断章 過去からの刺客
町中を、揺らめくように、彼は闊歩する。
その場にはおおよそ不釣り合いな銀色の甲冑を着た、まるで仮装パーティから抜け出してきた様相の彼は、歩みを止めることなく、ただ進む。
それをだれも不思議に思わない。
いや、違う。
だれの目にも、彼の姿は目に映らない。
彼が甲冑に施した『魔術』によって、彼は自身の姿を隠しているのだ。
現在の彼を視認出来るのは、彼と同じ存在、あるいは仇為す存在のどちらか。
(気配は、二つ……いや、三つか)
五感を街全体に張り巡らせる。
(ひとつは、討ち人。もうひとつは、同種。残りのひとつは、あまりにも小さい。使い魔程度の魔力だが、我が感知するということは、おそらく使徒の類か)
感じた三つの存在を把握して、その三つがほとんど同じ場所にあることに気づく。
しかし、どうにも魔力の発生を感じない。
もし彼らが交戦中ならば、どちらかの力を感じるはずだが、それがない。
おかしい。
狩る存在と、狩られる存在がそろっているというのに、どうしてその場に戦いが起きないのか。
……まぁ、いい、と彼は思考を止める。
彼らが戦闘中であろうがなかろうが、自身には関係のないこと。
自身に関係がないことを考えるような無駄な行為を、彼は侵さない。
しかし、と歩みを止める。
彼にぶつかりそうになった子供が、それが当然とばかりに、彼を通り抜けた。
自身の存在を希薄にする『魔術』であるが故に、それは起こる。
存在しないものは、存在するものに影響を与えることは出来ないのだから。
彼は再び感覚を研ぎ澄まし、捉えた三つの中、その中でも彼と同種の存在の力を探る。
(不自然に、弱い。器そのものは大きいというのに、そこに注がれた力が異常なまでに少ない。なんらかを理由に、力を失ったか?)
原因を探ることは出来ない。
(この器は大器と呼ぶに相応しい。しかし、何だ? この気配から漂う、懐かしい何かは……)
さらに、さらに、感覚を研ぎ澄ます。
すべての神経をただひとつの反応にのみ集中し、感じる何かを追い求める。
どこかで、いつか、それは、あった。
「っ!」
そして、気づいた。
あまりにも鮮烈で懐かしいその何かは、確かに覚えている。
いや、彼はそれのみを追い求めてきたのだ。
「くくく、なるほど。よもや、このような極東の島国に身を置いていたとは……」
心の底からの愉悦に、甲冑の奥に笑みが漏れる。
長年、追い求めてきた。
ただただ、強者を。
いつかと待ち続け、探し続け、そしてようやくたどり着いた。
「さぁ、あの日の約束、果たしてもらおうではないか」
彼は再び歩み始める。
「金色の鬼、今こそ、我は貴様との戦いを求めよう」
銀色の甲冑を纏った彼、『剣誓』の名を持つ妖魔、デュラハンが迫ることを、まだ誰も知らない。




