第一章 学校デビュー【9】
「えー、まー、知っていると思うが、転校生が来る。喜べ、男。転校生は女だ」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
僕を先達とした絶叫が、怒号のように教室に響き渡る。
主に男子全員が腕を振り上げ、中にはホラ貝を吹く者、手製の太鼓を叩く者も見える。
「その若さを勉強に活かせんもんかねえ……まぁ、いいが」
呆れ気味の担任は後頭部を掻いてから、ドアを見る。
「えー、入ってこい」
「はい」
凛とした声が聞こえて、教室が静まり返る。
……どうしてだろう。
どことなく、彼女の声をどこかで聞いたような気がする。
というか、毎日聞いているような気がする。
いや、そんなバカな。
だって彼女は――
「転校生の、アリーシア・クロウリーだ。出身はヨーロッパのどっか。詳しいことは質問しろ」
歓迎の声が教室を包む中、僕ただひとりが腕を振り上げたまま、硬直していた。
転校生、アリーシアは黒板前に立って、担任から渡された白いチョークで自分の名前を書いて、クラス全体を見渡す。
「アリーシア・クロウリーです。よろしくお願いします」
ぺこっと頭を下げると、さらに広がる歓声。歓声。歓声。
それに混じることが出来ない僕は、どうしたらいいものかと、とりあえず振り上げた腕を下ろして、静かに席に座った。
とりあえず、無になってみる。
……。
うん、無意味だね。
と、そこで気づく。
もしかして、李桜がさっき僕のところに来たのって、このことを言いに来たのだろうか。
いや、それ以前に、だ。
「えー、クロウリーの席だが、ここはクラス委員の隣がいいだろうという俺の勝手な判断で、伊浪の隣とする。伊浪の隣、木場は余った席に移動しろ」
「横暴だ!」
「知らん。悔しければ、教師になって俺と同じことをしてみろ」
木場の絶叫もむなしく、木場は余った席に移動することを余儀なくされ、アリーシアが僕の隣の席までやってくる。
僕を羨む男子の声や、小柄なアリーシアに、可愛いという声を飛ばす女子の声に包まれて、彼女の黒い瞳が僕を見た。
「おはよう。恭平」
「あぁ、うん。おはよう」
それはいつも朝交わすような挨拶で、僕も思わず素で返してしまう。
「いや、おはようじゃなくてね、アリーシアさん……」
「ん?」
なにか問題でも?と首を傾げるアリーシア。
問題は、ないんだよ。
ただその、あのね。
だれか、僕に教えてください。
どうして彼女がここにいるんですか?




