エピローグ―薔薇に込められた魔法―【2】
源さんに連れられて、僕たちは村の奥へと進んでいく。
やっぱりって言うか、村の中の人々の視線はアリーシアに向いていた。
源さん曰く、ただでさえ村の外からやってくる人間も珍しいというのに、そのやってきた人物が燦然と輝く金色の髪を携えてきたとなれば、目がいってしまうのは仕方がないことだそうで。
村の最奥にたどりつくと、そこには一軒の家がある。
村で見た中でも一番大きい家で、そこが特別だということが窺える。この中に、ばば様と呼ばれる人がいるんだ。そう思うと、少し緊張してしまう。
ごくり、と唾を飲み込むと、僕の手を握り締めたアリーシアのそれが強くなる。
「大丈夫」
「……えらく男前だね……」
僕が言ってあげたかったのにな、なんて苦笑いが零れる。
だけど、それで少し緊張が解れた。
ばば様の家の前までやってくると、源さんが玄関の扉を叩いてから、インターホンを押した。
「おーい、ばば様。ちょっといいかー?」
「……なんだい?」
インターホンから、しゃがれた女性の声が聞こえてくる。
「客人だ。中に入ってもいいか?」
「あいよ。入りな」
簡単に許しが出て、僕たちは源さんに続いてばば様の家の中に入る。
中には、布団の上であぐらを掻く女性の姿があった。
「……」
ばば様らしき女性は、僕たちを見て、驚き、そしてそれから目を閉じて笑った。
どうしたんだろう。なにか笑われるようなことをしたかな。
「ばば様。この二人は恭平に、アリーシアちゃんだ」
「紹介はいいから、座りな」
ばば様に言われて、僕たちはばば様の近くまで行って、腰を下ろした。
長い時を生きてきたことを感じさせる皺が顔に刻まれ、長く伸びた白髪は後ろで一本に結われている。
年老いたことにより丸みを帯びた身体。
「あたしゃ、この村の村長、最音更紗だ」
「初めまして、僕は伊浪恭平です」
自己紹介を受けて、僕も頭を下げてから自己紹介する。
「床の上からですまないね。ちょっと風邪をこじらせてるんだ」
「いや、そんな、僕たちは全然」
「そうかい? ならいいだけどね」
更紗さんは笑って、それから枕元に転がっていた一升瓶を手に取ると、それを口に含んだ。
「ばば様、客の目の前でそりゃねえぜ」
「うるさいよ。あたしゃこいつを飲まないと調子が出ないのさ」
源さんに咎められながらも、更紗さんは一升瓶の中身を飲みほして、男みたいな豪快な声を漏らしてから、口からこぼれた酒を拭う。
なんというか、風邪をひいている割には元気そうなお婆ちゃんだな。
「それで、いったい何の用だい? うちの村には特に誇れるようなもんはないけど?」
急に本題に入られて、
「あっ、えっと、僕たち、白い薔薇を見にきたんです」
戸惑いながら答える。
更紗さんが知らなければ、おそらくだれもわからない。
だから、少し緊張しながら訊いてしまった。もし知っていなかったら、李桜に訊きに戻らなくちゃいけなくなるし。
更紗さんは、一升瓶を抱きしめるようにして、アリーシアを見た。
「……アリーシア、と言ったね?」
こくっと、アリーシアが頷く。
すると、更紗さんは、
「そうか……あんたが、あの金ぴかの娘か……」
と言った。
「金ぴか……?」
その言葉に僕とアリーシアは首を傾げた。
金ぴかという人物に心当たりはないからだ。
その僕たちに対して、源さんが、やっぱりか、と頷いていた。
「嬢ちゃんはアレイスターと亜里沙の娘なんだな」
源さんが悲しげに呟いた言葉に、僕たちは驚く。
亜里沙という人に心当たりはない。
だけど、アレイスターは紛れもなくアリーシアの父親の名前だ。
ということは、亜里沙というのは、アリーシアのお母さんになる。
だけど、どうして源さんたちがそれを……?
「あの、ご存じなんですか? アレイスターのこと……」
「知ってるもなにも、あの金ぴかはつい十二年前までこの村にいたからね」
そして、僕たちは知る。
アレイスターと亜里沙さんがたどった道を。




