第三章 狩人襲来、そして……【8】
「……天川さん?」
見覚えのある女性が、そこにはいた。
天川李桜。
僕と同じ高校に通う、高校二年生。
黒いセミロングの髪に、無駄の見られないボディライン。吊りあがった目には、少しキツイ印象を覚える。
彼女とはクラスが違う僕だけど、僕は彼女のことを知っていた。
いや、おそらく校内で彼女のことを知らない人はいないと思う。
男子から、『乳神』と崇められる彼女のことを。
現に、今の僕の視線も、天川さんのおっぱいへと注がれている。
一言で言えば、大きい。それに尽きるバストを誇る天川さんは、男子からは『乳神』と崇められ、女子からは羨望のまなざしを向けられる少女だ。
直接会話をしたことはないけど、それでも廊下ですれ違ったりすることもあるので、彼女のことは知っていた。
だけど、わからない。どうして、天川さんが僕のことを……?
「伊浪恭平。単刀直入に訊かせてもらおう」
「な、なにかな?」
思わず後ずさる僕から目を逸らさず、天川さんは言うのだ。
「お前の主は、どこだ?」
それだけで察することができた。
彼女は敵だ。アリーシアを脅かす敵だ。
だからこそ、僕は怯えた。アリーシアの使徒である僕は。
彼女は、どこまで知っている?
僕が使徒で、アリーシアが主であること。言葉からすれば、アリーシアのいる場所、僕の家まではたどりついていないようだけど。
こういうとき、自分の理解力の速さに感謝したくなる。
「主ってなんのことかな? 僕は生憎とSMプレイは好きじゃないんだよねえ」
「誤魔化す必要はない。お前が使徒であることは、一目見ればわかる」
「さいですか……」
見ればわかると言った天川さん。どうやって見抜いたと言うんだろう。僕の外見に変化は見られない。どこも変わっていないはずだ。
「気配だよ」
「えっ?」
僕の心を呼んだかのように、天川さんが言い、続ける。
「使徒となったときから、お前の中には妖魔の力が流れる。その気配の規模から、お前が使徒であることは容易にわかる」
なるほど、と頷くけど、正直気配がどうのというのはよくわからなかった。
それ以上にわからないのは、天川さんのことだ。妖魔の力を気配を感じることが出来るなんて、おおよそ普通じゃない。
彼女は、いったい……?
疑問に思っていると、天川さんが一歩踏み出して、僕は咄嗟に構える。
「安心しろ。お前に危害を加えるつもりはない。むしろ、私はお前を助ける役を担う者だ」
「どういう意味……?」
あくまで警戒したまま、僕は天川さんに訊ねる。
「『狩人』を、お前は知っているか?」
「『狩人』?」
その言葉を、頭の中から探す。
……ある。いや、あると言っても聞いたことがあるだけだ。
あれは、そう。アリーシアが来てから一夜が明けて、そのときの会話の中に、狩人という言葉があった。
アリーシアは追々話すと言って、そのときは話してくれず、未だに僕はそれがなんなのかは知らない。
「『狩人』とは、その名の通り狩る人間を指す。そして狩る対象は妖魔」
妖魔を狩る人間。それが『狩人』。
つまり、彼女はアリーシアを狩るために、僕に近づいた……?
「『狩人』は個人を指すし、妖魔を狩るための組織の名称でもある。まさか、同じ学校の生徒に、使徒がいるとは思わなかったよ」
『妖魔殺し』。妖魔に対して絶対的優位権を持つ異能の力。
そしてそれを振りかざし、妖魔を狩る人間、『狩人』。
気が付けば、僕は店の奥まで追い詰められていた。
いや、天川さんはまったく動いていない。僕が知らず知らずのうちに後ずさっていただけだ。
これは危機だ。
僕は今、間違いなく窮地に立たされている。
妖魔を狩る存在、『狩人』によって。




