第五章 吸血姫の使徒【13】
李桜の動揺は誘えても、それで見逃してもらえるとは思えない。
僕の目的はアリーシアを守ることだ。
だけど、《狩人》である李桜は、どんな言葉を投げかけられても、妖魔を殺すことを止めることはないだろう。
それが《狩人》なのだから。
僕としては、妖魔が《狩人》に狩られるという関係性に関してはどうでもいい。
ただ、アリーシアさえ守ることが出来れば、それでいいのだ。
そして、僕はもう見つけている。
可能性を。
アリーシアを救うことが出来る可能性を。
アリーシアが、普通の妖魔ではないという事実に、彼女を救うための最後の望みを賭ける。
「李桜。お前は言ったな? 妖魔と人は分かり合えないと」
「……あぁ」
弱々しいが、李桜は頷いた。
《狩人》の建前を否定して、そして次に否定するのは、李桜が口にした事実だ。
「妖魔と人は分かり合える」
「それはない!」
伏せた顔を上げて、キッと僕を睨む。
なにも、僕がアリーシアを愛しているから、妖魔と人は分かり合えるなんてことを言っているわけじゃない。
ちゃんと、証拠はある。
だから、これは間違いないのだ。
僕は、彼の愛を貸してもらう。
「アレイスターは人間の女性を愛した」
「……なんだと?」
李桜は知らないのだ。アレイスターの真実を。
アリーシアと僕だけが知っている。
そこに、妖魔と人とが分かり合える根拠が存在する。
「そして、その女性もまた、アレイスターを愛したんだ」
「……なぜお前がそんなことを知っている?」
それに答えるために、僕はフェンスから背を離し、ふらつきながらもなんとか自分の力だけで身体を支える。
肉体自体の回復は、左腕の損傷を残せば、完了している。
しかし、肉体の疲れなのか、よくわからないが、貧血にも近い感覚のせいで、身体が妙に重い。
それでも、今ここで倒れるわけにはいかない。
アリーシアのために。
彼女の顔を思い浮かべる。
どんな苦痛も、彼女のためを思えば、どうってことない。
この愛は、偽りかもしれないと、アリーシアは言った。
そうかもしれない。
主と使徒の関係が生み出す、そんな感情かもしれない。
だから、なんだ?
それがなんだっていうんだ?
偽りの愛だというのなら、その偽りの愛を、本物に変えてやればいい。
そのためにも、ここで終わるわけにはいかない。




