第6新卒:『大変!ママが女番長!』その6(終)
【青山未羽】
――と、ゆーわけで、まあ色々あったけど、戦いが全部終わって、ウチらは四人、家に帰っていた。
ウチはサボってたし、外に出てた生徒は特に避難指示もないまま逃げていったから、委員長がいなくなっていた事も、あんまりバレなかったみたい。
そんなんでこの学校大丈夫なのかとか、ご都合主義とかって言うかもしれないけど、この際どうでもいいじゃん。
とにかく、これで学校は休校だ。ラッキー。
ウチらは教室行って鞄だけ返してもらって、家に帰る為にいつもの道。まだまだ時間はお昼くらい。
「いつもより早く帰れるっていいね!」
「ミウちゃん今日登校してすらないわよ」
「どーせ美術の途中で終わりだし、サボリ得サボリ得。
みんな多分、今頃ゲーセンカラオケ買い物帰宅で楽しいだろうなー」
まあ、とにかく、なんやらかんやらあったけど、キャプテン・コバルトマリンも無事撃破して、極悪帝国もかなり倒せてるし、案外ウチらもうまく戦えてるのかな。
そろそろ音楽とかかけながら戦ってみるの、どうだろ。小説映えしないかな。
「……ねえ、番長、昨日ごめんね」
ウチは、とりあえず、あんまり重くないノリでそう言った。
今日は――なんだか、「みんないたから勝った」って気がする。
大した事はしてないはずなのに、本当にそんな感じがする。
「いや。それを言ったら、アタシの方こそ……」
「――では、ここは、三人それぞれ、そこそこにごめんなさいという事で」
うん。それがいいや。一番いい。
テキトーに謝って、テキトーに解決で戻っちゃえばいいや。
……それにしても、生身の番長が思ったより戦えてたっていうのはビックリだ。
なんか、本人によると、偶然なんとかなったみたいだけど、それでも凄い。鉄砲の弾とかも効かない奴らだし。
一応、魔法の矢を物理で叩いたから効いたのかもしんないけどね。
そんな事を考えて歩いていたら、番長ママが突然口を開いた。
「ねえ、いちごちゃん」
「えっ、今度は何?」
番長ママが突然止まったから、ウチらも全員で立ち止まった。
見ていたら、番長ママはポケットから、ルミナスエッグとマジカルベルを取り出す。
「……今日のあなたを見てて思ったの。
――やっぱり、マジカル女番長は、わたしじゃないわ。
たとえ、あなたが力をいらないと言ったしても……
いま、この力が地球のどこかにあるのなら
――この力は、あなたが持つべきよ、いちごちゃん」
番長ママがこう言う。
うん。ウチも、正直そう思ってる。……たとえ番長がこのまま戦えるって言っても心配だし、今回偶然うまく行ったかもしれないけど、次からどうかはわからない。
確かにこの地球上に、もっと強く戦える人がいるかもしれない。
もっと、戦う為に安心できる仲間っているのかもしれない。
魔法値が高かったり、戦うのが強かったり、もしかしたら……番長よりも仲間を想う心が強い人って、探してみれば、やっぱどっかにいるのかもしれない。
それでも、ウチらはやっぱり、絶対、ここにいる番長の隣で戦いたいんだ。
こうして同じクラスで出会って、一緒の日に変身して、ウチより5~6cmか8~9cm……たぶん12cmくらい背が高くて、みんなブレザーなのに一人だけセーラー服着てて、『女番長』って書いてあるTシャツ着て、運動音痴で、心もどっか弱くて、でも優しくて、それで名前が「夢咲いちご」で――そんな番長とだから、一緒に戦える。
魔法値が超強くて頼りになる人よりも、ここにいる、絶対に友達を見捨てない「夢咲いちご」の隣で戦いたい。
ずっと、今のままだったら、悪いけどウチもきっと、いつか辞めちゃうと思う。
……そうだよね。
ウチらは、強い誰かのいる三人なんじゃない。
この三人が一緒だから、どんな敵より強い――そういうチームでいいんだ。
「だから、これ返すわ」
「御袋……」
番長ママは、ルミナスエッグとマジカルベルを番長に渡して、手をぎゅっと握った。
ルミナスエッグとマジカルベルが番長のもとで赤く光る。
ウチが聖なる光を手に入れた時、これと同じような青い光が灯ったのを、何となく覚えてる。――もう一度、その光を見たみたいだった。
「これって……」
……やっぱり、変身してないけど、魔法の反応が出てるみたい。
ウチはその目でそれを見て、すごく……驚く。ウチらはまだ、変身してない時にはあんまり使いこなせてないけど、強いとこんな事もできるんだ。
ワニワニンが委員長の鞄から、ひょこっと現れて言う。
「聖なる光が――もう一度いちごくんを選んでるんだね」
「えっ?」
「あの無尽蔵な魔法値を使えば、いつだって、何だって出来る。
……だから、夢咲さんは、聖なる光を、あるべきところに帰そうとしている。
――そういう事ですよね?」
番長ママが頷いた。
ワニワニンの言う通り、あの強い魔法を使って、魔法を返そうとしてるんだ。
「この力は、仲間を思いやれる
優しい子のもとに戻ろうとしているわ。
――だからもう、戦いの場にわたしのいる意味なんて、きっとないわね」
強い人間のところではなく、仲間を思いやれる人のところへ。
きっと、番長ママがそうじゃないってわけじゃなくて、番長がもっと、ウチらにとってそうだったって話で……。
だけど、それが、ウチらが使う力。
「そっか……うん、わかった。アタシ、これからも頑張るよ!」
――たぶん、もう聖なる力は戻し終わったんだと思う。
番長の手で、マジカルベルは五桁の数字を出してた。
ウチらとそんなに変わらない、一万六千って数字。最初の頃よりちょっと上がったかもしれないけど、それでもやっぱり番長ママとは比べものにはならない。
だけど、ウチには今は三人戻れた事が嬉しい。
この中で一番嬉しそうな満面の笑みなのは、番長だけど。
「――みんな、ありがとう。
それじゃあ、またよろしく!」
「「「オッケー!」」」
そうだよ。
やっぱりこれが一番良い。
なんだか、一番安心するのは、三人で明るく笑えた時なんだ。
「――さあ、帰りましょう。お昼ご飯、みんなでうちで食べる?」
「どうする?」
「お弁当もありますし、
今回極悪帝国が現れくれて学校も終わりましたし、じゃあそうしましょうか」
「でもまた次の授業であの女神像を描き直し……
なんだか私でも流石に面倒です……」
「次の事なんていーじゃん。また描けばいいし」
「ミウさん今日来てないじゃないですか。
……というか、カタコト治ったんですか?」
「今日のはサボリだから」
さて。
そういう事だから、ここらで今回のお話は切り上げるね。
それじゃあ、まあ、そういう事でこれからも、ウチら三人をよろしく。
【第6話:おしま「――――おーい、ですわぁーーーーー!」
わっ、なんだろ。
ウチが折角、心の中で【第6話:おしまい】って言おうとしてたのに、なんか、どっかから聞こえたでっかい声が邪魔した。
「おーーーーい!!! ですわーーーーーー!!!!」
うーん。超聞き覚えのある声だ。
見てみると、そこには手を振っているクリスがいた。
クリスも番長に対して、何か少し怒ってるみたいだ。
「……もう、二人とも、
帰ってないみたいで、心配しましたのよ!」
「えっ、クリス!」
「何しろワタクシ、鍵持ってない鍵っ子ですのよ!?
帰ってみたら家に入れなくて、家の前で絶望しましたわ!」
「あ、忘れてた、ごめん!」
「――というか、あら、皆さんお揃いでしたのね。
ごきのげんのよう。……それにしても一条さん」
「いちご」
「失礼」
まだ名前覚えてないの。
とにかく、ウチと委員長はとりあえず、クリスに一例。
「まあ、とりあえず叱った後ですから褒めますわ」
「えっ、何を!?」
「今日の事に決まってるじゃあありませんか。
……まさしく、今日はその胸の志を見せていて、
なかなか素敵でしたもの。
さあ、あの調子で、是非このままあの極悪帝国を
――そう、憎き呪武者ヒラギィたちを、
ワタクシといちごさんたちの手で殲滅いたしましょう!!
おーーーっほっほっほっ!!」
うーん。なんか、ものすごく憎々しく笑ってる。
なんだろ。こうしてみると、クリスの高笑いって、誰かに似てるんだよね。
しかも、マジカル三姉妹の話は意地でもしないって。
ワニワニンも、「どこかで見た事あるような」って言ってなぁ。クリスって何者なんだろ。ほんとに親の話とか知らないし。
あんまり詮索するのも何だけどさ。
「……まあ、なんでもいいけど、それじゃあ、みんなで帰ろっか」
まあいっか。
どうせ伏線なんだし、あとになればわかるでしょ。
今はご飯ご飯~と。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
【黄島クリスティーヌ】
……さて、時間は飛びまして、オチ、もといバイトの時間がやってまいりましたわ。
今日は、相羽くんと同じシフトで、前回被った時と同様、相羽くんの饒舌なお話を聞きながらのお仕事。
はてさて、どんな軽口が飛んでくる事やら。
「いやあ、まさか学校に極悪帝国が来るなんてな……
まあ、お陰で午後から纏めて休みですげえ助かったけど」
「ワタクシは家に帰れなくなって絶望しましたわ」
「ああ、そっか……。あの夢咲さんと一緒だもんな」
「ええ、鍵を持たされているのはトマトさんの方ですから。
ワタクシ、鍵のない鍵っ子状態でしたわよ」
「それはたぶん鍵っ子ではない」
「そうですの? じゃあ、っ子ですの? っ子」
「――それにしても、大変だったなあ、今日は。
……でも、なんか、あれ見て俺も頑張らなきゃって気持ちになったよ。
俺も何かの為、誰かの為に命を張れる人間にならないと」
なんか質問を無視されましたが、どうやら、彼もトマトさんの活躍に感銘を受けたひとりのようです。
しかしながら、魔法なき身で敵を倒すのはなかなか困難。あのキャプテン・コバルトマリン小隊長は元々そこそこ体術の成績が良い小隊長だったので、ヒヤヒヤさせられました。
まあワタクシならば、いざという時は極悪帝国でもマジカル三姉妹でも倒せるのですが……ええ、簡単に見せるわけにはいきません。
何しろ、今は「逃亡中の身」。――残念ですが、もし、今後あのような状況になっても、ワタクシに出来るのは、見ている事くらいですわ。
もし今、世界にバレたら、ワタクシ極刑の可能性ありますから。しばらくは能ある鷹も、ツメを隠させてもらわないと。
「――まあ、それはそれとして、
どうやら、こっちの方もうまく行ったみたいで良かったよ」
「こっちの方? 何の事ですの?」
「ほら、あの入れ替わり薬。
入れ替わり薬を入れ替えても全然バレなかったみたいだ」
「管理する人間は何をしているんでしょうか……」
と思いましたが、その役目は我々ですわね。それを高校生バイトに任せて良かったのでしょうか。
まあいいですわ。
「――今日ちょうど実験があったみたいだけど、勿論効果ナシ。
偽入れ替わり薬は、失敗作だって言って、流し台に捨てたみたいだ。
開発者には、
『あれが完成したらもう一度科学の悪用をして世界を牛耳りたい!』
って意気込みがあったらしくて、さっきちょっと落ち込んでたぜ」
「とにかく、うまく誤魔化せましたか」
「うん。
でも、あれ一個作るのに
だいたい四億円かかったって聞かされて冷や汗かいたよ。
まさか、四億もかけて作った薬がかき氷のシロップに
すり替えられるなんて思わなかっただろうな」
「よくその程度の驚きで済みますわね……。
四億円……それだけあったら、ワタクシの学費……生活費……」
落胆ですわ。
あれをあんな事で消費してしまったとは……。
まあ、持っていても仕方がなかったのでしょうけど、万が一盗んでどこかに売ってたらとか考えてしまいますわね。
それに、あんなくだらないものに四億円かけるなら、そのうちの一億円くらいくれたっていいじゃありませんか。
……しかしながら、悔いても仕方がありません。ワタクシもここで働きながら、出世して、時給四億円の女を目指せばいいだけの話。
相羽くんは既に切り替えているのか、四億円を消費した事への驚きもないようですわ。――というか、この方、本当に何をしたら驚きますの?
「……あ、そうだ、相羽くん」
まあ、ともかく、ワタクシからそんな相羽くんにプレゼントがあるのでしたわ。何度も言うように、ちゃっかり買ってきたのです。
ワタクシは、バッグからそれを取り出します。
「――あなたからの四億円相当のプレゼントには
敵わないかもしれませんが、これはワタクシから相羽くんにですわ」
「えっ、何で……?」
「ええ、何しろ折角のお給料ですもの。
学費の分とは別に、ワタクシは、
親しくしてくれる相手すべてに、
まずは何かお礼をいたしたいと考えてますのよ。
つまりは、『義理と人情』です。
……しかし、何が良かったかわからないもので、嬉しいかはわかりませんが」
「何だろう。まあ、嬉しいよ、気持ちだから、なんだっていい。
それに俺、女の子にプレゼント貰うなんて初めてだし」
「とりあえず、Tシャツですわ。トマトさんにも同じシリーズのTシャツをあげましたのよ」
ええ、ただ、何て書いてあるのかはよくわかりませんし、辞書の「愛」のところを引いてもそこから先の単語があんまりわかりませんでしたが……。
相羽くん宛てのTシャツには、「愛」のほか、様々なわけわかんない字が書いてあります。まあ意味ありげでカッコよかったので、ひとまずこれをプレゼントしておけば満足するでしょう。
漢字が書いてあればとりあえずカッコいいんです。
それが真理ですわ。
「えええっ!? ……えっ!?」
……いま、この文字を見て、なんかものすごく驚いたようですし、ワタクシの顔を二度見していますが。
自分のバイト先が悪の組織だと知らされても、自分の母星が宇宙人や地底人に狙われていたと知らされても、自分が台無しにした商品が四億円だと知らされても、けろっとしている相羽くんが……一体、この文字はどんな暗号だったのでしょう。
なんか間違えましたか?
なんだか、それからしばらく、饒舌だった相羽くんが頭を抱えだし、何故かこっちを見ず、急に喋らなくなりましたわ。
相羽くんが何かつぶやいたのも聞こえましたけど、相羽くんにしては、やたらと小さな声でしたわね……。
「愛羅武勇……」
【第6話:おわり】
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