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僕の愛しい吸血姫  作者: 大成ケンジ
第二幕―最強の妖魔――
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断章 『彼女』

「どういうことなんだ?」



「……」



兄さんの部屋を出ると、天川さんが訊ねてくる。



私はそれに返事をせず、居間へと戻る。



それが、着いてくることを示していると気づいてくれた天川さんは、私の後ろを歩く。



居間の扉を閉めて、テーブルの席に着いて、天川さんは私の対面に座る。



そこで私は口を開いた。



「初めてじゃないんですよ、これは」



「なに?」



そう、初めてじゃない。



兄さんが、記憶を失ったのは。



「昔、まだ私たちが七歳とか、そのくらいのことです」



今でも覚えている。



あのときの光景を。



たぶん、私は一生その光景を忘れることはできない。



「兄さんは、事故に遭ったんです」



「事故?」



「はい」



頷いて肯定を示す。



「と言っても、兄さん自身が事故に遭ったわけではありません」



兄さんは傷ひとつない状態だった。



だけどそれは、外見だけだった。



あのとき、兄さんは確かに、壊れた。



「事故に遭ったのは、私たちと同い年の女の子でした。兄さんはその女の子と出かけていて、私は二人を追って、家を出ました」



そして、見つけた。



二人の姿を。



「血まみれの女の子を抱きかかえる兄さんが、そこにはいました。泣くわけでもなく、喚くわけでもなく。ただ、茫然と女の子を抱きかかえるだけでした」



でも、本当はそれだけじゃなかった。



兄さんは、確かに傷を負っていた。



「女の子は、助かりませんでした。救急車に運ばれたときにはもう、絶命していて。そして、兄さんはその場で意識を失って、倒れて、病院に運ばれました」



そして、と。



「目が覚めた兄さんは、覚えていませんでした。その日、なにがあったのかだけではなく、事故で亡くなった女の子のことも、すべて忘れていました」



「それは……精神的なものなのか?」



「お医者様の話では、事故のショックだろう、ということでした」



今回のことも、きっとそれが関係している。



だって、あのときと似たような状況にあるのだから。



『あの女の子』が亡くなって、兄さんは一度壊れた。



『アリーシアさん』に対する不安を覚えて、兄さんは壊れかけている。



そこに共通するのはただひとつ。



――兄さんが、『彼女』を愛しているということ――





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