第五章 吸血姫の使徒【14】
だから、言う。
「僕の主の名前は、アリーシア・クロウリー。尊厳大戦を率いた男にして、人間の女性を愛した妖魔、アレイスター・クロウリーと、人間の女性の間に生まれた……」
アリーシアを生かすための切り札になることを祈って、僕は言葉を紡ぐ。
「半妖だ」
「っ!」
李桜の目が見開かれた。
アリーシアの出生こそが、僕の切り札だった。
アリーシアは普通の妖魔じゃない。妖魔と人間の間に生まれた半妖だ。
それがどういう意味を為すのかを理解したからこそ、李桜は驚愕した。そんなことはあり得ないと思っていたから。
「なぜ、アレイスターと人間の女性が相思相愛だったと僕が知っているのか、もうわかるよね?」
李桜は答えないが、すでに答えにたどりついている。
「子供こそが、二人の愛の結晶だからだ。そして、彼女の存在こそが、人と妖魔が分かり合えるという証拠になる」
「……」
李桜の構えていた腕が、垂れ下った。
「半妖など、聞いたことがない……そんな相手を、どうこうする決まりは、《狩人》にはない……」
呟いた李桜が、僕を見た。
「その話が事実だとすれば、私は、お前にも、お前の主である吸血鬼にも手を出すことはできない」
《狩人》の役目は、存在理由は、妖魔を狩ることだから。建前とはいえ、人間を守ることを掲げているのだ。
なら、妖魔と人の間に生まれた半妖であるアリーシアは、殺す対象なのか、それとも守るべき対象なのか。
その規定は、李桜の様子を見る限り存在しない。だから手は出せないのだろう。
僕は……やった。
「は、はは……」
李桜の言葉を聞いて、脱力する。そのままコンクリートの地面に尻を落ち着かせる。
そのまま背を倒し、眼前に広がる大きな空を見た。
アリーシアはもう寝たかな。
でも、待っているって言っていたから、起きているかもしれない。そうだったら、嬉しいな。
「やったよ……アリーシア……」
空に手を伸ばして、空を掴む。
掴み取った。守り抜いた。アリーシアの、未来を。彼女の、永遠を。
その空に、李桜が映る。
「……ごめんね。いろいろと酷いことを言って。でも、僕も必死だったんだ」
「……気にしていない、とは言えない。しかし、お前が言ったことは事実だ。だから、仕方がない……」
「まぁ、組織には組織のやり方があるからね。僕としては、アリーシアに、僕の主に危害が加えられないなら、それでいいんだ」
結局はそういうことなのだ。
妖魔がどうとか、いろいろ偉そうに言ったりしたけど、実際、言いたいことはアリーシアが半妖ってことだけだ。
そこまで持っていくのにいろいろ言ったのは、ただ単に李桜の動揺を誘うためだったから。
酷い言い方をすれば、他の妖魔のことは、僕にとってはどうでもいい。一方的に狩られていようが、そんなことは僕には関係ない。
アリーシアさえ守ることが出来れば、それでいいのだから。




