第9新卒:『お嬢様は薔薇の香り』その3
【黄島クリスティーヌ】
――なるほど。
「――」
と。
かれこれ百メートルほど歩いて、ワタクシは、この施設が何であるか察するに至りましたわ。
真っ白な壁の随所にある模様――それはワタクシにも見覚えのあるロゴデザイン。
松の描かれた襖をイメージした社章は、そう――明らかにマッドサイエンス研究所に違いありません。
ワタクシの、会社ですわ。
「これ悪の組織の秘密基地か何かかな……」
「超怖い……」
「何か無名の組織や団体のロゴマークでしょうね。
私が知る限りの公的機関や自治体、大手企業や宗教法人のマークではありません」
うーん……後ろで言っている声も概ね間違ってないというか、九割方正解としか言いようがありませんわね……。
ロゴマークに詳しいこの委員長にも辟易ですが、それでも知らないとは、やっぱり秘密組織の体裁は保てているようですわね……。タウンワークに求人があるとはいえ……。
……それにしても、誰も踏み入れられない樹海の中に秘密基地を作っていたとは、さすがマッドサイエンス研究所。
元々悪の組織だっただけはありますわ。きっと山の中にも森の中にも海近の洞窟あたりにも海底にも基地を設けているに違いありません。
ここがマッドサイエンス研究所の系列会社である事にいち早く気づいて、相羽くんはこの基地へと我々を案内したというワケですわ。
そういう事なので、しばらく歩くと、ワタクシの目の前に、相羽くんが待ち構えていましたわ。何やら憮然とした風格。
「やべえよ」
と、早速、相羽くんの一言。
まあ、樹海で遭難している時点でやべえのですが、一体、どうやべえのでしょう。
「……あら」
見れば、相羽くんの目の前に転がっていたのは、いくつかの骸骨たち。
煤だらけの白衣を着ていた痕跡や、スーツを着ていた痕跡があるあたり、おそらく、普通に生活していた挙句にこうなったというところなのでしょうけど……。
……近づいてよく見てみれば、名札には「マッドサイエンス研究所」と書いてありますわね。
なんか、ここの研究員たちが、どういうわけだか、こうなったカタチかと思います。
「ひ、ひぇぇぇぇぇ……アタシもう帰りたいよぉ……」
後ろで、いちごさんがアヤネさんの裾を掴んでふにゃふにゃになりながら歩いていましたわ。女性の中では断トツで身長が高いのに、なんという情けない姿。
まあ、こんな不気味な骸骨の群れを見て平静を保てる方がおかしいくらいですが。
隣にアヤネさんがしゃがみこみます。
「ど、どうやら、これは、成人男性の骨みたいですね……。
おそらく、亡くなった後、かなり時間が経っているものと推定できます」
「名前は――『九院健』か……。
名前の通り、ここの研究員だった人みたいだな……」
アヤネさんと相羽くんは何という事もなく、平然と白衣の白骨(というほど白色が残ってもいないのですが)の調査を始めていますわ。
……こいつらやっぱり、どっかおかしいですわね。戦場に駆り出されたワタクシのような立場でもないでしょうに。
そんな冷静なアヤネさんに、ミエさんは訊きます。
「……い、委員長……。大丈夫なん?」
ミエさんは、恐怖のあまり関西弁になってますわね。
「心配ありません。これはただの人間の骨です。
骨は、カルシウムで出来ていて、牛乳を飲むと丈夫になるので、
つまり、これはただの牛乳の塊と同じという事です。怖くありません」
「せやかてウチ、ほんまに怖いで……これ明らかに牛乳ちゃうやん……」
アヤネさんも、冷静に見えていましたが、言動が支離滅裂になっているようですわ。白骨が牛乳の塊なわけがないじゃないですか。
いちごさんは相変わらず涙目で歯をガタガタ鳴らしながらアヤネさんの裾を握り、その手も震えてアヤネさんの身体が激しく左右に揺らされています。
恐怖のあまり、一時的に握力が三倍くらい(※いちごの握力は12kg)に強化されているようですわね……。それと同時に、アヤネさんも自分が揺れている事にさえあまり気づいていない有様。
こっちはもう見てられませんわ。
「しかし、何故、彼らはこんなところで死んでしまったのでしょう? 相羽くん」
こうなってしまうと、唯一の寄る辺となるのは、相羽くんですわ。ワタクシは、とりあえず相羽くんにそれを訊いてみます。
相羽くんは相も変わらず頭を悩ませ、答えを捻りだしているようです。
「うーん……たぶん、それぞれ骨に妙な傷があるのを踏まえると、
神経ガスとかでやられたわけじゃないと思うんだよな」
「神経ガス……?」
「ああ、いや、それはほら、あくまで最悪のケースだけど、
ここで毒ガス系の化学兵器の実験とかをしていたなら、こうして死人が放置されていてもおかしくないなって。
まあ、いくらガス漏れしたって、研究員がガスマスクつけてないって事もないだろうし……」
うわっ……相羽くんがなんか結構しっかりとした推理を始めてますわね。
様々な出来事の原因とはいえ、彼の冷静さは役立つ場合もあるものですわ。
それにしても、今回はこの秘密基地の外に何かいると判断しているのでしょうか。
「……とりあえず、俺はまだこの先に行ってみるよ」
と、相羽くん。
ワタクシもどうするかは決まっていますわ。
「――そうですわね。ワタクシも、ここが一夜泊まれる場所か探っておく必要がありますわ」
「えっ、黄島も来るのか?」
「ええ。最悪のケースでない事を確定しておくべきですから」
そう、この先にもし、神経ガスの開発室があるのなら、ワタクシは四人を連れてここから去るよう指示しますが、そうでない安全な場所といえるのなら、白骨と一緒にしばらくここで眠るのが良いですわ。
白骨がある事を除けば、土の上よりか室内の方が遥かに眠りやすいでしょうし……。
「……そうか。でも……大丈夫かな?」
「えっ?」
「あっちの三人、ビビったままだけど」
「……うーん」
向こうの三名には、ワタクシがついてないと危ないという事でしょうか。
ちらと様子を見てみますと……。
「だ、だだだだだだだだだだ大丈夫だよクリス!
アアタタタタタタタタタタタタタタタタシたちは別に怖くないし!
危なくなくなくない範囲で先行ってきていいよ!」
「そうですよ。それに、もしオバケが出ても、私は委員長ですから委員長権限で黙らせる事が可能です」
「ほんまかいな……でも、そう言うなら、ウチ頑張ってみるわ!」
……なんとも言い難いですわね。
「……何となく全員ダメそうですが、とりあえず今は本人たちの意思を尊重した方がよろしいかと。
何しろ、あちらは三人いますし、いざ耐えられなければ、この基地の前に逃げてくださればというところですわ」
良いか悪いかはともかくとして、このまま彼女たち三人の相手をしていたら、むしろこちらの精神まで蝕まれそうですわ。
とりあえずは、まあ、なんであれ、それぞれ複数人で分かれて行動するに越した事なし。
三人もこれ以上先に進もうと言う気力がなさそうですし、これから先に進む意思を持つワタクシたちで勝手に先に進んでしまうのが吉でしょう。
この先がどうなっているのか、わりと曲がりくねっているようであんまりはっきりとわかりませんし……。
「行きましょう、相羽くん」
「あ、ああ……」
ワタクシたちは、この深いマッドサイエンス基地を向かっていく事にしましたわ。
いやぁ、探検と冒険のアドベンチャー要素ですわ。
この先にドラゴンボールが落ちてない限り、あまりワクワクしませんけれど。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
【黄島クリスティーヌ】
――そんなわけで、数分だけ歩いてワタクシと相羽くんが見つけた一室。
「ここが研究室だったようですわね」
そこは、一目見て悪の組織の研究室だとわかるような部屋でした。
この辺りの研究を管理していると思しきデスクトップパソコンたちが不気味に稼働し続けていますわ。まだ動いている演算音が聞こえ続けてきます。とはいえ、完全無人。
それ以上に目につくのは、人間や獣と無機物を合体させようとしていたとしか思えない変なクリーチャーたちが、それぞれ円柱状の水槽に入れられ培養液に浸かっている姿です。ショッカーとかデストロンとかの怪人を想像してくださいな。こちらはあんな感じですわ。
「マッドサイエンス研究所の基地だ」
「怪人やアンドロイドを作ろうとしていたわけですわね」
他にも、壁のコンセントに繋がれたアンドロイド的な存在たちがゴロゴロと……。極めてシンプルで旧世代的な丸みあるデザインですわね。
ほとんど人間の顔をした女性型アンドロイドもいるのですけれど、その女性型アンドロイドも松本零士キャラみたいな美人の感じでアンティークな物体に見えますわ(この表現でわかるならこの表現でいいですわよね?)。
まあ、マッドサイエンス研究所でアルバイトをしている限り、ワタクシたちにとってみれば、こんなの全く珍しくも何ともないので驚くに値しない光景なのですが、自分のそういった常識や思い込みを一度捨てて客観視してみましょうか。
……そう、この光景は異常ですわ。
「黄島、どうやらここの管理システムは活きてるみたいだな」
相羽くんが冷静に言います。さも堅気であるかのようなまともっぽい口調やめてくださいまし。あんたも異常者ですわ。
……しかし、それは置いといて、相羽くんの言う通り、管理システムが長期間動きっぱなしのようですわ。
何しろ、施設はそこかしこに蜘蛛の巣が張っていて、埃だらけで湿気だらけ。ほとんど人の手が加えられている様子がないにも関わらず、この施設は動き続けている……。
そんな事がありうるのでしょうか。
とにかく、コンピュータが自動化して何十年も機能し続けていると考える……? ……と考えるのが合理的のようですわね。
ええ、それしかありえません。
「……すべてここにある機械が全部勝手にやってくれているようですわね。
やはり、長期間にわたって、人間が立ち寄った形跡なし」
「でも、そんな技術、今だってないぞ!?」
「マッドサイエンス研究所は、きっとなんでもアリなんですわ。
今持っている発明品だって、人類があと何十年かけて見つけられるかもわからないような技術ばかりでしょう。あんなのどの異世界にもありませんわよ。
ただ、これだけの技術が見つかれば、極悪帝国も地球侵略に本腰を入れるに違いありませんわね……」
と、まあ、ワタクシも、あまり興味こそなかったものの、この状況と極悪帝国を結び付けて、いささかの危険性を感じつつありました。どちらも怖くはないのですが、混ざった時は恐ろしい。
何しろ、奴らは技術を獲得して共有し合うという目的のもと動いていますわ。
ワタクシよりも先に技術を奪わせるわけにはいきませんもの……。
「……このままだと極悪帝国も狙って来る、か」
「ええ。マッドサイエンス研究所自体がそんな組織でしたが、基本色々とマズそうですわよ」
「わかった。とりあえず、黄島を信じるよ」
「……」
「しかし、それにしては汚い部屋だな……システムは動いてるのに、掃除は人間ナシには出来ない、か」
「そうですわね。年季が入っているのだけは間違いないようですわ」
あれだけの技術があるなら、お掃除ロボットでも使えばいいのに、と思いつつ部屋を見てみると……なんだかホウキとチリトリを持った旧式のメイドさん型のロボットが役目を失い荒廃したような形で隅っこに転がってましたわ。
ああ、なるほど。やっぱり元々使ってたっぽいのですが、それがややあって死んだっぽいですわね。
ワタクシがそれを指さすと、相羽くんもすぐに納得したようですわ。
とりあえず、あの機能停止したメイドロボットには三秒ほど黙祷を捧げましょう。
「……まあ、とにかく、危険な化学兵器はなさそうですわね。
これだけ生体兵器が培養されている環境で化学兵器なんて合理的じゃありませんし、
見たところでは無菌室のようなモノもありませんわね」
「ああ……ここはあの殺人ロボットみたいなメカを作ってる場所だったみたいだな」
言われてみると、あの殺人ロボットは太平洋戦争中に作られたとかいう話でしたが、なんかこの部屋も下手するとそれくらい前に作られたかの如きボロボロ具合ですわね。
よもや、そんな大昔、資源もろくにないような国で高性能なアンドロイドを作れるわけがないのですけれど……。
ただ、もうちょっと観察させてもらいたいという欲望は捨てきれません。
何か他に使えるものは……と、周囲を見ていると。
「――あら? ちょっと待ってくださいまし。
あそこのコンセントに繋がれてたと思しき物体が、一個なくなっておりますわ!」
ええ、なんだか見た感じ、ロボットの保有スペースがなんか一個足りないのですわ。
それぞれ一個ずつコンセントに繋がれたロボットたちが並んでいるのですが、その列の中に妙に空虚なスペースが……。
結構な数のロボットが置いてあるようですけど、一体何故でしょう。先ほどのメイドロボットかもしれませんけど、ちょっと気になりますわ。
「何だ?」
「ほら、これ」
恐る恐る、近寄ってみると……あら。
あらあらあら。
各コンセントには、それぞれの型番がきっちり書いてあるじゃありませんか。
――そう、『JASON-SK』と。
「えっ!? これって、つまり……」
「ええ。ここがあのJASON-SKの開発の地だったのでしょう」
先ほど、ワタクシが「作れるわけがない」と言ったのは訂正しますわ。
……ここで、あの殺人マシーンが生まれた。なるほど、全く笑えない偶然ですわ。
「マッドサイエンティストだらけですわね、昔から」
「戦時中とはいえ、倫理道徳の欠片もないな」
「……」
相羽くんが言うなと思いつつも言い返せませんわね。
それにしても、まったく、このひとつひとつが殺人ロボットだとでも言うのでしょうか。えーっと、三十台ほどありますけれど、これがまさか全部あの殺人ロボットと同様の技術力で生まれたマッシーンっていう事はありませんわよね?
ん?
このJASON-SKだけが起動されているのだとすると、研究所の外で死んでいた人間たちは、おそらく――。
「そうですわ! 研究員たちは、おそらくあのJASON-SKの暴走で死んだのですわ。
何らかのアクシデントでJASON-SKを逃がしてしまい、それがきっと自分たちの首を絞めた」
そう考えるのが妥当でしょう。
「不幸な事故が起きたと」
「ええ。自分たちの扱っている兵器の管理能力がなかったとも言えますが」
何しろ、この周辺に、彼を食い止めるモノは何もないように思えます。
つまり、彼が暴走した時点で逃走以外の手段がなく、それもまた、逃げ遅れた所員たちは死ぬしかなかったという事ですわ。
いやー恐ろしい。恐ろしいですわ人類。
何が恐ろしいって、殺人ロボットを作るまではまだしも、現場で安全管理できないくせに作るところが恐ろしいですわ。無知無能が手に余るモノを作ろうとしてしまうほど恐ろしい事はないですもの。
「でもそれを知ったところで、ワタクシたちに何が出来るというわけでもないのが残念ですわね。
ここに撃退の道具でも置いておいてくれればいいのに」
「……まあ、いざ動き出したらまた脱げば」
「ふざけんなですわ」
……こういう時に他人に安く見られる事ほどムカつく事はありませんわ。
ワタクシは必要手段として行っていて、かつ、別に大して恥ずかしくないだけであって、こうして安易にそれを求められるのはナンセンス。
そもそもあいつは殺人ロボットですから、動かないに越した事はありませんわよ。
「とりあえず、ここは白骨と殺人ロボットがある以外は、
一夜泊まり明かしてもあんまり害はなさそうだし、
今夜はここで泊まるように三人に言っちゃうか」
「そうですわね……」
白骨ごときで震えている三名に対して、「殺人ロボット」という新たな恐怖を投入していいものなのか悩みどころですが……まあ、とりあえずは伏せてしまいましょう。
たぶん、ここのロボットたちもコンセントを抜いて変な事でもしない限りは起動しないでしょうし、当面は放っておいても大丈夫のはず……ですわよね?
外のやつが動かないかだけ心配ですけれど――それもこちらでコンセントに繋いでしまえば大丈夫でしょうか。
「――」
……と。
なんだか、そんな時にふと気づきましたが、研究室の外が妙に騒がしい気配。
音に耳を澄ませるのをほとんど忘れていた頃合いに、「パラリラパラリラ」と暴走族のような軽快なラッパ音と、あまり主張のない排気音。こんなところに来られる暴走族といえば、ワタクシの中ではほとんど限定できます。
「なんだ、この音」
「……こんなところにも、来たようですわね」
よほどの馬鹿か、魔法少女でしょう。
「――おい、助けに来たぞ!」
ドアを豪快にぶち開けて、なんだか聞き覚えのある声が響きましたわ。
部屋の中に現れる三台の魔法の箒。それぞれに乗る、赤の特攻服、青のフリフリ、緑の袴の三人の統一感のない忌まわしき三原色。何故だかやってきましたか。
本来なら、ここで合ったが百年目。
……しかし、まあ、今のワタクシはファントムお嬢様ではなく、あくまで一個人の黄島クリスティーヌなのでとりあえず憎々しさを抑えて、何事もないような態度でいる事にしましょう。
「なんです、あなたたちは。騒々しい」
――台詞の通りなら、彼女たちは遭難者を助けに来たというところでしょうね。
極悪帝国の救助以外にもそんな慈善活動をしてくれる、と。
それならともかく、ありがたいうえに御苦労ですわ。
しかし、それはわかってはいるのですが、この手の問いかけをしておかないと、彼女たちマジカル三姉妹のお約束も果たせませんので、訊いておきましたわ。
なので彼女は答えます。
「アタイたちは、ただの……遭難者を助けに来た暴走族だよ!」
「知ってますわ。その台詞の為に、とりあえず聞いておいたんですわ」
悔しいからこれもちゃんと言っておきます。
マジカル女番長はワタクシに頭を下げましたわ。
「……ああ、ありがとう」
「どういたしまして」
「邪なる魔物の……」
と、マジカル三姉妹のリーダーらしき赤枠ことマジカル女番長は、唐突に名乗り出しましたけど、ワタクシが聞きたいのは毎回変動する例の俳句くらいなので、ここから数十秒ほどの描写はバッサリカットしますわ。このくだりは別の回を見てくださいまし。
マジカル女番長と、ついでにもう一名が背景演出を出現させて名乗りをあげるのを退屈そうに見送った後、三人目ことマジカル委員長の名乗りだけ今回はどんな名乗りかと聞いておく事にしますわね。
「ここで一句。
――迷い森
――マヨとイモリで
――マヨイモリ
……以上、麗しの大和撫子。マジカル委員長」
満を持しての俳句名乗り。
一句は秋あたりの季語。百点満点中二点としておきますわ。
ひどいクオリティを通り越して、手抜きなのか何なのか。それとも、この培養生物たちを見てこのマジカル委員長も、別の委員長のように言動が支離滅裂になってしまっているのか。
……詳しくはわかりませんけど、とりあえずは待った甲斐がゼロでしたので、やや憤りを感じましたわね。
で、この後の名乗りですが、まさか名乗って後ろでナパーム爆破はしませんわよね?(一応室内ですから)
「「「魔法の救助隊!!! マジカル三姉妹!!!」」」
ああ、やっぱりちゃんとナパーム爆破はなしですわね。
この狭い研究室でポーズだけ決めて静止。こちらから見るとかなりシュールですが、ともかく今回の三名は救助隊に徹するという事ですわ。
……なので、毎回この後に告げられる「この世を荒らす……」「不埒な輩に……」「女の決闘、申し込むっ!」「覚悟しなっ!」という一連の口上は今回は保留され、敵も諍いもないままに事は収束に向かっているという事でしょう。どうでもいいですが、口上覚えちゃいましたわ。
「……」
「……」
しばし沈黙。ポーズを決めたままこちらを見つめるマジカル三姉妹と、動くに動けない我々。
しかし、このまま双方ぼけーっと黙って突っ立ってても仕方がないですわね。
ワタクシは、少々気になっていた事をこの三名の魔法少女たちに聞いておく事にしました。
「マジカル三姉妹の御三方。
ワタクシたちはともかく、この研究室の外にいる三人は助けてくれましたか?」
そう、白骨の前で怯えていた番長とギャルと委員長のトリオの事ですわ。
偶然にもこの三名と属性が一致している事を除けば基本良い方たちなので、ひとまずは彼女たちの救助を優先して頂きたいところなのですけれど。
「えーと。バッチリ!」
……なんか青い奴――えっと、そう、マジカルギャルが答えます。
あー、名乗り口上を聞き飛ばすと、思ったより名前忘れますわね。次回からなるべく脳内スキップは控える事にしましょう。
それはそれとして、三名が助かっているなら安心ですわ。
「ありがとうございますわ。三名が少々心配でしたから」
「へへへ……」
なんだこの青。何笑ってますの。気持ち悪い。人がせっかく下手に出て率直な感謝を告げてやればこの返答。だから貴女たちは暴走族なんですわ。
……それにしても、さっきまで結構べらべらと推理を並べていた相羽くんは、マジカル三姉妹が来た途端、急に黙りましたわね。一体どうされたんでしょうか。
「どうしましたの? 相羽くん。すっかり呆けて……」
「――え? いや、だって、マジカル三姉妹とこんな近くで会えたんだぜ?
何しろ、サインが今、メルカリで二千円で売ってるとか……」
「それは邪悪な詐欺師よ! あれは悪質な偽サインだから騙されないで!」
えーっと緑のやつ――そうそう、マジカル委員長ですわ。案外名乗られてもすぐ忘れるものですわね。こいつがそう注意勧告してきましたわ。
それにしても、メルカリで二千円……って、有名人と呼ぶには大した事ないですわね。
まあ、何にせよメディア露出が皆無すぎてサインがどうのというほどの公人ではないのでしょうけど。
「とりあえず、あの三人はもう友人たちのもとに帰したから、あなたたちは大人しく、私たちについてきて。というか、大人しく助けられてください」
「わかった! 大人しく助けられる!」
相羽くんが、テンションを高めて頷いていますわね。
怖い物知らずのくせに女性にだけは弱いというか何というか、調子の良さには見ていて呆れますわ。ファントムお嬢様となったワタクシに対しては平然としてましたのに。
「そうですわね……大人しく助けられましょうか。
ワタクシを助ける事を光栄に思いなさいな」
「あー、うん……」
とりあえず、ワタクシとしてもマジカル三姉妹と共に逃走する準備は完了していますから、色々言いたい事は押し込めて、彼女らの指示通りについていく事にいたしましょう。
すっかりここで一夜を明かすつもりでしたが、冷静に考えてみると、誰がこんな殺人ロボットがいるような場所で寝られるかという感じもしますし。
――と。
そうですわよ。
ダメじゃありませんか。
「相羽くん、ちょっと」
相羽くんを手招きして、耳打ちですわ。あの三名に聞かれると少々困りますので。
「何?」
「何? じゃありませんわよ。
このまま帰るとして、この外にいる奴。あれどう処理するつもりですの?」
「あっ、やべ、忘れてた」
「無責任な事言わないでくださいまし。
あいつを処理しない事には、帰るに帰れませんわよ」
「あーーーマジでどうしよ」
悩んでますわね。ワタクシもほんとあいつだけ気がかりですわ。
魔法少女の三名は、この研究所の入り口であいつを見なかったんでしょうか。……まあ、どっちにしろ無視しただけかと思うのですけれど。
いま、この秘密基地の入り口前で放置されているあの殺人ロボットJASON-SKは、果たして、どう処理すべきか――と。
「ア、アアアアア、アアアアア…………」
そんな最中、なんだかすごく嫌な声が研究所の向こうの廊下から響いてくるのが聞こえましたわ。
嫌な予感。
ものすごく、嫌な予感ですわ。
ワタクシたちのもとに――殺人ロボットが接近しているうえ、この周囲はおそらくそいつに荒らされてはならないモノばかりで構成されてますもの……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆




