第六章 伊浪家の朝【2】
「今日は学校に出るのか?」
「ううん。一応、様子見ということで今日も休もうと思っているよ。いいよね、響子?」
響子に了解を取ると、響子ははい、と頷いた。
「そうか。では、ここで話した方がいいだろうな」
「アリーシアのこと、だよね?」
そうだ、と李桜。
「結論から言おう。アリーシアに対して、我々《狩人》は危害を加えない」
それを聞いて、安心する。
しかし、それで話は終わらない。
「我々は、アリーシア、並びに伊浪恭平を保護したいと考えている」
「……なんで?」
予想外の言葉に、僕は首を傾げる。
「お前も知っての通り、アレイスター・クロウリーは、尊厳大戦を途中で放棄したことから、多くの妖魔に恨みを買っている」
「うん」
「未だ恨み続けているものもいる。もし、アレイスターに娘がいると知られれば、おそらくその娘も標的にされる」
「それで、保護?」
頷く李桜。
確かに、李桜が言ったような可能性はある。
アレイスターが尊厳大戦を放棄したせいで、妖魔たちは敗北した。
それを恨んだ妖魔たちはアレイスターを追い、襲い、アレイスターを死に至らせる傷も与えた。
だが、それだけで彼らの恨みがなくなるとは思えない。なら、次に矛先が向けられるのはアレイスターの親族だ。
どれほどの妖魔がアリーシアのことを知っているかは知らないが、もし大勢にそれを知られれば、間違いなく、アリーシアは狙われる。
そうなったとき、僕はアリーシアを守ることができるだろうか。中途半端な使徒である、僕に。
なら、ここは《狩人》の保護を受けていた方がいいんじゃないのか?
彼らは妖魔と戦うことに関してのスペシャリストだ。
僕も『妖魔殺し』の所持者とはいえ、戦闘向きではないし、そういった意味でも、命の保証をして、守ってくれるという彼らに甘えるのは得策ではないか。
それに、だ。
「もしそれを拒むと、どうなるの?」
「……」
李桜は答えない。
酷い質問だと思う。これを訊ねたのはわざとだ。李桜がどんな反応を示すかで、拒むことによって起こることが予想できる。
彼らは僕らを保護したいんじゃない。
彼らは僕らを『管理』したいのだ。
自分たちの目が届く場所に置いて、なにもしでかさないように。
だって、アリーシアはアレイスターの娘だから。
いくら僕の力で弱っているとはいえ、尊厳大戦の発起人である妖魔の娘なのだ。それを恐れるのは当然のこと。
それに、いくら恨まれているとはいえ、アレイスターを慕っている妖魔もまだ残っているかもしれない。
そういう妖魔たちをアリーシアが従え、発起すれば、また尊厳大戦が起きる可能性もある。
それらを見越しての保護という名の管理をするつもりなのだ、《狩人》は。
「保護されると、僕とアリーシアはどうなるの?」
「保護観察官を付けられることになる。今までの暮らしも、おそらくは無理だろう」
それは、厳しい。
保護監察官をつけられることは、まぁいい。それは仕方がないだろうから。
だけど、これまでの暮らしが出来ないのは、無理だ。僕は、卒業までここにいると、響子に約束した。それを破ることは、僕にはできない。
だけど、ここで拒めば、アリーシアは……。




