第三章 忘却の想い【2】
意識の覚醒に合わせて、ゆっくりと目蓋を開く。
目に映るのは見慣れた天井。
僕の部屋のものだ。
あれ。
どうして僕はここにいるんだろう。
いつ、眠ったんだろう。
というか、なんだろう、これ。
目元が妙に湿っていて、僕は手でそれを拭う。
拭きとると、手には少しの湿り気が残る。
もしかして、眠っている間に泣いていたのかな。
特に、嫌な夢を見ていたとか、そういうことはないんだけどなぁ。
とりあえず、と、体を起こして、部屋を出る。
廊下の明かりは消えていて、居間のみに明かりが灯っている。
僕は光に吸い寄せられる虫のように、その光に向かう。
「おや、兄さん。おはようございます」
「えっ、あぁ。おはよう」
居間に入ると、ソファに座って、テレビを見ている響子がいた。
いや、響子だけじゃない。
「おはよう、恭平」
「うん、おはよう」
テーブルの席に着いた李桜もいる。
二人は僕が居間に入ってくると同時に、僕を見た。
なんというか、心配しているような、そんな目で。
僕はその視線に戸惑いながら、ちらりと時計に目をやる。
針が刺すのは二時と少し。
外の暗さから考えて、たぶん午前二時だろう。
いやまぁ、それはいいんだけど。
「二人はどうしてこんな時間まで起きているの?」
二人とも、夜更かしするタイプじゃないはずなんだけどな。
訊ねた僕には答えず、響子と李桜が互いの顔を見合う。
「どうやら、お前が言った通りみたいだな」
「ええ、そのようです」
「ん? なんの話?」
首を傾げる僕だったが、二人は僕には答えず。
すると、突然響子が立って、僕を見る。
「ところで兄さん」
「なに?」
「お腹、減っていませんか?」
言われてみれば、確かに減っている。
ということで、頷いて答えると、響子は早歩きでキッチンへと向かって行った。
そういえば、夕ご飯を食べた覚えがないな。
確か、昼は李桜と一緒に食べていたはずだけど。
……あれ、その後、僕はどうしたんだっけ。
んー、思い出せない。
なにをして、どうやって家まで戻って来て、いつ眠ったのかも。
まぁ、いいか。
忘れてしまうのは、なにもこれが初めてってわけでもないし。
なにか、あったんだろう。
僕は雑念を払うように頭を左右に振って、李桜の対面に座った。
その僕の姿をじぃっと見る李桜。
「なにかついてる?」
「いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」
と言われても。
なんだか様子のおかしい二人だな。




