第三章 狩人襲来、そして……【10】
だけど、僕はそれに頷くことはできない。
彼女の言い分が正しいのなら、天川さんがアリーシアを殺せば、僕は人間に戻ることができるかもしれない。
だけど、それはアリーシアが死ぬということだ。
アリーシアが死ななきゃいけないというのなら、僕は人間に戻れなくていい。
彼女の命を踏み台にしてまで、人間に戻りたいとは思わない。
だけど、それを今、天川さんに言えば、どうなる?
僕は天川さんの敵とみなされる。そうなったとき、どうなるか、想像もつかない。
もっと、なにか、ないだろうか。
アリーシアを生かし、僕も無事でいられるような材料が。
……ある。
「天川さん、聞いてほしいことがある」
「なんだ?」
「実は、僕も『妖魔殺し』の所持者なんだ」
僕は、ただの使徒じゃない。使徒である前に、僕も天川さんと同じ、『妖魔殺し』の所持者なんだ。
この事実がどう使えるかはわからない。だけど、同じ『妖魔殺し』となれば、反応は変わるはず。
僕の言葉を聞いた天川さんの表情が変わる。
訪れるのは驚き。
「『妖魔殺し』を持った、使徒、だと?」
「うん」
「……証拠はあるか?」
「どう証明したらいいのかわからない。でも力の種類が『否定』だっていうことはわかっているよ」
『雷』が消滅する瞬間を見せてもよかったけど、自分の意思で消したと思われる可能性も考えれば、使うだけ無駄だ。
むしろ、危害を加えるのでは、と危惧される可能性を考えれば、しないほうが得策だ。
天川さんは答えず、僕を見る。僕は真剣な眼差しでそれに答える。
嘘だと疑われることがあってはならない。疑念を抱かれれば、敵対意思があるのではと思われる。それを避けるために明かしたのだから。
「『否定』ということは、いや、なるほど。だからか……」
「……?」
妙に納得した様子の天川さんに、僕は首を傾げる。
「お前が使徒であることはわかっているというのに、何故か主である妖魔の気配はまったく感じられない。それはお前の『否定』の力が作用し、その妖魔が弱体化したから……そういうことだな?」
「あ、うん」
どうして『否定』が発動したのかまでの経緯は省かれているが、おおむね正解なので、僕は頷くしかない。
しかし、まさかこんなところで僕の『妖魔殺し』が役に立つとは思わなかった。アリーシアが僕の血を吸ったおかげで、彼女は妖魔の力の気配を遮断するようになったみたいだから。
僕が頷くのを確かめると、天川さんずんずんと僕の方へと近づいてくる。
なにをされるのかと、手を前に出して構えていると……。
「そうかそうか! お前は我らの同胞か!」
「へっ?」
天川さんは僕の両手を、自分のそれで包みこむと、今までにない笑顔を見せた。
厳しい表情をばかりを浮かべているところしか見ていなかったからか、大人びていた天川の雰囲気は崩壊し、まるで友達と再会できたことを喜ぶ子供のような彼女の笑顔はとても新鮮に見えた。
「同……胞?」
「そうだろう? 同じ『妖魔殺し』を持つのだからな!」
満面の笑みで答える天川さん。
どうやら僕は、天川さんの同類とみなされたらしい。
これはいい。まさか天川さんがこんな態度になるとは想像していなかったけど、この様子なら、なんとかこの場を乗り切ることができるかもしれない。




