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77 ちょっと、それ、わたしのピザ!



ピザ屋の外では、人々がのんびりと歩道を行き交っていた。車の音が聞こえ、風が木々の葉を揺らしている。客たちはトミー・ピザを出たり入ったりしていて、ドアが開くたびに、店の匂いが通りへとこぼれ出した。オレガノ、焼けた生地、そして薪窯でこんがりと焼けたチーズ。


カウンターの奥では、リュウが笑顔で、客のためにピザを箱に詰めていた。ときどき顔を上げては、窓際の席に目をやる。そこには、キアロコとサリコ嬢が座っていた。


二人が一緒にいるのを見た驚きが、まだ抜けていなかった。


冷蔵庫から、客のためにオモリ・ロサを二本取り出す。


(まあ……あいつが、面倒なことに巻き込まれてなきゃいいがな)


心の中でそう思った。


(ましてや、あの家族とな)


飲み物を手渡す。客たちは愛想よく挨拶をして、ドアから出ていった。


チリン、チリン。


窓際のテーブルでは、サリコがうつむいたまま、キアロコに話しかけていた。キアロコは、まだ何も答えていなかった。


「もし、お父さんとわたしが、どこかで至らなかったなら……本当にごめんなさい」


小さな声で言った。


「あのね……もっと早く話さなかったのは、わざとじゃなかったの」


隅のテーブルでは、三人の女の子が、サリコから目を離せずにいた。うつむいたサリコの姿は、まるで謝っているかのように見えた。


「ねえ、見て」


長いポニーテールの黒髪の子がささやいた。


「サリコ、あの男の子に謝ってるみたい」


「もしそうなら、わたしならそんなことしないけどね」


毛先が紫の金髪の子が、少しからかうように言った。


「ましてや、こんな場所で」


「まるで、あのテーブルで何を話してるか知ってるみたいな言い方ね」


白いブラウスに赤い髪の子が、横目で彼女を見ながら言った。


「そういうの、よくないよ。特にあなたはね、ソヤコ」


ソヤコは髪をかき上げた。金色の髪がひと房、はらりと乱れた。


「あーあ、あなたが説教なんかするから、髪が乱れちゃったじゃない」


しぶしぶ直しながら言う。


「それに、なんであの男の子と話すわけ? ねえ、ユキコ、教えてよ。あれは謝ってるの? それとも、あの子に恋してるの?」


ユキコは目を伏せた。赤い髪が、白いブラウスの上に落ちる。


「たとえそうだとしても、何か理由があるんでしょ」


窓のほうへ視線を上げた。


「たぶん……ほら、あの男の子を見てよ。かっこいいと思わない? 二人とも趣味が悪いなあ。ちゃんと見てないんじゃないの? レイコなんて、背中を向けてるし……」


話しながら手を伸ばし、黒髪の子のピザの箱から、ひと切れ取った。


「ちょっと、それ、わたしのピザ! ユキコ!」


レイコは長い黒髪のポニーテールを後ろに払いながら、むっとして抗議した。


「今はわたしのよ」


ユキコはにっこり笑った。


「それに、あなたにはペパロニが残ってるでしょ。わたし、こっちの野菜のが食べたかったの」


レイコは深く息を吸って、それ以上は何も言わなかった。


「あの男の子を見てないわけじゃないよ。ただ、タイプじゃないだけ。それに、サリコがあの人と一緒にいるなら、きっと何かあったんだよ。わたしたちには関係ないことでしょ」


ソヤコはテーブルに突っ伏して、金色の髪をふうっと横に吹き飛ばした。


「へえ、じゃあレイコのタイプって?」


にやりと笑う。


「まさか、女の子と話すのにも手伝ってあげなきゃいけないような男が好き、なんて言わないでよね」


「そういうのが好きだったりして?」


ユキコも一緒になってからかった。


「だって、レイコが男の子と話してるとこなんて、一度も見たことないし……」


「自分には彼氏がいるみたいな言い方ね」


レイコが言い返した。


「わたしだって、あなたが誰かといるとこなんて、一度も見たことないけど」


じっと彼女を見つめる。


「それとも、学校の廊下を歩きながら、男の子と手をつないでるつもりにでもなってるの?」


落ち着いた様子でため息をつき、テーブルのオモリ・ベルデを手に取った。


ほかの二人は黙りこんだ。そして、二人もオモリをひと口すすった。



   *



窓際のテーブルでは、謝り続けるサリコを、キアロコが見つめていた。それから、その言葉をさえぎった。


「謝らなくていいよ、サリコ。君は、俺に何もしてない」


サリコは、ゆっくりと顔を上げた。


「ただ……元気かどうか、知りたかっただけなの」


「俺は大丈夫だよ、サリコ」


キアロコは一瞬、目を伏せた。


「それに正直、言いにくいけど……謝るべきなのは俺のほうだ。何も言わずに出ていったんだから。許してもらえるといいんだけど。何もかも、あっという間に手に負えなくなった。今じゃ、望んでもいない戦争の中にいる」


「うん。でも、あなたはひとりじゃない」


サリコは、少し元気を取り戻して言った。


「それを、わかってほしいの」


キアロコは深く息を吸った。


「わからないよ、サリコ。まだ俺たちが知らないことがある。それに、君がそばにいたら、君まで傷つくかもしれない。そんなのは嫌なんだ」


「わたしたちは、あなたを助けるためにここにいるの。だから、そんなことは関係ない。わたしたちの務めは、あなたを助けること。あなたが何者なのか、どうしてこんなことが起きているのかを、理解する手助けをすることなの」


「ああ。でも、君たちは何も知らない。怪我をするかもしれない。そうなる前に……勇作さんに何かあったら、嫌なんだ」


それから、彼女の目をまっすぐに見つめた。


「君を失うなんて、耐えられないよ、サリコ。だから、離れていたほうがいいんだ」


サリコは耳まで真っ赤になった。


何と言えばいいのか、わからなかった。


(え……今、なんて言ったの? 聞き間違い? きっと、あのドアのベルのせいだ。あれのせいで、キアロコの言ったことを聞き間違えたんだ……どうしよう? 穴があったら入りたい!)


背景では、隅の古いテレビから、笛の音楽が何事もなかったかのように流れ続けていた。


「お待たせいたしました、陛下」


いつの間にか、リュウがそばに来ていた。どこか妙な顔で二人を見ている。テーブルに、ワインのグラスを置いた。


「ワインをお持ちしました。ピザがご入用でしたら、喜んでお持ちしますよ」


「あっ、リュウ、こんにちは!」


サリコはそわそわしながら、リュウの肩をぽんと叩いた。


「大丈夫、ワインありがとう。ピザは、キアロコのを食べるから、平気だよ」


「ああ、そうですか」


リュウは微笑んだ。


「お二人が仲良くされていて、うれしいですよ。キアロコに友達ができるのは、いいことです」


サリコは、自分が今何を言ったのかに気づいて、青ざめた。


「大丈夫ですか、陛下?」


リュウが彼女を見ながら尋ねた。今度は、リュウのほうが落ち着かない様子だった。


「うん! ちょっと疲れてるだけ、それだけだよ」


キアロコのほうを振り向いて、にっこり笑う。


「そうだよね、キアロコ?」


キアロコは口いっぱいにピザを頬張っていた。何か言ったが、誰にも聞き取れなかった。まるで、その騒ぎに巻き込まれたくないかのように。


「では、お邪魔はしませんので、お二人でごゆっくりピザをお楽しみください」


リュウが言った。


「ほかに何かありましたら、お申しつけください」


リュウは窯のほうへ戻っていった。


サリコはワインをひと口飲み、ピザを食べるキアロコを見つめた。


「あなたの言いたいことはわかるよ、キアロコ。でも、わたしたちはできるかぎりのことをする。それが、わたしたちの務めだから。惑星間の安全を守るっていう務め。信じられないかもしれないけど、あなたには、わたしたちの助けがたくさん必要になる」


キアロコは、ピザを飲みこんだ。


「君と勇作さんが距離を置いてくれるなら、それでいい」


サリコはうつむき、グラスを見つめた。


「わかった。つまり、わたしたちにそばにいてほしくないんだね」


「君たちが事務所で無事に過ごしているのを見られれば、それでいい。家に会いに来てくれるのもいい。でも、危険の近くにいるところは見たくないんだ」


声が、少し真剣さを帯びた。


「これは、書類や防衛政策の戦争じゃない」


サリコは、目を皿のように丸くした。


わかったのだ。そばにいてもいい。ただし、自分たちを危険にさらすようなことに、首を突っこまなければ。瞳が輝き、彼女はもうひと口ワインを飲んだ。


「うん、わかった。命を危険にさらすようなことには関わらない。そして、できるかぎりあなたを助ける」


キアロコはオモリをひと口すすった。サリコは箱からピザをひと切れ取り、笑顔で口に運んだ。



   *



隅のテーブルでは、レイコがオモリをテーブルに置いて、ユキコとソヤコを見た。


「それに、わたしは強い男の人が好きなの。背が高くて。どこかに入ったら、入り口の時点で、わたしを片手で持ち上げられるような男と一緒なんだって、みんなにわかるような。あの男がわたしを支配してるって、そう言われちゃうような」


両手を頬に当てる。


「想像しただけで、顔が赤くなっちゃう」


その瞳は、二つの星のように輝いていた。


友達二人は、笑いだした。



   *



カウンターの奥で、リュウがピザの箱を持ち上げたとき、不意に、ひどく奇妙な感覚に襲われた。


あの重さだ。リュウ自身の力にぶつかってくる、あの圧力。


キアロコが近くに来たのだと思い、リュウは身を起こして、カウンター越しに覗いた。


「どうした、キアロコ。何かあったか?」


だが、そこには誰もいなかった。キアロコは、窓際の自分の席に座ったままだった。リュウは戸惑った。キアロコが近づいてくるときは、いつもわかるはずだったからだ。


その瞬間、ベルが鳴った。


チリン、チリン。


ドアが開き、背が高く、胸板の厚いたくましい男が入ってきた。


カウンターへ向かうその一歩一歩が、まるでそれ自体に重さがあるかのようだった。近くにいた客たちは、男がそばにいると妙な感覚を覚えた。まるで、男の歩みに合わせて、重力が重くなっていくかのように。


キアロコは、男がドアをくぐるのを見て、目を離すことができなかった。


男はその視線を受け止めた。それから目をそらし、歩き続けた。


隅のテーブルでは、レイコが、店内を歩く運命の人を見つめていた。口の端から、よだれがひと筋垂れている。友達二人も、固まったまま男を見ていた。


リュウは、カウンターに近づいてくる男を見て、凍りついた。まるで、雪崩がまっすぐ自分に向かってくるかのように。男の一歩ごとに、ピザ屋の床がかすかに震えるようで、客たちもそれに気づいていた。


キアロコとサリコは、瞬きもせずに男を見つめていた。


それは、クレーンが落ちてきたとき、あの大勢の人々を救った男だった。

【ユキコより】

野菜のピザ、ごちそうさまでした♪ レイコ、怒ってないよね?

それにしても……今、入ってきたあの人、誰なの? レイコ、よだれ出てるよ。

次の話も、お楽しみに!

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