エピローグ―薔薇に込められた魔法―【1】
「ここみたいだね」
響子と李桜を見送った後、僕とアリーシアは家を出た。
いくつかの電車を乗り継いで、市内を出て、それから徒歩で少し歩く。
そうしてたどりついたのは、ひとつの村だ。
最音の村。
僕らが住んでいるところは割と都会に近い。最音の村はその逆をいく。
電車を降りてから、ひたすら山に向かって歩き、鬱蒼とした森林の中を進んだところにそれはある。
李桜からも閉鎖的な村だ、と説明は受けていたけど、未だにこういう村が存在することに少し驚いている。
「アリーシア、大丈夫?」
「うん。問題ない」
そう、と答えて僕は前を向く。
アリーシアは幼いころの僕の服を着ていた。
李桜の話から、林の中を通ることになるのはわかっていたので、ズボンの方がいいだろうと考えたからだ。
だから、アリーシアの今の格好は男っぽいもので、髪はポニーテールに結っている。
男装の麗人……いいな。
僕たちは、アレイスターが最期を迎えた白い薔薇の草原を目指していた。
アレイスターの話を聞いて、いつか行こうと思っていた。
彼が最期に選んだその場所を、アリーシアに見せてあげたかった。父親が最期に見た風景を。
それはこの村を越えたところにある。だからこそ、ここまでやってきた。
村に一歩足を踏み入れて、辺りを見回すと、人の姿がちらほらある。十数軒の家々が立ち並び、それらはコンクリートなどではなく、年季を感じさせる木造だ。
薔薇の詳細な場所に関しては、村の人に訊いた方がいいと李桜に言われているので、とりあえず適当なだれかに訊くしかない。
「アリーシア、ちょっと待ってて。僕は訊いてくるから」
そう言って、目の前を歩く人に向かおうとして、
「わたしも行く」
とアリーシアが言った。
アリーシアは、家を出てからずっと僕の手を握ったままだった。これは別に僕が言ったわけではない。そりゃ、繋ぎたいなぁ、なんて思ってはいたけど、そんなことをすればアリーシアの電流制裁は避けられないだろうと思っていたから、口には出していない。彼女の方から自然と繋いできたのだ。
僕としては嬉しいところなんだけど、いったいどうしたんだろう。
なんてことを考えながら、アリーシアの手を引いて、村人らしき人のもとへと駆け寄る。
「あの、すいません」
「ん? なんだい?」
気さくそうな、がたいの良いおじさんが振り返る。
「この村を越えたところに白い薔薇が咲いた草原があると思うんですけど、知りませんか?」
「白い薔薇ぁ?」
なんだそれ、と言いたげに、おじさんは首を傾げ、腕組みをする。
その様子からも、このおじさんが白い薔薇について知らないことが窺える。あまり公に知られていないのかな。
「んー、坊主たちは外から来たみたいだけど、その薔薇を見るためにここまで来たのかい?」
「そうです」
「そうかぁ……」
うんうん、と頷いて、おじさんがアリーシアを見た。
「……」
「……なんですか?」
アリーシアをじぃっと見るおじさんに対して、アリーシアが首を傾げて訊ねる。
「いんや、なんでもねえ」
そう言って首を左右に振って、ただ、と続ける。
「えらいべっぴんさんだなぁ、と思ってな。兄ちゃんと旅行に来たのかい?」
「兄じゃありません。恋人です」
「へえ……またえらく若い恋人だねえ」
……。
「えっと、あの。アリーシア? つっこんでくれないと、僕ら、本当に恋人みたいになっちゃうからね?」
僕の冗談に無反応だったアリーシアに言うが、彼女は、
「問題あるの?」
と首を傾げる。
「響子辺りが問題にしてくれるんだよ」
ただでさえロリコン兄さん、なんて呼んでくるんだ。
いずれ本当に警察に連絡されかねないし、アリーシアから僕がさも公認かのようにこんなことを言ったと知られればただじゃ済まない。
だからこそ、つっこんで欲しかったんだけどなぁ。
「……んで、結局兄ちゃんたちはどういう関係なんだい?」
苦笑いを浮かべたおじさんが訊ねてくる。
「えっと、まぁ、友達ってところで」
本当は主と使徒という主従関係だけど、それを言うわけにはいかないし。
おじさんは納得していない様子だけど、まぁいいや、と言う。
「悪いが、俺は白い薔薇に心当たりはないな」
でも、と。
「ばば様ならなにか知ってるかもしれないな」
「ばば様、ですか?」
「おう。この村の村長だから、おそらく村の近辺のことに関しても詳しいだろうし、訊いてやるよ」
ありがとうございます、と僕たちは頭を下げて、おじさんに付いていく。
「俺は浜田源。源でいいぜ」
「はい。僕は伊浪恭平です。こっちはアリーシアって言います」
「恭平に、アリーシアちゃんか。うん、覚えた」
にかっと笑って、源さんは答える。




