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僕の愛しい吸血姫  作者: 大成ケンジ
第一幕―満月の夜、僕は使徒になる―
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第五章 吸血姫の使徒【9】

「……なに……?」



「いえ、帰りが遅いので、どうしたのかと」



「もしかして……心配してくれてるの?」



「はい、兄さんが帰りがけに、女性をひっかけていないかという心配をしています」



「はは……大丈夫……そんな暇、ないから……」



「……大丈夫ですか、兄さん?」



「……問題、ないよ……それより、アリーシアは、もう寝た?」



「いえ、起きてます」



「そう……」



「兄さんを待っているんです」



「……うん」



「兄さんのことを信じて、待っているんです」



「……うん」



「だから、帰ってきてください」



「……うん。大丈夫、帰るから」



それだけを言って、携帯を切った。



ポケットに戻すことも面倒で、そのままコンクリートに放り投げる。転がる携帯。垂れる右腕。



よろめく身体を持ちあげて、フェンスに背を預ける。



先ほどまで僕が埋まっていた場所だけに、なかなかいい感じにフィットする。



それに苦笑する。もう、そんなフェンスがいくつできただろう。



李桜の『炎』の腕に、どれほど殴られただろう。どれほどなぎ払われただろう。



もう、数えることも面倒になるほど、殴られて。なぎ払われて。



そうして、現在に至る。



「電話か」



「……うん。妹から、ね」



同情を求めるとか、そういうことじゃなくて、ただ事実として答える。



「可哀想な妹だ」



「……」



答えられない。



だって、実際にそうなのだから。



「健気に帰りを待つ妹のために、従え、恭平」



「……断る」



それだけは、答える。それだけは揺るぎないから。



「まだ、苦しみ足りないのか……?」



「無駄だって……僕は、どれほど言われても、従わないから……」



そう言うと、李桜は哀れむように、僕を見た。



そして、左腕を前に突き出す。



「もう、いい。十分だ。これ以上お前を苦しめようとも、お前はなにも言わない。吐かない。これは、無意味だ」



だから、と李桜。



「いっそのこと、消えてしまえばいい。灰さえ残らないほどに燃え尽きればいい。苦しいのは一瞬だ。一瞬で、終わる」



李桜の左腕に、『炎』が纏われた。



それはさっきまでの『固体化』の『炎』とは違う。すべてを燃やし尽くす『燃焼』だ。



もし、李桜が言うように、灰さえ残らないほど燃え尽きてしまっても、僕は元通りに戻る。



僕はアリーシアから力を供給され、僕の肉体を治癒するのにも、その力を用いている。



だから、僕の肉体が失われても、アリーシアさえ生きていれば、肉体は再構成される。



だけど、それにはかなりの時間を要するだろう。



その間にアリーシアが死ねば、それで終わり。そこまで。



「じゃあな、恭平。さようなら」



悲しい表情で、李桜が別れを告げた。



彼女が纏った『炎』が、僕に目掛けて一直線に向かってくる。



終わり……なのかな……?



ここで一度、僕は消えてしまうのかな?



ダメだって、そうなっちゃいけないって、わかってるのに。



でも、どうしようもない。僕にはどうしようもない。



目を閉じようとして、諦めを迎えた瞬間、脳に響く。



――ずっと、そばにいて――






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