71 風の毒
『集中しなさい……さもなくば、死ぬのよ』
第二の試練 ―― 残響の間 昇りゆく虚空
ソラは、純粋な風でできた透明な台座の上で、立っているのがやっとだった。周りでは雲があらゆる方向へ流れ、まるで空そのものが乱れてしまったかのようだった。突風が体を打ち、髪は制御を失ったように暴れていた。
そのとき、血が落ちるのが見えた。
気づいていなかった。腕を、脚を、脇腹を見る。体のあちこちに、切り傷ができていた。傷ついた自分を見て、怖くなった。そしてその瞬間、また血を吐いた。
膝をつく。視界が、少しかすんだ。何が起きているのか、まったく分からなかった。
(わたし、どうしちゃったの? なんで、こんなことになるの?)
ソラは思った。
(キアロコにも、同じことが起きてるのかな……わたしに心配かけないように、黙ってるだけで?)
台座の上で膝をついたまま、内からも外からも、苦しみ続けていた。
それまで穏やかに黙っていた神殿の声が、今は笑っていた。
そして、台座が砕けた。
ソラは落ちた。
下へ向かっているのか、上へ向かっているのか、分からなかった。雲が上にも下にも流れていき、方向の感覚をすべて消し去っていく。そして落ちていくあいだ、声が雷のように轟いた。
『死になさい……死になさい……死になさい』
どこからともなく、荒々しい風が湧き起こった。やさしいそよ風ではない。見えない刃だった。打ちつけてくる突風のひとつひとつが、容赦なかった。どこから来るのか見えず、防ぐこともできない。宙に浮かぶただの的となり、彼女を壊すことしか望まない嵐に、閉じこめられていた。
突風は次々と彼女を打った。肋骨を、背中を、脚を、腕を。まるで風そのものが、彼女の知らない何かのために、彼女を罰しているかのようだった。傷はどんどん増えていく。見えない何かの前で、彼女は盲目だった。
(わたし、ここで死ぬんだ)
悲しげに、ソラは思った。
(どうして、わたしなの? わたし、何も悪いことしてないのに。どうして、傷つけるの?)
神殿の声が、また語りかけた。今度は、もっと穏やかに。
『風のひと吐息は、海をまるごと押し流すことさえできる』
「何も分かんないよ!」
風に切り裂かれながら、ソラが叫んだ。
「それって、どういう意味? どうして攻撃するの? 姿も見えないのに!」
まだ落ちていた。それとも、昇っていたのか。もう、分からなかった。
『風のひと唸りは、森をまるごと薙ぎ払い、無に帰す』
「でも、何もできないよ! 動けないの!」
何かつかまれるものを探しながら、ソラが言った。何もなかった。空気だけ。
「足をつく場所もない!」
声が、さっきより近くで聞こえた。さっきより、やさしく。
『風が宙で舞えば、花は風に従い、ゆっくりと漂う』
ソラは、その言葉の意味を理解しようとした。けれど、痛みが強すぎた。
「目が、回る……」
『けれど、解き放たれ、制御を失えば、その力はすべてを壊す。肉を裂き、魂さえも砕くのよ』
『集中しなさい。目を閉じて』
ソラは、やってみた。目を閉じようとした。けれど、打撃は絶え間なく、残酷だった。集中できない。息ができない。また突風が、まっすぐ胸を打ちつけた。息が止まりかけた。
『集中しなさい……さもなくば、死ぬのよ』
必死で、ソラはぎゅっと目を閉じた。風はまだ彼女を打っていた。けれど今度は、痛みの向こうに耳を澄まそうと、自分に言い聞かせた。声の言葉を思い出す。風は、敵ではない。自分の一部なのだ。
混沌は、外から来ているのではなかった。それは、あふれ出し、制御を失った、彼女自身の力だった。打撃は、彼女自身のものだった。均衡の欠如。恐れ。制御の欠如。
目を閉じたままでいようとした。けれど、突風が腹を打った。血を吐く。鋭い一撃だった。痛みと、悔しさと、怒りが、頭の中を駆け抜けていく。
「すごく痛い……目も、閉じていられない」
落ち着こうとしながら、ソラは言った。
『死になさい……死になさい……死になさい……』
声は繰り返していた。今度は、笑いと悪意をこめて。
新しい傷が肌に開き始め、また血が流れた。ソラは痛みに叫んだ。どうすることもできなかった。
深く息を吸い、ありったけの力で目を閉じた。
「落ち着いて……落ち着いて……痛すぎて、集中できない……」
そして、それを感じた。
風が、彼女の内側で渦を巻いていた。自分の体の中の混沌を、感じることができた。
「見えた……ここにある」
けれど、何かをしようとした瞬間、突風が左腕を打った。続いてもうひとつ、左脚を。集中しようとすればするほど、打撃は速くなっていった。
ソラは、息を止めた。
じっと、動かずにいた。そして、それを導き始めた。
それから、息を吐いた。吐き出せるだけの風を、口から放った。血と一緒に。
そして、それは起きた。
ひとすじの気流が、渦を巻いて彼女の体を包み始めた。目に見える鎧ではない。けれど、揺るぎない堅さで、彼女を守っていた。風は、精密になった。彼女のすべてが、守ってくれる神秘の力と同じリズムで踊ることを覚えたかのように。
腕。脚。胸。彼女のすべてが強くなっていた。鋼ではなく、そよ風となった自分自身の本質によって。それは見えない舞であり、荒々しい力が、命を奪うほどのやさしさと溶け合う、静かな契りだった。
そのとき、彼女は悟った。すべての傷は、自分の内側から来ていたのだと。それは、制御のなさが実らせた苦い果実だった。憎しみに浸された盲目の怒り。偽りの幸せという幻。そして、不可能なことを無理やり手に入れようとする妬み。そのあいだずっと、精霊が内側から彼女を喰らい、少しずつ腐らせていたのだ。
雲が、静まった。落下が、終わった。台座が足元に組み上がっていく。これまでになく、確かに。
『精密さ。均衡。流れを操ること……そして、愛』
風の声が、そう囁いた。だんだん耳元に近づき、だんだん穏やかになりながら。
『そうして初めて、あなたは自分の毒を捨て去れる。あなたを腐らせていた、その毒を』
ソラは、息を吐いた。
そして、風が彼女を抱きしめた。今度は、敬意をこめて。
彼女の体が、鮮やかな空色に輝き始めた。そのあいだも、彼女はこのうえなく静かに呼吸していた。目を閉じ、台座の上に立ったまま、世界のすべてが止まるのを感じた。
そして、何もかもが動きを止めた。




