第四章 君が泣いた日【3】
「アレイスターは……すでに死んでいる」
「……」
目を見開いて、アリーシアは口をぱくぱくとさせて、言葉を紡げていない。
だから僕は、言葉を続けた。
「少し前に、『狩人』が大きな妖魔の力の気配を感じて、隊を編成して、その気配を追ったんだ。そこは、君が言っていたような、白い薔薇が咲き乱れる草原だった」
このことを教えてくれた李桜も、その隊に参加していたらしい。
僕を同胞と呼んでくれた彼女のことだから、おそらく、この話は本当なんだと思う。
それだけに、救いはない。希望は、ない。
「その草原の中心に、アレイスターはいたらしい。『狩人』が到着したとほとんど同時に、消滅してしまったらしいけど……」
吸血鬼は永遠の命を持つ。だけど、それは年を取ることもなく、不老だというだけ。
不死ではない。致命傷を負えば、死ぬこともある。
だから李桜は、アレイスターはだれかに殺されたのだろう、と言った。
話を聞き終えた後も、アリーシアはなにも言わなかった。ただ俯いて、そのままだった。
なにを言えばいいか、わからない。なにも言わない方がいいのかもしれない。
父親が死んだと聞かされた少女に、僕はなにをしてあげればいい?
答えはわからない。
だから僕は、僕が思う正解の行動を取ることしかできない。
床から腰を上げて、俯くアリーシアの頭を胸に抱きしめた。
あの日。僕がアリーシアの使徒となったあの日。
ベッドの中で泣いていた彼女にそうしたように。
優しく抱きしめ、その頭を撫でてあげることしか、僕にはできない。
すると、アリーシアは、
「知ってたの」
と言った。
「お父様が長くはないことを」
言葉に、涙が混じる。
「お父様は、わたしと、人間であるお母様を守りながら、逃げ続けていた。妖魔に襲われ、『狩人』に襲われて。それでも、お父様はわたしとお母様の手を離すことはなかった。でも、その逃亡の中で、お父様は妖魔との戦いで負傷した。その負傷は、お父様の力を奪い続けるものだった……」
アリーシアが、僕の背に腕を伸ばした。弱々しい力で、僕の服を掴んだ。
「わたしたちが住んでいた場所に着いたときには、もうお父様は動くことさえままならないほど、弱っていた。使徒から血を得ても、足りなかった……でも……わたしたちがあそこで過ごした十年は、確かに幸せだった」
「うん」
「妖魔にも、『狩人』にも襲われない場所だった。でも、そこに至るまでの長い旅のせいで、人間であるお母様は病を抱えてしまった。そして……半年前に亡くなった。それを追うように、動けるはずもないお父様が、姿を消した」
涙が溢れている。一度決壊してしまった涙腺。アリーシアが流す涙は滞りを知らない。
「わかってた……お父様が、お母様との思い出の白い薔薇の草原を死に場所に選んだことくらい……」
服を掴むアリーシアの手に力が籠る。
弱体化しているとはいえ、アリーシアの力は強い。
彼女が本気で握れば、制服にも亀裂が入る。
「でも、それでもわたしは、お父様に会いたかった! 寂しかった!」
泣き叫ぶアリーシア。
そこで、気づいた。
アリーシアが響子を責めた理由が。
僕の寂しいという気持ちは、アリーシアも感じていた気持ちだった。だから、彼女はそれがどういうものなのかを理解していた。
だから、だから……。




