第6新卒:『大変!ママが女番長!』その5
【緑川綾香】
この私立サンテグジュペリ学園は、とても自由な校風ですが、ただ部外者の立ち入りを許可していません。
保護者であっても、授業が始まってからは校門の警備室に声をかけて貰わないと、立ち入りする事はできないのです。かつては開放されていたらしいのですが、まあ時代が時代です。不便になるところも多いようです。
……そんな私たちの学校の校庭に、侵入者が現れたのは、その日の一時限目でした。
私たちのクラスは、丁度その時間が美術で、校庭に出て『自由な自由の女神像』の写生を行えと言われていた最中でした。
ちなみに、自由な自由の女神像は、魔法のステッキを持った萌えキャラ調の人物が自由の女神と同じ服を着て同じポーズを取っている像で、五年ほど前の卒業制作だそうです。
小等部から聞こえる童謡の『海』の美しいハーモニーをバックに『自由な自由の女神像』を描きつつ、何となく昨日の敵の事を思い出していたら、空に突然闇が広がり、その中から本当に学校にキャプテン・コバルトマリンさんが現れました。
極悪帝国がたびたび午後に出現していたのは、単なるご都合主義に過ぎなかったのでしょう。
「いい歌だ……海はいいよなぁ~? ワガハイも海を愛しているぞ!」
丁度、我々の真ん前でそれは起きたので、キャプテン・コバルトマリンさんは私たちにそんな風に問いかけていました。
良識ある生徒は逃げ、楽観的な生徒は興味本位で彼を見て、写生に夢中で気づかない生徒は一心不乱に『自由な自由の女神像』を描き続け、さぼって寝ている生徒は起こされています。
どこかでは、誰かが警報ベルを押したらしく、校内の音は一斉に止まって、ざわめきに変わりました。
「誰だお前!?」
「ワガハイは、キャプテン・コバルトマリン!
極悪帝国の侵略者だ! 地球の諸君、一日ぶりだな……!」
「どうよ調子は!?」
「絶好調よ!
……そう、確かに昨日、ワガハイは、
ワガハイ自らが改造した機装兵・改すべてを失った!
しかも、マジカル女番長は強すぎる、勝てそうにない!!
ワガハイは、途方に暮れ、ずっと海を眺めていた!!」
「海はどうだったー?」
「広かった!!!」
誰ですか、さっきから質問している人たちは。
明らかに生徒のようでしたけど。……まあ、この学校で変人は珍しくないので、後で逃げて貰えばいいでしょう。
敵は、反り返った長い刀剣を手に演説を続けました。
「――しかし、ワガハイはそんな海を見ていて思ったのだ!!
強いとか弱いとか、勝つとか負けるとか、
叶うとか叶わないとかではなく
……そう、とにかくワガハイは、ワガハイ自身の夢の為
……この世界で大海原を旅する為に、全力をかけて戦いたいのだ!!
そうでなければ、きっと後悔する!!
航海できずとも、後悔はしたくない!!」
だから、それが夢なら、パスポートを取得して旅行しに来ればいいじゃありませんか。
……私はそう思うのですが、侵略者はたぶん耳を貸す事はないでしょう。何しろ彼らは侵略者ですから。
「……とりあえず、私はどこかで変身しないと」
とにかく、ワーワー言いって逃げる生徒たちの中に、私は番長さんの方を一度見て、彼女が頷いてどこかへ行ったのを確認し、その後でこっそりと体育倉庫の裏へと行きます。体育倉庫の裏は小さな庭園です。
……どうやら、そこではどこかのクラスの男子生徒がまさしく人生の岐路に立たされている瞬間がありました。
「……俺、あなたの事がずっと好きでした!
俺と付き合ってください!」
「……」
「――そうですよね……。返事なんてできませんよね。
でも、もし、あなたが喋る事があったのなら、
俺はイエスと言わせてみせる!
そして、あなたがイエスと言ったなら、
俺はあなたを引っこ抜いて、家の庭に飾りたい!
それくらいあなたが好きなんだ!」
そこにいたのは、物言わぬ灌木に対して、ひたすらに愛の告白をする男子生徒です。
恋愛は自由ですし、許可を得てから持ち帰ろうとするのなら、それはまあ良いのですけど……今は凄く邪魔です。私がお邪魔なのかもしれませんが。
とにかく、終わりそうにないので、別の場所で変身するしか……。
「あっ、あんなところにちょうどいい証明写真機が!」
幸いにも、校庭には証明写真機があったので、私はその中に入ります。
なんでこんなところに証明写真機があるのかは置いといて、私はルミナスエッグで変身です。
魔法の袴にキラキラ空間で袖を通し、無事変身完了。
これによって、私はマジカル委員長へと相成るのです。
ワニワニンさんを抱えて、出動します。
「ワニワニンさん、いくわよ!」
「合点だい!」
「……突然どうしたんですか?」
「いや、社内マニュアルの出動時の掛け声の一例。
とりあえず試しに使ってみたんだ」
「そうですか……」
さて、どうせ変身後の写真が証明写真機の排出口から出てくるというオチだと思うので、写真を取り出して、私はそれをポケットに入れて行きます。
これを誰かに取られるヘマはしません。
ええ、ばっちり可愛く撮れているじゃないですか。
「――とにかく行きましょうっ!」
私は急いで戦いの現場へと赴きます。
まあ、距離も近いので、今回は特に魔法の箒は使わず、徒歩なら一分程度。
私は五秒で駆け付ける事ができました。
キャプテン・コバルトマリンは、何やら相変わらず剣を振り回しながら叫んでいます。
「――さあ、この合衆国の象徴たる自由の女神像を破壊されたくなかったら、
早く来い、大統領よ!!」
どうやら、校庭の小さな像のせいで、ここをアメリカだと思い込んでいるようです。
都合が良いとばかりに、大統領を要求しています。
「どうした!?
大統領が呼べないならば、この自由の女神像は破壊するぞ!!
合衆国の民は自由の女神像の崩落に激しく落胆するだろう!」
「そうはさせないわ!
そして、それは、自由の女神像ではなく、自由な自由の女神像よ!」
「むっ、マジカル委員長!
……そうか、それならば、今すぐ大統領に、
自由な自由の女神像を破壊されたくなければここに来いと伝えろ!!」
「それは自由な自由の女神像であって、
自由の女神像ではないから、大統領は決して来ないわ!
だって、合衆国の人間に大事なのは、
自由な自由の女神像ではなく、自由の女神像だから!」
「そ、そうか、これは自由の女神像ではなく、
自由な自由の女神像だったのかっ!!
くっ、よく見れば全然違う……謀ったな!?」
「あなたが勝手に自由な自由の女神像を、
自由の女神像と勘違いしたのよ!
私たちはその自由な自由の女神像を自由の女神像だなんて一言も言ってないもの!」
「しかし、自由な自由の……あー、もうわけがわからん!!
紛らわしいものを作りおって!!
どっちにしろ、むかつくから破壊してやる!!」
相手が癇癪を起した以上、言い合いには勝ったようです。
それにしても、何故、極悪帝国の人間は頑なに大統領が来ると思っているのでしょう。……少なくとも、この国には大統領はいないという事をそろそろ勉強して報告し合った方が良いと思うのですが。
そんな中、逃げ遅れた男子生徒の方からヤジが飛びました。
「バーカ、勝手にしろ!
そんなもん描かずに済むから願ったり叶ったりだ! さっさと壊しちまえ!」
ピクニックシートを引いてくつろいでますし、逃げ遅れているというか、逃げる気がないようにすらみえますが……とにかく、私はこの状況でも委員長です。
このように美術の授業に対するモチベーションが低い生徒を放置するわけにはいきません。
「ダメよ、この学校の資産は絶対に破壊させない!
敵のあなたには破壊させないし、
なおかつ、ここの生徒には授業をサボらせないわ!
あなたは帝国に帰って! 生徒のみんなは早く逃げて!!」
「汝、何の権限があってそんな事を言う!?」
「――――委員長権限よ!!!!」
男子生徒たちは、私のその言葉に対し、「委員長が言うなら仕方ない」とばかりに、ピクニックシートを畳んで逃げ出していきました。
しかしながら、私の持つ委員長というブランドは、異世界のキャプテン・コバルトマリンさんにはあまり効かないようです。
「……ふん、ワガハイを縛れるのは、広大な海だけよ!
汝を倒して自由な自由の女神像を破壊してやる!!」
「かかってきなさい……
魔法の二刀流!! 銅砂地、栗砂地!!」
「いくぞ、野郎ども!!」
私は二刀流を構えて迎え撃ちますが、お互いに一歩も退くことがありません。
私は俊足で駆け出し、二刀流で敵の剣を封じます。刃と刃がまじりあい、それはもう、お互い譲らぬ剣捌きで戦い合います。
しかし、そんな中で、彼はこちらの追撃を読み、防御してはこちらの一瞬の隙を突いて攻撃してくるのです。
私は描写するのも野暮な超ハイスピード刀剣バトルの末に、私はかなり一方的に攻撃を受けまくり、何歩か退きます。
「きゃあっ!! この人、ほんとに強いわ……!!」
「ふふふ。
この海賊剣には、散って行った機装兵・改たちの怒りが込められているのだ!!
ワガハイの夢の為に産み落とされ、ワガハイの夢の為に消えた野郎ども……
たとえ機械に心がなかったとしても、壊れて残骸となったとしても、
奴らの存在がワガハイの力となる!! ここで挫けては申し訳が立たんというもの!!」
「だから、それなら旅行で来ればいいでしょう!?」
「それではロマンがないっ!!」
言葉だけ聞くと悪い人には見えないのですが、変な拘りがあるようです。
とにかく、強いのはプログラミング技術とプログラムされた戦闘ロボットだけではないというのが明らかになってきたところで、私は一度弱音を吐きました。
「くっ……でもどっちにしろ一人で勝てる相手じゃないわ……!
今の激戦で、力も著しく消耗しすぎてしまった……!
やっぱり想いの力って敵が使っても強いのね……」
地球侵略軍、なんだかんだ言ってもなかなかの手練ればかり……。これまでの敵もやたらと強い人が多かったですし。
早く味方が来ないと、私も一人で相手するのは難しそうです。
そろそろ連絡も行ったかとは思うのですが、昼間に来られたら番長さんのお母さんも場合によってはパートなどで来られないかもしれませんし、ミウさんなどは今日は風邪でカタコトになってお休みだそうですし……。
本当に来てくれるんでしょうか。
ここは、とにかく、体力と時間の許す限り一人で持ちこたえるしか。
「――そこまでだっ!!」
……と、その時でした。
苦戦する私の前に、何かハスキーな声が聞こえ、救援の意思らしき語調が耳に入ったのは。
私が声の主を探るよりも先に、キャプテン・コバルトマリンさんが問いかけます。
まさか……まさか、この人は。
「な、なんだ、汝は……!?」
そう、その先にいたのは――番長さん、夢咲いちごでした。
ただし、マジカル女番長ではなく――ただいつもの黒いセーラー服を着て、両手に手袋を着用して、木刀……ん? えっと、この、短い……え、木刀……? ……ええ、多分そうでしょう……とにかく、木刀を持った番長さんが、太陽の光を背に立っています。
「――アタシは……
私立サンテグジュペリ学園高等部、女だてらに番長をやっている者だ!
そこのマジカル委員長を助けに来たんだよ!!」
相変わらずの高い背丈に長い髪、漆黒のセーラー服と鋭い目つき。
その凛とした立ち振る舞いはあまりに強そうでしたが、魔法のない彼女では、強敵に勝てるわけがありません。
先ほど逃げたのを見送ったのですが……彼女は、ただ持てる道具を持ってここに帰ってきただけだったのです。
「あ、危ないわ……逃げて!」
私は言いますが、番長さんは首を振ります。
「番長だとぉ!? しかし、マジカル女番長ではないな……一体、何者!?」
「マジカル女番長じゃないなら……ただの女番長に決まってるだろ! お前をぶっ潰す!」
そう言って、手を横に揺らす典型的な女走りのフォームで駆けだした番長さん。敵をひきつける為の囮になるつもりなのかと思いきや、本当に生身でも戦おうとしているのです。
私は思わず、彼女が心配で叫びます。
「本当に危ない……! そんなフォームで走ってきて、この敵に勝てるわけがない!」
「やってみなきゃわからない!」
「やらなくてもわかるわ!」
「アタシにはこの木刀もある!」
「そんな木刀じゃ無理よ! 木刀じゃないもの!」
「何もしないよりはマシだ!」
「何もしない方がマシだから早く逃げて!」
しかし、番長さんは聞く耳を持ちません。
「ふん、邪魔をするなら誰であろうと容赦はしない!
命を奪わないよううまく調整して攻撃してやる!!」
私の呼びかけもむなしく、キャプテン・コバルトマリンさんはそう言って、向かって来る番長さんに向けて海賊剣を振るいます。
本人曰く手加減しているらしいとはいえ、傍目から見て到底そうは見えません。
「あだっ!」
しかし、番長さんはたまたま落ちていた地面の小石に突っかかって、転んでいます。
それが幸いとなって、キャプテン・コバルトマリンさんの攻撃は虚空を斬ったようですが。
「ぐぬ、やるなっ……さすがはマジカル女番長ではないとはいえ、女番長だ」
「だろっ!? 全部、計算通りだ!
それっ! コイツを食らえっ! ボカボカボカッ!」
「いてっ! いてっ! いてっ!」
転んだ番長さんは、そのまま、あの木刀のようなもの――というか、これもしかして肩たたき棒?――を敵の脛に何度か叩きつけました。
敵も少々痛がってはいるようですが、大きな効果が見られているとは思えません。……ただ、昨日の戦いも含めて、私たちは一撃も彼に攻撃を加えてないので、事実上、これが最初の敵へのダメージとなるんでしょうか。
そのまま、番長さんは立ち上がります。
「……はぁ……はぁ……」
「なんだ、もう息があがっているのか……」
「あんたもなかなかやるじゃないかい……」
番長さんは、今の走りと攻撃で既に息があがっているようです。
校舎から見守る周囲の生徒や教師たちも、かなり心配で声をかけていきます。
「夢咲……無理しなくていい! お前は運動音痴だ!」
「そうよ、やられちゃうわ!」
「端的に言うと死ぬわ!」
「誰か止めろ! 無茶だ!」
「お前のような優しい奴の死はこれからのこの国の大きな損失になるんだぞ!」
「いいよ、夢咲! こんな学校なんて! 逃げろ! 早く逃げろ! バカ!」
くっ……先ほどの戦いのダメージで力が出し切れないのが悔しい状況です。
そのうえ、力がある私ですら、このまま向かっていく事に少々の恐ろしささえ覚えるというのに。
こう言われても、番長さんは一歩たりとも退きません。
「――ああ、でもな……
たとえ力がなくても、たとえ弱くても、
何の役に立たないとしても……
困ってる仲間は見捨てないし、最後まで自分の全力で戦う!
それがアタシの憧れるやり方なんだっ!!」
その言葉に、全員がはっとして黙ります。
私も――彼女の事情をよく知っている私は、この中で一番はっとした人間でしょう。
……番長さん。
まさか、そんなに強い覚悟を持っていたなんて……。
肩たたき棒を持ちながら、再び番長さんは敵に立ち向かいます。その姿は、不格好ですが、強い意思に満ち溢れています。
……そうだ、私も彼女を止めるだけでなく、何か、自分に出来る事を!
「汝の心意気には激しい共感を覚えるぞ!
汝をワガハイの、強敵と認めようっ!
……が、それでも、ぶつかるのがワガハイたちの宿命よっ!」
「あっ!?」
キャプテン・コバルトマリンさんは、そう言いながら、海賊剣で番長さんのセーラー服の上着を縦一文字に斬り裂きました。
斬り裂かれたセーラー服の隙間から、その下が映ります。パシャパシャとフラッシュが焚かれた様子がありましたが……気のせいでしょう。私はそう思いたいです。
「――せ、制服代かえせっ!」
幸いにもセーラー服の下はTシャツを着ていたらしく、敵の精密な刀捌きではその下まで斬らずに済んだようです。
私は内心、ほっとします。公衆の面前で乙女が下着や裸身を明かすなど、あまりにも可哀想です。まして、どこかのバカがカメラを焚いている最中では余計に。
「なんだあのTシャツ……」
「ダサッ……」
「こんな状況なのにセンスを疑ってしまうわ!」
「あら、あれはワタクシのプレゼントの……着ててくださったんですか……」
しかし……Tシャツにも「女番長」などと書いてあり、なんだか奇妙なデザインだったせいか、窓の内側から様々な声が聞こえます。
明らかに番長さんより一回り小さなSサイズかMサイズのTシャツだったのか、かなりぱっつんぱっつんできわどいのですが……これは誰かが買い間違えたんでしょう。お陰で、まだカメラのフラッシュが止まりません。
とにかく、私は番長さんが惹きつけている間に、魔法の弓と矢をそっと準備します。
心なしか、敵さんもちょっと鼻の下を伸ばしているようですし、チャンスです。
「ふはは。
……その気になれば体を、
いや、その前に、そのTシャツから順番に一枚ずつ斬り裂く事さえできるのだっ!
だから、強敵よ、そこを動くなっ!
……じゃなかった、今すぐ撤退せよっ! さすれば、命は保証する!」
「退かない……ここで退いたら、女番長の名が廃るっ!」
「ムフフ。ならば仕方ない……っ!」
――――すとんっ。
と、話しているうちに私からの餞別です。
敵である彼が番長さんに集中している隙に、こうして一撃見舞ってしまえば良いのです。
私の一撃は見事、真横から敵の型に突き刺さります。……えっと、勿論、血は出ませんし、魔法で修正すべき仮想ダメージが伝わるだけです。
ここにずっといた伏兵の事を、どうやら忘れていたようですね。
「あっ……! 不意打ちとは、やられたっ!」
「今です、女番長さん!
今放った矢には麻痺効果があるのでその人はしばらく動けません!
矢を叩きまくって、ダメージを広げてください!」
私は即座に、彼女に向けて指示します。
今ならば更にダメージは広がるはず。呆然とする敵を横目に、番長さんはコクリと頷きました。
「よし、わかった!」
「げげげっ! 痛いっ!!」
ガン、ガン、ガン、ガン、ガン。
番長さんが釘打ちの要領でひたすら矢を叩きまくると、その矢が更に深く刺さり、振動などで更に敵への仮想ダメージが増加。
木刀よりもヒットが短く、軽く、振り回しやすい仕様なので、肩たたき棒なら番長さんのような非力であっても問題なくこうしたダメージ拡大が可能です。
「ああああああああっ!!
こ、これは思ったより結構なダメージだ!!
反撃できんっ!! やられるっ!!」
「よしっ! 効いてるらしい!」
悶絶する敵さんにある程度ダメージを与えたところで、今度はどこかから音が鳴りました。
――――ぱらりらぱらりら。
私たちが空を駆ける時の音。
それは、赤と青の流星が遅れて現れた事を意味します。
どうやら、これで三人揃う事が叶ったようですね。……風邪が心配ですが。
「ごめん遅れた……って、ちょ、ちょっとバン……きみ!!
なんでそんなもので戦ってるの!! 危ないよ!?」
早速、現れた青の魔法少女――マジカルギャルが仰天しています。
まさか、番長さんが肩たたき棒で戦っていようとは思わなかったでしょう。肩たたき棒で矢を沈めてダメージを与える地味な戦法で、敵が痛めつけられています。
「これがアタシの木刀だから!」
「いやいや、肩たたき棒だよ!?」
やっぱり肩たたき棒でしたか……。
まあ、とにかくマジカルギャルさんはこう言うのですが――現実に、今ダメージを与えているのは、その肩たたき棒です。
私はずっと見ていました。
敵は肩に激しくめり込んだ矢に悶絶しています。
「ううん。アタシは、この“木刀”のお陰で勝てたんだ。
“これをくれた友達”には感謝しないとな
……だから、その友達とは、これからも友達でいる」
そう言って、番長さんはマジカルギャルさんと私の方を見ました。
マジカルギャルさんは、何かに気づいて少々照れているようです。私も少し照れますね。
とりあえず、今、水面下で我々三人の和解が成立したようですし、シメに入りましょう。
「……アタシには、特別な力はいらない。
たくさんの仲間がいる事が、その想いがアタシの強さだから」
「番長……」
「そうだよ、それだけあれば……アタシは憧れに近づけるっ!
たとえ、魔法がなくても……アタシは女番長だっ!!」
そんな宣言とともに、私たちは番長さんたちと横並びになりました。
海外のヒーローチームが円形に並んで外を向いていますが、我々はとりあえず全員の顔を一方向で見せる為に横に並びます。それがお国柄です。
全員の視線もまた、その向こうにいる敵を同じように映しているに違いありません。
四人全員で、敵の前に立つと、ようやく麻痺効果が切れてきたのか、敵が動き出して、私たちに問いかけました。
「汝ら、一体、何者だ……?」
何度訊けば気が済むのかはわかりませんが、これを訊かれないとこちらも困ります。
なので、平常通り名乗る事にしましょう。
「アタシたちは、ただの……力を持たない人間と、暴走族だよ……!!」
ええ、キマリです。
さて、こうなったところで、現・マジカル女番長さんが、私たちではなく、番長さんに声をかけます。
彼女は、躊躇する事なく、ただ小さな声で自分の娘に語り掛けました。
「……行きましょう、いちごちゃん」
「うん」
「あなたと、クリスちゃんが通っている高校をこんな海賊に侵略させないわ!」
その小さな言葉に頷く番長さん。
そう、我々にとっても大事な学校ですが、この人にとっても自分の預かる二人の娘が通っている大事な学校。
番長さんから交互にフレーズを分担して、彼女たちは二人で名乗りをあげます。
「邪なる魔物の薔薇の舞、今宵咲かせて魅せましょう……」
「明日の命があるのなら、それを捨てても往きましょう……」
「走りに命懸けてます!」
「来れるもんならついといで!!」
「初代魔法連合、魔侍華流女番長!! ……紅魔利子・御袋!! 推参!!」
「私立サンテグジュペリ学園高等部、一年三組女番長……夢咲いちご!! 見参!!」
ダブル番長の二人名乗りです。
この二人が親子だと、誰が気づくものでしょうか。私とマジカルギャルさんと、ワニワニンさんと、あとこの二人しか知り得ないはずです。
なんだかそれって、少し興奮しますね。
「ゥチは、正義のヒーロー、マジカルギャル♪
またの名をクレープちゃん♪ ダヨー★
よろしくねー(^^)」
彼女の名乗りもそろそろ工夫がほしいですが、パターンです。
あまり工夫を促しても、それは無茶ぶりというもの。
さて、そこで毎度、しっかり工夫のある私から是非、今回の一句を発表したいと思います。
「ここで一句。
――――広い海
――――うみもひろいも
――――我が家族
……以上。麗しの大和撫子、マジカル委員長」
海は普通に夏の季語。
今回の俳句には、「橋の下で拾った子供」も「産んだ子供」も家族として育てているこの優しいお母さまの心情が込められています。
勿論、敵の愛する「海」とかけた俳句です。
まあ、今回はあまり、クリスさんとの絆については掘り下げていないかもしれませんでしたが……。
「「「「魔法の海上保安庁! マジカル三姉妹!!!!」」」」
「たとえ生身でも」
「この世を荒らす……」
「不埒な輩に……」
「女の決闘、申し込むっ!」
「「「「覚悟しなっ!!!!」」」」
――そんなわけでこの後ワニワニンさんにワニワニバズーカになってもらい、無事キャプテン・コバルトマリンさんは倒れ、元の世界へと帰ってもらいました。
もはやこれ以上の戦闘は本旨と関係ないですし、パターンで面倒なので、詳細は省きます。その辺は是非、各々想像してください。
ただ、そうですね……キャプテン・コバルトマリンさんは、きっと、散った仲間たちを胸に、これからもどこかの海を旅していくのでしょう。
えっと……今回の戦闘のシメについては、そんな感じでどうですか?
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