第五章 吸血姫の使徒【12】
でも、それは本当に正しいの?
……いや、それは違う。
……一か八か、やってみるか。
上手くいくかわからない。
だけど、僕の指摘を受けた李桜の様子を見る限り、少なからず勝算はある。
突発的に思いついた方法だ。成功確率は、おそらく低い方。
だが、やる。
やってやる。
アリーシアを、守るんだ。
「ふふ……ふふふふ、はははははは!」
「な、なにがおかしい!」
衝突によりへこんでしまったフェンスから身体を起こし、背を預け、立ち上がる。
「なぁ、李桜。僕に、《狩人》の存在について講義してくれよ」
力では敵わない。僕はあまりにも無力だ。
そんな僕に出来る戦いは、言葉でしかない。
《狩人》である李桜の存在を、『否定』してやる。
「ほら、教えてくれよ」
「……《狩人》とは人々に害を為す妖魔を狩るための存在だ」
「違うだろ? お前たちは、『妖魔であれば関係なく殺す存在』だろ?」
あくまで、自分たちの存在を正当化しようとする李桜に対して、僕は高圧的に言う。
普段はこんな言い方はしないが、今は場合が場合だ。
変に下手に出ることはない。上から、事実を事実として突きつけてやればいい。
「……」
李桜に反論はない。それに関しては、もう認めるらしい。だけど、ダメージはある。表情が少し変わっている。事実を突きつけられ、苦痛に顔を歪めるような、そんな感じだ。
「妖魔の中には、お前たちが言うように、人間に害を為す妖魔もいるだろう。だけど、それがすべてってわけでもない。だけど、お前たちはどうだ? 害を為す妖魔はいる。これは絶対ではない。お前たちは妖魔に害を為す。これは絶対だ」
「っ!」
「お前たちは、人間側からの目線でしか妖魔を見ていない。受け入れられない。害を為す。危険だ。そう勝手に決め付けて。本当に害を与えていたのはどっちなんだろうな?」
「わ、我々は……」
尻つぼみに、語気が弱くなっていく李桜。
「我々は、なに? もしかして、そんなことはない、とか言うつもり? 妖魔こそが悪だとか、言うつもりなのかな?」
挑発するように言って、
「妖魔を馬鹿にするのも、大概にしろよ」
低く、重く、響き渡るように言った。
「お前たちがそんな姿勢で妖魔に接するから、妖魔は『尊厳大戦』なんてものを起こしたんじゃないのか? 普段は協力することもない妖魔が、手を組んでまで、自分たちを守るために。それを、お前たちは絶対悪だと言い張るのか?」
「し、仕方がない! 妖魔と人は分かり合えない! なら、どちらかが滅びるしかないだろう!」
「それが本音なんだな?」
「うっ!」
ようやく出た。
《狩人》とは、そういう存在なのだ。
人間を守るためだとか、妖魔は人間に害を為すだとか、そういうのはぜんぶ建前なのだ。本音はいつも見え隠れしていた。あまりにも簡単な、本音が。
ただ彼らは、妖魔という存在を許可できないだけだ。
分かり合えないから。
自分たちとは違うから。
だから、殺す。だから、滅する。だから、蹂躙する。
それを、さっきのような建前を掲げて、さも自分たちが正義であるかのように振舞う。
その名の通り、妖魔を『一方的』に狩る人間たちなのだ。
それを、李桜が言ってくれた。僕が言わずとも、自分からそう口にした。
言ってしまった李桜は、俯いた。自分たちが掲げていた大義名分を、自ら壊したのだ。壊させたのは僕だが、壊したのは李桜だ。
これで、李桜の精神に大きなダメージを与えることはできた。
だけど、まだだ。まだ、これで終わるわけにはいかない。




