第三章 狩人襲来、そして……【6】
「……」
ねこきちのぬいぐるみを抱きしめるアリーシアは、気持ちよさそうに、ねこきちをもふもふしていた。
ねこきちのぬいぐるみはすぐに見つかった。
ぬいぐるみを扱う専門ショップにあるそれは、造りもなかなか良くて、それに比例するかのように値も張る。
僕の一月のバイト代の半分を掻っ攫われるとは思いもしなかった……。
だけどまぁ、ねこきちを抱きしめるアリーシアの愛らしい姿を見られただけで僕は満足です、はい。
僕たちが現在いるのは家から少し離れたショッピングモールだ。
多くの店が立ち並ぶ中に、ねこきちを購入したぬいぐるみショップもある。
休日ということもあってか、人通りは多い。
その中でも、アリーシアはねこきちを抱きしめて、心がどこかに飛んでいってしまっている。
手を繋ごうと試みたけど、電流制裁の危険性を考えて、止めておいた。
受けたくないという理由が一番大きいけど、人が多い中でそれを受けるのはマズイだろう。
アリーシアがもし妖魔だと知られたら、パニックになるだろうし、それは避けたかった。
だけど、このままだとアリーシアは人混みに流されてしまうかもしれない。
考えている最中に、オープンカフェを発見した。
アリーシアが戻ってくるまで、少しあそこで休憩していくか。
「アリーシア、ちょっとあそこに行こうか」
「うん」
返事をしてくれることだけが救いかな。
アリーシアと一緒にカフェに入り、彼女を席に着かせて、僕は注文をするために移動する。
注文を待つ人の並びに従って、僕も並ぶ。
僕が並んだと同時に、その後ろにだれかが並んだ。
何気なしに、その姿を確認しようとして、
「振り返るな」
と言われる。
女性の声でありながら、その語気の強さに、僕は振り返ることができない。
違う。これは、違う。
語気が強いとか、そういう話じゃない。
なんだ、これ。
なにか、恐ろしいものが、僕の後ろに立っている。
そして、背中になにかが突きつけられている。
恐怖が、押し寄せる。
本能的な恐怖。この恐怖は、後ろのだれかが僕に与えている。
思わず、ごくりと、唾を飲み込む。
「そのまま、列を外れて、人混みに紛れろ」
「なん、だって……?」
後ろからの指示に、僕は問い返すが、それは答えない。
だというのに、僕はその指示に従った。
そうしなければいけないと、わかっていたから。
僕は列から外れて、雑踏の中に足を踏み入れた。
後ろの人物も、ぴったりと付いてきている。
それからは指示もなく、ただ人混みの中を歩かされる。
人混みに紛れて逃げるという発想はあった。
でも、後ろの人物が何者かわからない以上、そういう突発的な行動に出ることは出来なかった。
周りの人に危害が及ぶ可能性。アリーシアに危害が及ぶ可能性。
相手の思惑がわからない以上、僕はそれに従うしかないのだ。




