第二章 主VS妹【2】
「そ、それよりも! アリーシアって電流を使えるんだよね?」
「ん、うん。使える」
無理やりだけど、どうにか話題をもとに戻すことができた。
「それも吸血鬼の力なの?」
そう、とアリーシア。
「妖魔は、大きく分けて二つの力を使うことが出来るの。ひとつは、自分の体の中に流れる力、魔力を練ることで発動する『魔術』。もうひとつは、妖魔によって持った力が異なる『権能』と呼ばれる力」
そこで一度牛乳を口に含んで、飲む。
「吸血鬼であるわたしが持つ『権能』は『支配』『吸血』『雷』の三つ。恭平を使徒にしたのは『支配』の力、血を吸うことで力を得るのは『吸血』の力、電気を司るのは『雷』の力」
「使徒は『権能』とか『魔術』とか、使えないの?」
「使えると言えば、使える。使徒は主から魔力の供給を受けるから、訓練さえすれば『魔術』は使える。『権能』に関しても、使徒は主の『権能』を引き継ぐから、使うことが出来る。恭平の場合は、主であるわたし、吸血鬼の『権能』の中で、『雷』が使える。『支配』と『吸血』は吸血鬼が使うことで効果がある力だから、使えない」
言われて、自分の手のひらをまじまじと見つめる。
力を使える、か。
『妖魔殺し』の力、『否定』は自分の意思で使えるものじゃないけど、『雷』や『魔術』は自分で使うことができる。
でも、使い方がいまいちわからない。
「どうすれば使えるの?」
「『魔術』に関しては、訓練が必要だから、すぐには使えない。でも『雷』は簡単。自分の中に流れる魔力を感じ取って、それを練る。そして放つ。それだけ」
と言われましても。
自分の中に流れる魔力。
自分ではよくわからない。
昨日もそうだったけど、僕が感じる自分の変化は身体が軽くなった、程度なのだ。
魔力がどうのこうのとかは、わからない。
出ろ、出ろ、と念じてみるが、なにも起きない。
自分の手とにらめっこをしていると、不意にアリーシアが僕の手を握った。
瞬間、ぴりりと、手のひらを電流が駆け抜ける。
「これが『雷』の力。威力は最低にしているけど、この感覚を身体の中から出すようにしてみて」
感じる電気に混じって、仄かながら、なにか、別種の力を感じる。
たぶん、それが魔力。
その感覚を感じながら、目を閉じて、自分の中の『それ』を探す。
……あった。ごく微量だけど、感じることができる。
これを、搾り出すようにするんだよな。
手のひらに、温かみが現れた。
それを集めるように、集中する。
胡散しそうになるそれを決して放さないようにして、自分の中から魔力を絞り出す。
「うん、その調子」
アリーシアの声が聞こえたような気がするけど、それを気にしていると、せっかく練った力が散ってしまいそうなので、あくまで練ることに集中する。
………………………………………………あれ?
「恭平?」
アリーシアも気づいたようで、僕の名前を呼んだ。
「消えた?」
呟いて、手のひらを見る。確かに、僕は魔力を練っていたはずだ。
手のひらに残る少しの温かみがそれを証明している。
しかし、そこにはもう力はなかった。
途中までは上手く練れていたはずだ。
集中もしていた。それがなぜか、急に突然、消えてしまった。
「……妖魔殺しの影響かも」
アリーシアが僕の手を握ったまま呟いた。
「どういうことなの?」
「恭平の妖魔殺しが『否定』だっていうのは話したよね? おそらくだけど、恭平の中で練られた魔力が、『否定』の干渉を受けたんだと思う」
つまりは、なんだ。
「僕は『雷』の力を使えないってことなの?」
「そうとも言い切れない。途中までは上手く練れていた。だから、ある程度、魔力が高まれば、それに『否定』が干渉するってことだと思う」
「使えるには使えるけど、力の使用に限度があるってこと?」
たぶん、とアリーシアは頷いた。
「消える寸前の力の具合からして、大した威力は期待できない。効果範囲も、直線で一メートルあるかないかくらい」
なんというか、改めて考えてみれば、僕ほど使徒に向かない使徒も珍しくはないんじゃないのかな。
主を弱体化させるわ、権能で行使できる力はさして役に立たないわ、踏んだり蹴ったりだ。
「うーん。どうにかして使えないかな」
「諦めた方がいい。『妖魔殺し』は妖魔の力に対して優位権を持つし、捨てようと思って捨てることができる力でもない」
「ダメか……」
「わたしの力も弱体化しているから、それほど威力はないけど、あなたよりはまともに力を使えるから。もし《狩人》に襲われでもしたら、そのときはわたしが戦うから」
「《狩人》?」
聞き慣れない単語に首を傾げる。
「……それについては追々話すことにする」
「うん、わかった」
「……追及しないの?」
「無理やり女の子から聞き出すっていうのは、僕のポリシーに反するからね。いつかは話してくれるんだから、いいよ。それに――」
僕たちには長い時間があるから、という言葉を口にしようとして、止めた。
「それに?」
「朝ごはん、冷めちゃうから」
用意してあった朝食はすでに冷め始めているけど、ほんのりとした温かみは残っている。
我ながら、上手い逃げ方だと思った。
アリーシアも疑わず、うん、と答えた。
危なかった。
また、アリーシアに暗い表情をさせるところだった。
アリーシアは、少なからず、僕を使徒にしてしまったことに対して罪悪感を抱いている。
それは、僕が気にしないで、と言ってもだ。
だから僕は極力、人間としての時間を失ってしまった、と思わせるような言動は控えるように決めたのだ。
アリーシアの笑顔は見たいけど、暗い表情は見たくないから。




