第一章 満月の夜、僕は使徒になる。【14】
「せっかく道を用意してもらって悪いんだけど、もうとっくに僕は選んでいるよ」
「え?」
そう答えて、僕は呆気に取られるアリーシアの前にかしずいて見せる。
アリーシアの左手を恭しく掴む。
「僕は君とともに生きる。それが僕の選んだ道だ」
「……いいの?」
「うん」
即答して、頷く。
「僕はもう人間じゃない。君は普通に暮らしてもいいと言ったけど、そんなことはできないよね。だって僕には死がない。君が死なない限り、僕は永久に、人間に訪れる死という制約の外に生きることになる。いつかはだれかが気づくよ。おかしいって。そうなれば、そこにはもう普通は存在しなくなる」
アリーシアは僕に二つの道を提示してくれたけど、選べるのはそのうちひとつの道だけなのだ。
二つあったとしても、もう一方を選択することはできないのだ。
僕は人間じゃないから。
だから、仕方がない。
どうしようもない。
なら、僕が選ぶ道はただひとつ。
「君がよければ、君のそばに置いてほしいな。さすがに、ひとりで長い時を生きるのは寂しいから」
笑いながら言うと、アリーシアは顔を歪ませた。
「ごめんなさい。わたしがあなたの血を吸ってしまったから……」
「あぁ、ごめん。別に責めるつもりで言ったわけじゃないんだ。だから気にしないでよ」
慌てて取り繕うが、アリーシアの顔は暗いままだ。
うーん、女性の扱い方には慣れているつもりだけど、どうやら失敗してしまったらしい。
これはダメだ。
女性の扱い方には気をつけろ、と言い残した父さんに示しがつかない。
いや、父さんは生きているよ?
なんだか死んでいるような言い方だけど、ちゃんと生きて、海外でバリバリに働いているよ?
それはいいとして、どうにかして、彼女を笑顔にしてあげないと。
「ねえ、アリーシア。申し訳ないって思ってくれるのなら、笑ってくれないかな?」
「笑う……? どうして?」
「僕が君の笑顔を見たいから。可愛い女の子の、可愛い笑顔が僕にとっての元気の源なんだ。だから、笑ってよ。そうして、もう気にしないで。僕を使徒にしたこと」
言うと、アリーシアは少し戸惑いを見せながらも、必死に笑顔を作ろうとしてくれた。
ぎこちない笑みに納得がいかないアリーシアは、何度も何度も、これは違う、こうでもない、なんて言葉を繰り返す。
その姿は十分に可愛らしくて、それを見ているだけでもうたまらない。
いや間違えた。元気になった、だった。




