プロローグ‐最強の剣と金色の鬼‐
「お前が、『剣誓』か?」
「……」
不意に、声を掛けられ、彼は空を見た。
そこには金色の、眩いばかりの長髪を揺らした男の姿があった。
自身の通り名を呼ばれ、自然と見上げたが、どうやら知り合いではないらしい。
「貴様は誰だ」
「私か? 私の名前はアレイスター・クロウリー。通り名で言えば、『吸血鬼』といったところだよ」
空から地へと降り、男、アレイスターは答える。
名を言われても、彼に心当たりはない。
その存在自体は知っている。
金色の鬼の噂は、妖魔の中でも有名だ。
それほど強力な『権能』を持たないにも関わらず、妖魔のうちでは強者とされ、欧州を征服するのでは、とさえも噂されていたくらいなのだから。
なれば、と彼は腕を前に突き出す。
「金色の鬼。貴様の力、我に見せてもらおうか」
言って、剣を取り出そうと手を開くが、
「待ってもらおう」
とアレイスターがそれを止める。
「私はなにも、お前と戦おうというわけではないのだよ」
「であらば、いったい我に何の用があるという」
「話は簡単だ。お前を、仲間にしたいのだ」
……?
彼は、アレイスターの言葉に首を傾げた。
自分を、仲間に?
いや、それ以前に、だ。
妖魔は基本的に徒党を組むことなどない。
それぞれが己が思うままに、好き勝手に生きるのみ。
故に、アレイスターの言葉に疑問を持つ。
「なにが望みだ」
「改革だ」
「貴様と問答をするつもりはない。簡潔に答えよ」
「それもそうだな。正直、私もここでお前を怒らせたくはない」
……。
「なるほど、それが貴様の掲げる改革か」
「あぁ。私には力が必要だ。だから、お前の力がほしい」
彼は考える。
アレイスターの理想。
理解できないわけではない。
確かに『彼ら』の行動が、自身たちの存在を脅かすことに変わりはないだろう。
しかし、それは自分には関係がない。
「『彼ら』が我を滅ぼすというのであれば、我は剣を取り、戦おう。それで万が一にでも、我が敗北するようなことがあれば、我はその終わりを迎え入れよう」
なぜなら、と。
「我は強者との戦いを求める。それ以外の行為に、興味はない」
それだけを言い、アレイスターの横を通り過ぎようとしたとき。
「私は、強者だ」
その言葉に、彼の足が止まる。
「これでも、私は自らを強いと自負している。お前が言うような、強者であると思うのだがな」
「……ほう、ならば、我と剣を交えるか?」
「悪いが、断る。私は軍を率いる将。大きな戦を前にして、お前との戦いで力をむやみやたらに浪費するわけにはいかない」
「戦う意思がないのであれば、用はない」
そう言うのだが、アレイスターは再び彼の前に立つ。
「お前と戦ってやる。だがしかし、それは戦が終わってからだ」
だから、と。
「力を貸せ。私と――強者と戦いたいのであれば、私の仲間となり、私を生かすために、戦え」
「この我に、貴様の軍門に下れと言うか?」
「そうではない。ただ、一時の協力関係を結ぼうというだけだ」
ふむ、と彼は考える。
アレイスターが強者であるというのは認める。
彼との戦いを、どこか望む自分もいる。
……。
「いいだろう。貴様に、我――『剣誓』デュラハンの力を貸してやろう」




