第二章 嫉妬と誤解【11】
ふらふらと千鳥足で歩きながら、我が家を目指す。
傍らに、少し僕に怯える李桜を連れて。
泣いた。
あぁ、泣いてしまった。
女の子の目の前で。
しかも、本気で泣いてしまった。
みっともない。
情けない。
父さんがあの場にいたのなら、僕はきっと殴られている。
いや、父さんはそんなことしないか。
むしろ、僕を殴るのは母さんか。
母さんは鉄拳制裁の人だったからなぁ。
まぁ、今はいない二人は置いておいて。
李桜に泣く姿を見られてしまった僕は、割と本気で自分を殺したくなっていた。
泣く女の子を慰めるのならまだしも、自分が泣いて、そこから女の子に慰められるなんて、あってはいけないんだ。
僕は、そうあってはいけない。
いつかの昔、そんな約束をしたから。
なのに、僕は、泣いた。
自分の情けなさには反吐が出る。
こんなことを考える自分にも。
「お前、今日はおかしいぞ。なにか、あったのか?」
「あぁ、僕はおかしい。変態です。全然罵ってくれても構いません。むしろ、罵ってください」
「重症だな……」
「ありがとうございます」
「だからっ!」
あぁもう! と李桜が僕の胸倉を掴んで、僕をコンクリートの塀に叩きつける。
ぐふっと声を漏らした僕を真っ直ぐ見据えて、李桜が言う。
「どうしたというのだ! 私が知る伊浪恭平という男は、そのような腐った男ではなかったはずだぞ!」
「腐っててすいません……」
「違う! お前は腐ってなどいない! いや、いなかった!」
だんっと、一度引かれて、そこからもう一度塀に叩きつけられる。
「あの日、お前が見せた姿はどこへ消えた! 愛する者を守るために、己が命を燃やした男の姿は、どこへ行った!」
「……わからないんだ」
足の力が抜けて、そのままずるずると、地面に座り込む。
「守ろうって思って、誓って。それは、確かな僕の想いだったんだ。でも、わからないんだ。僕にも」
囁くような、弱々しい声を漏らした僕に合わせて、李桜はしゃがむ。
僕を打ち付けたときとは異なって、優しい声で、僕に語りかける。
「なにが、わからないんだ?」
「……アリーシアの気持ちだけだって、思っていた。でも、それだけじゃなかった。僕も、おかしいんだ。なにかが、おかしい。僕の中で、なにかが起きているんだ」
どうしようもない不安に駆られる。
それを自覚して、さらに不安になる。
時間が経つにつれて、それは増幅して、増幅して、僕を追い詰める。
今朝まではこんなんじゃなかった。
響子に話して、アリーシアの行動を見て、だんだんと、それは大きくなった。
どこまでも続く負のスパイラルが、僕を襲う。
今までにはなかったそれがなんなのか、僕にも理解できない。
だけど、それは間違いなく、僕を弱くする。
脆く、壊れやすい心に変えてしまっている。
……あぁ、まただ。
自然と涙が流れてくる。
どうしてだろう。
僕はいったい、なにがそんなに不安なんだろう。
僕はいったい、なにに怯えているんだろう。
わからない。
わからない。
なにも、わからない。
「あ、あぁ、うっ、くぅ……」
声を漏らさないように、唇を強く噛む。
噛んだことで、唇が裂けて、鉄の味が口内に広がる。
「……とりあえず、帰ろう。それから、話を聞くから」
「う、うぅ……」
李桜に体を支えられながら、僕は帰宅する。
僕は、いったいどうなってしまったんだろう。




