第四章 君が泣いた日【2】
血の付着した服を捨て、新しい服を李桜に買って来てもらってから、僕は彼女と別れた。
すでに傷跡は塞がっている。
さすがは使徒。治癒能力も高いみたいだ。
ショッピングモールに戻ってきた僕は、すぐにアリーシアと合流した。
アリーシアはずっとねこきちのぬいぐるみを抱きしめていたらしく、その場を動いていなかった。
「アリーシア」
名前を呼ぶと、アリーシアはぬいぐるみを抱きしめたまま僕の方を振り返る。
「ん?」
素っ気ない言葉。いつもならそれに苦笑して、他になにかないの、なんて言ったりもするけど、今はそうはできない。
「アリーシア。話があるんだ」
「なに?」
単刀直入に言おう。
「君のお父さんのことがわかった」
「……本当?」
少しの間を持って、確かめるように訊ねたアリーシアは、ねこきちを抱いたまま席を立つ。
期待と不安が織り交ざった視線が僕を捉える。
言いたくない。彼女に、伝えたくない。でも、言わなきゃいけない。たとえそれが、どんなに辛いことだったとしても。
「ここじゃなんだから、一度家に戻ろう」
そう言って、僕たちはショッピングモールを出て、家まで戻る。
その間、ずっとアリーシアは無言で、でも、力強くねこきちを抱きしめていた。
家に戻って、ねこきちをソファに置いてから、僕たちは僕の部屋へと向かう。
響子はキッチンで昼食の用意をしている。
彼女に聞かせるような話じゃない。彼女には、出来ればあまり深く足を踏み入れてほしくない。
部屋に入り、明かりを点ける。アリーシアはベッドに腰を下ろし、僕は床に座る。
まずは、李桜のことから話そう。
「今日、『狩人』に会った」
「……大丈夫だったの?」
「うん。なんとか……」
「そう……」
安心したように呟くアリーシア。
「ねえ、アリーシア。君は、僕はもう人間に戻れないって言ったよね?」
「うん」
「それは、本当?」
「本当」
じゃあ、と僕。
「アリーシアが死ぬと、僕が人間に戻れるっていうのは、ないの?」
「……そんな戻り方が、あるの?」
僕の疑問に、アリーシアは疑問で答えた。
どうやら、アリーシアは知らなかったらしい。
主が死ねば、使徒は人間に戻るということを。
確かに、アリーシアは、自分が死ぬまで、僕は死ぬことは出来ないとは言ったけど、それが具体的にどういうことを意味するのかを言ってはいなかった。
アリーシアが死ねば、僕は人間に戻る。それはおそらく、間違いない。
「『狩人』に言われた。主の居場所を教えろって。そうすれば、お前を人間に戻してやれるって」
「……教えたの?」
「ううん。教えていないよ」
不安げな表情を浮かべるアリーシアに、続けて僕は言う。
「安心して。僕はアリーシアを裏切らないから。人間に戻れるとか言われても、そっちに靡いたりはしないよ」
「……うん」
頷いて、ほっとした様子のアリーシア。
「それでさ、その『狩人』に、アリーシアのお父さん、アレイスター・クロウリーのことを訊いてみたんだ」
さぁ、言おう。
アリーシアを傷つけるかもしれない現実を、事実を、真実を、突きつけよう。それが僕に出来ることだから。
僕だけがもたらしてあげることができることだから。




