせるのは別に願い事じゃなくて、弔いの意味があるんだよ」
「でも、今なんか願いましたわよね」
「……プレステVR」
と、相羽くんは正直に、場違いな願い事を秘めて手を合わせていた事がわかりましたけれど、どうあれ関係がありませんわ。
弔いの気持ちが全くないわけではないのでしょうから。
「まあ、それじゃあ、行くか」
「ええ。そうしましょうか」
ワタクシは変身を解きました。
この研究所は、確かに彼にとって所縁のある場所でしたけれど……そうだとしても、思い出のある場所だったとは思いもよりませんでしたわ。
恋しいロボットの成れの果てを見て、きっと、最後の居場所を見つけたに違いありません。
ひとまず、ワタクシたちはその全てを見届けて、マジカル三姉妹をタクシー代わりにそれぞれの家へと帰りました。
……それにしても、空を飛べるって、樹海で迷った時にすぐ出られて便利ですわね(割とマジで)。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
【黄島クリスティーヌ】
――さて、後日。
ワタクシたちは、あの諸悪の根源ことマッドサイエンス研究所で相変わらずのアルバイトですわ。
きな臭い事をしていたのはとうにわかっていた話ですが、自分の組織にそれを糾弾して生活を捨てるほど我々は正義感もりもりの性格ではありません。
何しろ、今の社会人の最大の資質は、勤勉さでも誠実さでも正義感でもなく、自分の属する組織の汚さに目を瞑り、自分の都合の悪い事については一切無になる事ですから。
そこそこ成果を出すイエスマンのロボットになる事こそ、社会の成功の秘訣。
……とはいえ、マッドサイエンス研究所は、相変わらず無になるレベルの退屈さ。
流石に野球は控えたようですが、相羽くんが隣で駄弁っていますわ。
「……黄島。そういえば、昨日、長年いる支部長にあの基地について報告して、ついでに色々訊いてきたよ」
相羽くんが口にするのは、そんな話。
要するに、後日談なわけですが、アルバイトながらにしてこの人脈と情報網は一体どうやって手に入れているのか、少々不安にさえなりますわ。
まあ、そうであってくれた方が便利に違いありませんけれど。
「どうでした?」
「……」
――しかし、なんだかそこから先の話を切り出そうとする相羽くんは随分と不穏な顔つきをしていますわね……。
何か躊躇しているのか、はたまたムードを作ろうとしているのか、少々遅れて彼は告げましたわ。
「どうしましたの? 訊いた話とやらを教えてくださいな」
「……いや。なんだろう。話していいのかな。
不思議な話なんだけどさ、昔サンテグ裏にあった基地は、もうとっくの昔になくなったらしいんだ」
「えっ……?」
流石のワタクシも思わず耳を疑いましたわ。
何しろ、ワタクシたちは先日、確かにあの基地を目にしたじゃありませんか。
そう言いたかったのですが、相羽くんは、至極真面目な顔つきで続けます。
「……いや。そもそも、あの殺戮兵器の実験は完全に失敗で、何一つとして実験は成功してないらしいんだ。
発明品が動くはずもないし、あるはずもない。
あそこでまともに動いたモノなんて、掃除用のロボットだけだ。破壊兵器も殺戮兵器も未完成なまま、単なる研究費の無駄にしかならなかったんだ」
「でも……」
「――だから、戦時中、資金も資材もない中でガラクタみたいな兵器作るのって、ものすごいプレッシャーだったらしいよ。
結局、私財をなげうって作り出そうとした研究者たちはすべて、基地の中で集団自殺した。――『九院健』という研究者のグループがね。
残ったガラクタの山は、多くは捨てられて、あのJASON-SKだけがサンプルとして残されてたんだけど――結局、動かないしパーツも役に立たないってわかったらしい」
「では、うちにあったのはそのサンプルと……?」
「ああ。――でも、それも、廃棄する予定だったんだ。
だから、さっきあれの話をしたら、『時間に余裕があったら、あのあたりの発明品は全部どこかに捨てといてくれ』なんて言われちゃったよ」
「だとすると――光線銃の威力でどこかの回路が狂って動いたんでしょうか……?」
「わからないけど……どうだろう。あんなロボットが、そんな叩けば動くテレビみたいにいくのかな」
その可能性は相羽くんですら疑問を感じるレベル、と。
「説明書もありましたわよね?」
「……あったんだけど、仕様はすべて未来予想図みたいなモノだと思うよ」
「基地は? 今どうして存在しているんです?」
「――もう閉鎖して、中はもう廃墟と同じ。動いているわけがないって」
「じゃあ何故――」
と考えると、ようやく夏特有のうすら寒さが身体を這い回りますわ。さーっと立つ鳥肌。
今回、何やら不思議な事ばかりですもの。
「……」
そういえば、三人は肝試しをしたなどと言っておりましたが、結局彼女たちが行き着いたのって、まさしくその肝試しの果ての……。
……やめましょう。ワタクシも、こういうのはマイナスに考えないようにしましょう。
相羽くんも、どうやら割り切って、プラスに考えているようですから。
「あのJASON-SKはさ、ただずっと、動く日を待っていて――結局動かなかった兵器だったんだ。
だけど、動く日を待っていたのは、もしかすると破壊や殺戮の為じゃなくて、
動かないなりに目に映り続けていた掃除用のメイドロボットに恋をしていたからかもしれない。
今になって、その想いがあいつを――いや、ガラクタたちを突き動かして、俺たちに不思議な夢を見せた。それだけなのかもしれない」
……そうですわね。
そう考えた方が夢もありますし、何より怖くなくて済みますもの。
うる星やつらで読みましたわ。あたるが幽霊の女の子とデートする回。怨霊の話は怖いので聞きたくありませんが、ああいう話なら怖くないのでいいじゃありませんか。
「――で、そんなロボットを、あなたが一人で野球してそのきっかけを作り出したと」
「うっ」
綺麗に纏めるには、様々な不純があったように思えますし、諸悪の根源を見て何ですけれど、何にしても、――
「まあ、結果オーライですわ……」
――そういう事にしておきましょう。
この相羽くんが迷惑行為によってロボットを目覚めさせ、結果的に何らかの思念のようなものがあのロボットを突き動かす結果になった。
……そのロボットは、はじめに、目の前のワタクシたちに向けて基地の場所を問いかけた。
ワタクシたちは、とりあえず、必死でロボットの機能を停止した。
偶然にも(?)、学校裏の樹海で処理を考え、結果的にそこにあった彼の誕生基地へといざなった。
そして、そここそがあのロボットの本来眠るべき場所だった……。
本当はもう、そんな場所なんて存在しないのに、そこは確かに目に見えていた。
様々な非合理があるように感じますけれど――まあ、それこそ、あまり深く考えてはならないところでしょう。
「……それにしても、ロボットもオバケになるんですわね」
「うん。そうらしいな。ちょっとまだ信じられないし、多少怖いっちゃ怖いけど――」
「もういいじゃありませんか。誰かが不幸な目に遭ったり、呪われたりもしませんでしたし。
なんだかんだ言って、貴重な経験になりましたし」
大概の事には、天秤にかけて切り捨てられる「仕方のない犠牲」がつきものですが、犠牲がなく済むならその方が良いと言うもの。
過去には犠牲はいたかもしれませんけれど、現代にはいなかったようです。
それに――極悪帝国に狙われるような恐るべき発明もなかったようですし(個人的には少々残念ですが)、これで良かったという事にしておきましょう。
相羽くんも納得したようです。
「……そうだな。
それにしても、悪の組織が作ったロボットのオバケに、異世界の悪のお嬢様が魔法の薔薇を手向けたわけか……」
「あら。流石の相羽くんも驚いていますわね」
「そりゃあね。情報の整理がしたくなるくらいに、色んな話がゴチャゴチャしてるし」
相羽くんもほっと一息。
今回のケースはこれでおしまいですわ。
ただ……。
「――でも、何より驚いたのは、テレビで見ていた極悪帝国のファントムお嬢様が、良いヤツだったって事かな……」
なんか、もごもごと呟くように相羽くんが言っていた言葉だけは、ワタクシの耳には届きませんでした。
【第9話:おしまい】
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