↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の愛しい吸血姫  作者: 大成ケンジ
第一幕―満月の夜、僕は使徒になる―
PR
71/170

エピローグ―薔薇に込められた魔法―【8】

アリーシアは、確かにその言葉を受け取った。



『私はあなたを愛する』。



赤い薔薇が持つ花言葉だ。



だけど、言葉を直接届けることは出来なかった。



妻は病で亡くなった。二人で伝えることは、出来なくなった。



だが、彼の中には、あの日の約束が生きていた。



彼は、彼の中に残る妻の記憶を引きつれて、苦しみながら、命を燃やしながら、薔薇を目指した。



時間はなかった。



すでに満身創痍の彼に、彼女を連れていけるほどの力はなかった。



だから、彼女が自分を探して追いかけて来てくれることを望んだ。だから使徒に、その情報も託した。



薔薇にたどりついたとき、彼は動くことが出来なかった。



使徒以外から血を吸わないという約束を妻と交わした彼は、力を使わなくても力を奪われる呪いを受けた彼は、もうほとんど力が残っていなかった。



でも、それでも良かった。



ただ、ひとつの想いを託すことができれば良かった。自分たちが言えなかった言葉と想いを、薔薇に託すことさえ出来れば、それで良かったのだ。



そして彼は、自分を追って現れた人間たちに気を払うこともなく、灰となって、散った。



死ぬために、この場所を選んだのではない。託すために、この場所を選んだ。



それが……アレイスターというひとりの父親が、娘に残した『魔法』。



永遠を司る吸血鬼だからこそ出来る、『魔法』。



永遠に咲き誇る赤い薔薇に、『私たちは永遠にあなたを愛する』という想いを込めた『魔法』だ。



涙は、止まらなかった。



その涙と赤い薔薇に誓った。



僕は忘れない。アレイスターが残した『魔法』を。彼が命を捧げて残した『魔法』を。



そして、そんな彼に誓う。



「僕が……守ります」



言葉にして、それは初めて形になる。



「あなたたちが愛したアリーシアを、僕が一生守ります。だから……」



どうか、安らかに眠ってください。



言って、目を閉じた。彼らの冥福を祈るために。



その瞬間、ぶわっと一際大きな風が吹いた。



強い風だ。



身体が吹き飛ばされそうになるほどに強い。



その風が、肩を叩いたような気がした。



――任せたよ――



そんな声が、聞こえたような気がした。



「恭平」



「うん」



涙を流すアリーシアが、涙を流す僕を見た。



「……お父様たちに約束したんだから……ちゃんと守ってね……」



「守るよ」



きっぱりと言い放つ。



「百年だろうが、千年だろうが、それこそ永遠だろうが、僕は君を守る。守り続ける」



「……うん」



自然と、僕たちは向かい合っていた。



互いの両手を握りしめ、僕は屈んで、アリーシアはつま先立ちをする。



これは誓いだ。



彼女のこれからを守り抜くという誓いだ。



真っ赤な薔薇が見守る中で、僕らは唇を重ねた。



僕の愛しい吸血姫。



これからたくさん大変なことがあると思う。



妖魔に襲われるかもしれない。



《狩人》に裏切られるかもしれない。



でも、僕が君を守る。



今は無力な僕だけれど、きっと強くなる。



君を守るために、強くなる。



だから、泣かないでほしい。



唇を離す。



二人とも、涙は止まっていた。



両手は繋いだまま、見つめ合う。



僕が君の永遠を守る。



だから、アリーシア。



「笑って。僕はそれだけで嬉しいんだ」



「……うん」



アリーシアは微笑んだ。



ぎこちない笑みじゃない、彼女の心からの笑み。



僕の愛しい吸血姫の笑顔は、赤い薔薇に負けないほどに、美しい。



この笑顔を守るために、戦おう。



彼女の永遠を脅かすすべてと。



それが、吸血姫の使徒である、僕の誓いなのだから。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。