第五章 吸血姫の使徒【10】
アリーシアの声。髪。瞳。顔。手。足。背中。腹。
それらすべてが脳裏を過って――
「アリーシアぁあああああああああああああああああ!」
気がつけば、絶叫とともに僕は左腕を構えていた。
そこに魔力を集中し、限界が近づくその瞬間まで練って、『それ』を放つ。
左腕に『炎』がぶつかる寸前、そこから放たれた青白い閃光が『炎』と接触する。
バァンッ!
『炎』と『雷』の接触により、両者は弾け、小規模の爆発を生みだした。
「うっぐ、あぁあああああああああああああああ!」
爆発に巻き込まれた左腕が、変質する。肌が、肉が焼ける異様な感覚。
そしてそれらが消滅する。
襲い来る痛みと、不快感から飛び出た悲鳴を掻き消した爆発音とコンクリートを粉砕したことにより生じた煙が晴れて、視界が明瞭になる。
そこで僕は、ようやく左腕の状態を確認することが出来た。
ない。
肘から先が、なくなっている。
「あっく、うぅ……」
思わずまた悲鳴を上げそうになって、それを耐える。
覚悟はとっくの昔にした。
こうなるかもしれないことは、どこかにあったはずだ。
だから、恐れるな。受け入れろ。治る。どうせ、治るんだ。
涙目になりながらも、黒く焦げてしまった左腕を押さえ、なんとかふらつく身体を支える。
一度、この現実を受け入れるために、左腕の状態を確かめる。
肘から先は、やはりない。それはもう、受け入れた。
それから上へと視線を移行する。
肘から肩の付近(上腕二頭筋の辺り)までは、黒く焦げてはいるが、まだある。
だけどもう、左腕は使い物にはならない。治癒が終わるときまで。
身体はどれだけ傷ついても治る。現に、僕が負った傷のほとんどはもうすでに治っている。
いつまででも戦うことはできる。
だけどそれは、僕が痛みに耐えることが出来ればの話だ。
痛みに耐え、意識を飛ばすことなく、立ちあがり続ける。
そう思い続けて、どれほどの時間が過ぎただろう。
もしかすると、まだ一時間も経っていないのかもしれない。
僕にはもう、わからない。ただ、意識を保つことだけに必死だから。
「守るって……言ったんだ……」
自分に言い聞かせるように呟いて、ぜえぜえ、と息を吐きながら、崩れた体勢を立て直す。
煙が晴れた先にいる李桜は、驚きはしつつも、それでも厳しい表情を崩すことはない。
「なぜそうまでする?」
「だから……愛しているんだって……」
「相手は妖魔だ。人間じゃない」
「だから……なに?」
李桜の言うことが、さもくだらないと言うように僕は切り捨てた。
「彼女が妖魔だとか、どうでもいいんだ……ただ……たまたま好きになった女の子が……妖魔だったってだけだよ……」
ただそれだけなんだ。
僕の言葉に、李桜が顔を顰めた。
許せないんだろうな。
李桜は妖魔を許さない。いや、『狩人』という存在そのものが、妖魔の存在を許さない。
だから、その妖魔を愛している、なんて言う僕を許せない。
わかりやすい構図だ。
それでいて、理解できない。




