エピローグ―薔薇に込められた魔法―【5】
源さんに村を案内されているアリーシアと別れて、僕はひとり、更紗さんの家に残っていた。
「なんだい? 老いた婆の話でも聞きたいのかい?」
「はい」
「あんたも物好きだねえ」
「女性に関しては年齢を問わない主義なんで」
「良い性格してるじゃないか。あたしがもちっと若かったら相手してやるのにね」
新しく調達した一升瓶を傾けて、中身をごくごくと口の中に流していく更紗さんの目の前に僕は座っていた。
「ぷはぁ……それで、あたしになにを訊きたいんだい?」
「そうですね……まぁ、あんまり回りくどいのは嫌いなんで、単刀直入に訊きますけど……アレイスターのこと、恨んでますか?」
傾けていた一升瓶を枕元に置いて、更紗さんが僕を見た。
「なんで、そんなことを訊くんだい?」
「……まぁ、僕の愛している人の祖母に対して興味がある、とだけ言っておきます」
「……気づいてたのかい?」
はい、と僕は頷く。
更紗さんは、亜里沙さんのお母さんだ。
いやたぶん、そこに血の繋がりはないと思う。
更紗さんは、亜里沙さんは村に捨てられていた子供だと言っていた。
だからたぶん、更紗さんは亜里沙さんの育ての親だ。
アリーシアを見たときの表情や、亜里沙さんのことを訊ねる更紗さんの顔を見ていれば、それに気づくことは簡単だった。
だから、訊きたかった。
自分が育てた娘を連れて、その結果死なせてしまったアレイスターのことをどう思っているのか。
「恨んでないよ」
「本当ですか?」
「本当さ」
答えて、更紗さんは天井を見た。
「あたしが、あいつを見送るときに、ひとつの条件を出したんだ」
遠い思い出を振り返るように、目を閉じた。
「あの子を幸せにしてくれ、ってね。それさえ守ってくれれば、どこへでも好きなところに行きなって、そう言ったんだよ」
そして、更紗さんが僕を見る。
「亜里沙は幸せになれたんだ。だったら、あたしが、あのバカ息子を恨む言われはどこにもないよ」
優しげに、儚げに、悲しげに微笑んだ亜里沙さんの顔は、どこからどう見ても、母親のそれに相違なかった。
「恭平、と言ったね? あんたは、あの子のなんなんだい?」
問われて、どう答えるか迷って、それでも僕は、
「僕は、彼女の使徒です」
本当のことを答えた。
この人には、嘘をつきたくなかった。本当のことを僕に語ってくれた更紗さんだからこそ、本当のことを言いたかった。
「あの子のこと、愛しているんだね?」
「愛しています」
「……あんたもまた、難儀な恋をするもんだよ」
「ははっ、そうですね。でもまぁ、そこんところはもう受け入れてます。彼女がなんであれ、僕は彼女を愛し、守り抜くと誓ったんです」
「まだ若いうちからそんなことを言えるなんて、相当場数をこなしてきたと見たよ。どうなんだい、そこんところ?」
からかうように言う更紗さんに思わず苦笑いを浮かべる。
もしかしたら軽い男だと思われたのかもしれない。
更紗さんは言ってもアリーシアの祖母に当たる人だし、悪い印象を与えることになるのはちょっと……。でも僕の女性好きを考えると否定しようにも出来ないものがあるし。
不意に、肩に手が置かれた。更紗さんの手だ。
「孫のこと、よろしく頼んだよ」
「……はいっ!」
一瞬呆気に取られて、それでもしっかりと返事をした。




