第三章 狩人襲来、そして……【9】
僕は死なない。
アリーシアが生きている限り、死ぬことはない。そう彼女は言った。
でも、妖魔に対して優位権を持つ『妖魔殺し』の所持者に殺された場合、僕はどうなる?
本当に死なないのか?
その説明は受けていない。
だから、僕はむやみやたらと動けない。
もし『狩人』が、死という理の外に生きる使徒さえをも滅ぼす存在だとしたら……。
生き残るんだ。死ぬことは考えるな。
僕は死ねない。まだ、死ねない。
探してあげると言った。一緒に、探すと約束した。
一緒にいると言った。高校を卒業するまで、一緒にいると約束した。
二人との約束を、違えることはできない。
だから、生きろ。
自分自身に言い聞かせ、落ちつきなく暴れる鼓動をなんとか押さえつける。
そうして一度冷静になり、集中する。
目の前にいるのは天川李桜。妖魔を狩る『狩人』にして『妖魔殺し』の所持者。
その目的はアリーシアだ。
だが、彼女はアリーシアの所在を把握していない。
……いや、おかしい。おそらく天川さんはショッピングモールにいる僕に目をつけていた。
なら、僕の隣にいたアリーシアの存在にも気づいていたはずだ。
なのに、どうしてアリーシアが、僕の主だと気づかなかった……?
彼女は妖魔の力の気配を感じることが出来るはずなのに。
理由は、まぁいい。アリーシアの所在を知られていないのは、僕にしてみれば好都合。
彼女を直接狙われなかったことを、今は幸運に思おう。
天川さんは、僕に危害を加えるつもりはないと言った。
僕は使徒なのに、なぜだ?
まずは、ここから攻めて行こう。
「教えてほしい」
「なにをだ?」
「どうして、使徒である僕に対して危害を加えないんだ? 君は妖魔を狩る存在じゃないのか?」
「いくら使徒に危害を加えようと、契約元である妖魔を殺さない限り、死なないからだ」
それを聞いて安心する。
よかった、僕は死なない。ここで死ぬことはない。
「というのは表向きの理由だがな」
「……なんだって?」
「我々『狩人』の敵は、妖魔に従う人間ではなく、妖魔そのものだ。我々の理念として、妖魔により使徒となることを強制された人間を解放することがあるからな。だからこそ、我々は必要なく、使徒に危害を加えることはない」
また疑問が増えた。
使徒になった人間を解放する。そんなことが、出来るというのか?
「どうやって、使徒となった人間を解放するんだ?」
「主である妖魔を殺す。そうすれば、使徒はその役目から解放され、人間に戻る」
アリーシアは人間に戻る方法はないと言った。
だが、目の前の天川さんは、主である妖魔を殺しさえすれば、人間に戻れるという。
これは、どういうことだ? アリーシアが僕に嘘をついたのか? それとも、天川さんが僕を騙し、主ごと滅ぼそうと考えているのか?
答えは、わからない。
だけど、僕はアリーシアを信じる。決めたんだ。彼女とともに在ることを。
「伊浪恭平。我々ならば、お前を助けることが出来る。妖魔の支配から解放することが出来る」
天川さんの言葉に、嘘偽りは見られない。本当に、僕を助けようとしているように思える。




