第三章 狩人襲来、そして……【5】
「電流制裁をさもオチのように使うのは勘弁してください。この通りです」
土下座で訴えかける。
さすがに一日に四度も電流制裁を受けるのは初めてだ。
身体は、使徒になることで強化された治癒能力のおかげで大丈夫だけど、僕の痛覚が拒絶反応を起こして仕方がない。
「されたくなかったら、余計なことを言わなければいいということが身にしみてわかりましたか?」
「はい」
「では、二度と私の胸のことに関しては言及しないように」
……気にしてたのか……。
僕としたことが、女性が気にしているところを突いてしまうとは、とんだ不覚。
妹だからと言って、女性であることに変わりはないのだから、これからは注意しなくては。
響子は言いたいことを言うと、たたみ終えた洗濯物を持って、居間を出る。
居間に残されたのは、未だ正座姿勢を保つ僕と、
「……」
アニメにご執心のアリーシアのみ。
響子のバストについて言及した僕に電流制裁をした彼女は、デリカシーがない、の一言を僕に浴びせてから、ずっとテレビを見ている。
どうしてこうなってしまったのだ。僕はただ、遊びたかっただけなのに……。
……遊び?
「そうだよ! 僕は遊びに行きたかっただけなんだよ!」
当初の目的を忘れていた僕は、立ちあがった。
なんだか話しがいろいろなところに派生したけど、始まりはそこだったのだ。
しかし、今の状況下で考えれば、おそらく響子は僕と遊びに出てはくれないだろう。バストの件で相当怒っているようだし。
なら、アリーシアだ。
さっきは邪な気持ちを持っていると思われたから、電流制裁を受けそうになったけど、そうじゃないというところを全面的に押し出して、誘ってみよう。
「アリーシア、僕と遊びに行かない?」
「行かない」
「……なんで?」
即答されて、思わずへこむ。
おおよそ予想通りだけど、でも、それでも、なぁ。
「わたしは『アニマルランド』を見るのに忙しい」
アニマルランドというのは、アリーシアご執心のアニメの名前だ。
十何年も前から続く長寿アニメなだけに、その話の数は尋常じゃなく多い。
アリーシアはそれを毎日見ているけど、まだ半分にも到達していない。多く見積もって、五分の一くらい。
今借りてきている分がまだ三本ほど残っているから、それを見終わるのを待つとなれば、夕方は過ぎてしまう。
……なんとかして、アリーシアを遊びに連れだせないだろうか。
さすがにいつも家に籠っているのは見過ごせない、というのは建前で、アリーシアと遊びたいだけなんだけど。
「アリーシア、『ねこきち』のぬいぐるみ、欲しくない?」
「っ!」
ビクッと、アリーシアの肩が震えた。
ねこきちというのは、アニマルランドの主人公で、動物たちが暮らすアニマルランドを流離う風来坊の猫だ。
そのねこきちが立ち寄る先々の話こそが、アニマルランドというアニメなのだ。
きりっとした目つきに、ツンと伸びた髭。虎模様の体表にぷにぷにの肉球。
外見は可愛いのだが、その実、中身は粋な男であり、村々の問題を解決して、別れも告げず一人で去っていくその姿には感銘さえを覚える。
そのねこきちのぬいぐるみを提示されて、アリーシアは僕を振り返る。
「……あるの?」
「あるよ。この前、ショップで売っているのを見かけたからね」
女性に送るプレゼントを販売している場所の調査を欠かさなかった自分を褒めてやりたい。
僕の答えを聞いたアリーシアはソファから降りると、再生していたビデオデッキ(アニマルランドはまだDVD化がされていなくて、古いシリーズはまだVHSだ)の停止ボタンを押して、テレビの電源を切る。
そして僕の隣を通り過ぎて、そのまま居間から出て行く。
それから少しして、
「恭平」
居間に戻ってきたアリーシアは、響子が用意した外出用の服に着替えている。
「遊びに行こう」
「え、あ、うん」
どことなく興奮しているアリーシアを見て、少し微笑ましくなった。




