第三章 狩人襲来、そして……【7】
五分程度、人混みを歩くと、後ろからまた指示が飛んでくる。
「ショッピングモールを出ろ」
「……目的は、なんなんだ?」
「従え」
あくまで一方的な態度。
だけど、僕はそれに従って、ショッピングモールを出る。
もちろん、後ろの人物は付いてきている。怪しまれない程度の距離を保ちながら。
ショッピングモールを出ると、すぐ目の前に交差点がある。
僕はその交差点を進んで、先にある公園を抜ける。
指示は飛んでこない。これでいいということなのだろうか。
ふと、アリーシアのことが気にかかったが、今はどうすることも出来ない。
なるべく早く、彼女のもとに戻るためにも、今は従うしかない。
公園を抜けた先には、小さな商店街がある。商店街と言っても、すでに寂れていて、そのほとんどが店を閉めている。
それも仕方がない。
近くにあんな大きなショッピングモールが出来ているのだから。
商店街は案の定、ほとんど閉まっている。
「近くにある魚屋に入れ」
「魚屋って、あそこか?」
「そうだ」
商店街に入ってすぐに、魚屋はある。
しかしそこはもうやっていない。経営が困難になって、家族ごと夜逃げしたって噂を聞いたことがある。
だから、魚屋はシャッターを閉じたまま。
シャッターが閉じられているのに、どうやって入れって言うんだ。
一応、言われた通り、シャッターの前までやってくる。
「開けろ」
「鍵とか、持ってないんだけど」
「お前の力なら、造作もないことだろう?」
言われて、身体が震えた。
後ろの人物は、知っている。僕が、使徒であるということを、知っている。
だから、言える、お前の力なら、と。
使徒になることで、人間の限界を超越した力を有する僕の力なら、と。
何者、なんだ……?
そうして、振り返ろうとして、
「振り返るな」
ざくっと、背中になにかが突き刺さった。
「うっ!」
熱い痛みが背中に広がって、声を上げそうになる。
だけど、叫ぶほどの痛みではない。鋭利な感覚はまだ背中に残っているけど、それほど深くは突き刺さっていない。
それはすぐに抜かれ、背中から血が流れていることが自分でもわかる。
「開けろ」
振り返ろうとした状態のまま固まった僕に、指示を飛ばす人物。
背中に確かな痛みを感じながら、僕はシャッターの溝に指を突っ込んで、力を加える。
やはり鍵がないシャッターは簡単には突入を許さない。
だけど、これはまだ人間程度の力を発揮していないからだ。この数日の間に、力の制御は覚えた。
人間と使徒の境界線を保つために。
だから、これからはその境界線を越えて、使徒の力を使う。
「ぐっ!」
足腰に力を込めて、限界を超越するための力を注ぐ。
この程度、なんてことはない。
ガシャン!
ほんの少し、力を注いだだけで、シャッターの鍵は壊れた。
いないとはいえ、ここに住んでいた魚屋さんに心の中で謝罪をしておく。
「入れ」
再び指示が飛んできて、僕はそのまま中を進む。なにもない魚屋の中。寂れている。
暗闇の中を進まされて、そして――
ガシャン!
轟音を上げて、シャッターが閉められる。
その音に反応して振り返るが、背中から襲われることはなかった。
そして僕の瞳は、暗闇の中に、確かに人の姿を見た。




