エピローグ―薔薇に込められた魔法―【4】
話を終えると、更紗さんは、ふぅ、と一息ついてから、アリーシアを見ながら言う。
「あんたの顔は亜里沙に似ている。それに、その金髪は間違いなく金ぴかのものだ。一目見れば、あんたが二人の娘だってことに気づけるよ」
更紗さんの話を聞いて、僕たちは言葉を失った。
驚いていたんだ。
だって、更紗さんも、源さんも、いやこの村のすべての人が、妖魔の存在を知って、なおアレイスターを受けて入れていたから。
人とは決して分かり合えないと言われている妖魔を、理解していたから。
つい先日、李桜に人と妖魔は分かり合えると説いた僕も驚きを隠せない。
アリーシアのお母さん、亜里沙さんだけじゃなかった。この村全体が、アレイスターのことを、理解していた。
「なぁ、アリーシア」
更紗さんが、アリーシアの名前を呼んだ。
「亜里沙は、元気にしてるかい?」
「……」
アリーシアは訊ねられて、でもそれに答えられない。
だってもう、亜里沙さんはこの世にいないから。
繋いでいた手が強く握られる。
この子は大人びて見えても、まだ十二歳なんだ。まだ、子供なんだ。
だから、親の死にだって、耐えられるような強い心を持っているわけじゃない。
「亜里沙さんは……亡くなられました」
だから、僕が答えた。
すると、それを聞いた更紗さんと源さんの顔が驚きの様相に変わって、それから更紗さんが、そうかい、と言った。
「二人を追ってくる敵から逃げている間に、亜里沙さんは病を抱えてしまって、半年前に亡くなったそうです」
僕が言うと、更紗さんは、うん、と頷いた。
その姿は悲愴に打ちひしがれるように見えて、ひどく寂しげに思えた。
僕にはなにを言えばいいかわからない。ただ、事実を言うことしかできない。
源さんも、更紗さんになにかを言おうとして、でも黙ったままだった。
その様子から、二人が少なからず亜里沙さんのことを大切に想っていたことが伝わってくる。
「……アリーシア、訊かせてくれ」
身体を丸めて、初老を迎えた更紗さんは、弱々しい姿だけど、それでも強い語気で、アリーシアに言う。
「亜里沙は……幸せだったかい?」
そこで、気づいた。
「亜里沙は、あいつと出会って幸せだったかい?」
この人は……。
「亜里沙は、あんたを産んで幸せだったかい?」
間違いなく……。
「あの子は……幸せになれたのかい?」
「……はい」
揺るぎない瞳を向けて、アリーシアが答えた。
「お母様は、幸せでした。病床にありながらも、お父様とわたしに出会えて、幸せだったと言っていました。お父様と一緒になって、後悔はないと、言っていました」
「………………そうかい」
それだけを答えた更紗さんの顔は、穏やかな……母親の笑顔だった。




