第三章 狩人襲来、そして……【11】
「あの、さ。天川さん」
「なんだ? なんでも言ってくれ、恭平」
「きょ、恭平?」
「うむ。私たちは同胞だからな。名前で呼び合ってもおかしなことはあるまい。恭平も、私のことを李桜と呼ぶといい」
いや、あの、そんな天川さんの考えで言われても。いろいろとおかしいと思うんだけど。
でも、こんなに笑顔を見せる天川さんに対して、ダメとはとても言えない。
女性にとことん弱い僕は、天川さん、いや李桜に対して頷くことしかできなかった。
「それで恭平。なにを言いたいんだ?」
「あっ、えっとね、少し、考えさせてほしいんだ」
「考えるとは、なにをだ?」
「いろいろ、なんだ。人間に戻れるとか言われても、僕は人間であることを諦めてたし。だから、急に言われて、少し動揺してるんだ」
少し、罪悪感を覚えた。
人間であることを諦めたのも、戻れると言われて動揺したのも本当だ。
だけど、僕の心は決まっている。
僕はアリーシアを裏切らない。アリーシアの使徒であり続ける。
僕は、李桜が言う同胞ではあっても、仲間にはなれない。
悪いとは思いながらも、それでも、こうでも言わない限り、李桜は逃がしてはくれない。
そう思わせるのは、間違いなく、李桜で。
彼女はアリーシアを殺すことを前提としているのだ。
彼女は僕を解放したいから、アリーシアを殺すのではない。アリーシアを殺し、結果的に僕が解放されるだけなのだ。
アリーシアを殺すということが根本的な部分として存在する限り、僕に出来ることは、どうにかしてアリーシアを生かすことだ。
李桜がどんな『妖魔殺し』を持っているのかはわからない。だけど、『否定』の力で弱っているアリーシアと戦わせるわけにはいかない。
「ふむ、そうだな。急に言われては、動揺しても仕方がないな」
「うん」
「よし、わかった。ならば、明日まで待とう。今日は、知ったことを自分の中で整理してくれ」
「ありがとう」
李桜の笑顔が痛かった。でも、アリーシアを守るためにはこうするしかなかないのだ。
「私に協力できることがあれば、なんでも言ってくれ。出来得る限り、力を貸そう」
そうは言われても、力を貸してもらうことなんて……。
いや、待てよ。もしかしたら……。
「ねえ、少し訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「なんでも訊いてくれ」
これは、少し危険な質問になる。
だけどもし、ここで李桜から回答を得ることが出来れば、それはアリーシアの願いに近づく結果を齎すことになるかもしれない。
なら、少しばかりの危険を冒してでも、僕は質問をしなければならない。
「アレイスター・クロウリーって名前の吸血鬼を知らないか?」
「知ってはいるが……なぜそんなことを?」
「えっと、僕の主が、アレイスターに用があるらしくて、それで少し気になってたんだ。どんな妖魔なのかなって」
「ふむ。確かに、奴に用があるという妖魔は多いだろうな……」
「それは、どういう意味なんだ?」
知らないのか? と李桜は言う。
僕は李桜のその言葉がなにを意味するのかが理解できなくて、首を傾げるしかない。
「しかし、恭平の主がアレイスターに会うことは叶わないぞ」
「どうして?」
そして知る。
これは、悲しい結末だ。
「アレイスター・クロウリーは、すでに死んでいる」




