第三章 忘却の想い【1】
「ねえ、どうして泣いているの?」
「ばっか、てめえ。これはないてんじゃねえよ」
「でも、目から涙が出てるよ?」
「お、男の子ってのはなぁ、ときどき目からあせが出るんだよ」
「もう、そうやって嘘つくんだから」
「うそじゃねえし、おれ、ないてねえし」
「はいはい……それで、なにがあったの?」
「……なんで、てめえに言わなくちゃいけねえんだよ」
「言ってくれなきゃ、どうも出来ないからだけど」
「べつに、おれはてめえにたよるつもりはねえし」
「そうやって虚勢ばっかり張ってると、女の子に嫌われるよ?」
「べつにきらわれてもいいし……つうか、むずかしいことば、つかうな」
「あぁ、ごめん」
「べつに、いいけどさ……」
「っと、そんなことより、何があったの? お姉ちゃんに相談してみなさい」
「お姉ちゃんって、とし、かわらねえだろうが」
「でも、難しい言葉とか、いっぱい知ってるよ」
「なんだそれ……」
「それに、誕生日だって私の方が早いし」
「てめえのたんじょうびなんて、しらないし」
「もう、ひどいなぁ。私はちゃんと知ってるのに」
「どうでもいいよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。どこに行くの?」
「帰る」
「帰るって、どこに? 帰れるの?」
「……」
「もう、本当にしょうがない子だなぁ」
「……なんだよ」
「一緒に、謝ってあげるから」
「て、てめえ! なんでしってるんだよっ!」
「見てたもん」
「ひ、ひでえ! のぞきはしちゃいけないんだって、学校でならわなかったのかよっ!」
「女の子はいいんだよ」
「なんでだよっ!」
「家政婦は見た、という素晴らしい言葉がそれを支えているの」
「なんかよくわからないけど、ぜってえちがうと思う……」
「細かいことは置いといて。私が一緒に謝ってあげるから、いこ?」
「……あやまったって、ゆるしてくれねえよ。あいつ、めちゃくちゃおこってたもん」
「そんなことないよ。兄妹で、それも双子なんだから、きっと、気持ちは伝わるよ」
「……そうかな」
「そうだよ」
「……わかったよ。あやまる」
「うん、良い子良い子」
「や、やめろ! 頭をなでるなっ!」
「ふふ、初い奴め」
「いみわかんねえ……」
「ははっ、うん。そういうまともなことを言えるようになったってことは、調子が出てきたってことだよ」
「おれはふちょうのとき、まともじゃないのかよ……」
「それはともかく」
「ん?」
「泣いちゃ、だめだよ?」
「だ、だから! ないてねえって!」
「あぁ、うん。わかってるわかってる。これは、次からの約束だから」
「……なんだよ、やくそくって」
「強い男の子っていうのは、どんなときも、泣いちゃいけないの。どんなに悲しいことがあっても、泣いちゃだめなの」
「……」
「でもね、大切な人が泣いているときは、泣いてあげて。一緒に、泣いて、慰めてあげて。あとは、大切な人が亡くなったときも、その人を想って、泣いてあげて」
「……よく、わかんねえ」
「うん」
「……でも、まぁ? おれは、つよい男だし? なくとか、ぜってえねえし?」
「うん、そうだね。今は、それでいいや」
「……?」
――約束だからね。きっと、きっと、守ってね、私の大切な……――




