↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
61/88

61 奪われた光、砕けた空




ビルの向こうに日が沈み始めるなか、三つの人影が歩道を進んでいた。


街の色が変わっていく。屋根の上で夕焼けのオレンジが少しずつ消え、明かりがひとつ、またひとつと灯っていった。街灯、店の看板、アパートの窓。夜の空気は生ぬるく、まだ昼の熱を含んでいた。


ソラは足を引きずって歩いていた。服は焦げて破れ、髪はグリルから出てきたばかりのようだった。


キアロコはその後ろを歩いていた。険しい顔で、疲れきっている。服はぼろぼろで、切り傷の血はまだ、アンジーニの攻撃の水と混じり合っていた。


サリコはソラの隣で、腕を組んでため息をついていた。


「ほんとに、ちょっと休まなくていいの?」


サリコが、少し笑いながら聞いた。


「足の生えたフライドポテトみたいだよ」


「ひどい格好だな」


ソラを見ながら、キアロコが正直に付け加えた。


「おほめにあずかり、どうも」


ソラがうなった。


「この黒焦げスタイル、すっごくがんばったんだから」


キアロコは首をかしげた。


「そのとおりだ。フライドポテトみたいだ」


「もう、ちょっと! キアロコまで?」


ソラが抗議した。


サリコがキアロコの横に並んだ。


「そっちだって、たいしてましじゃないけどね?」


そう言って、彼の肩に手を置いた。


「いっ……! おい、そこ触るな!」


キアロコが、痛みに顔をしかめて文句を言った。


サリコはにっこり笑って、少し前に出た。振り返って彼と向き合い、後ろ向きのまま歩き続ける。


「まあ、その黒い粉のメイク、似合ってるよ?」


キアロコは目を伏せた。何を言いたいのかは、よく分かっていた。木の幹の灰で、顔じゅうが覆われていたのだ。髪もそうだった。ソラは彼の顔を見て、小さく笑った。


それから自分の髪を見て、ひと房を指でつまんだ。


「うん。でも、わたしの髪、フライヤーに長く入れすぎたみたい。もう金髪にも見えない」


「きっと注文がキャンセルされて、フライヤーの中で忘れられたんだね」


通りを歩きながら、サリコが笑って言った。


キアロコは髪に手をやり、半分目を閉じて、疲れた息をついた。ソラは目的もなく、元気もなく、足を引きずって歩いていた。


サリコは声を上げて笑った。だが、二人の傷にもう一度目をやると、その表情が変わった。


「ビルに着いたら、手当てしよう。そのあとで、お父さんと話そう」


ソラはうなずいた。ちょうどそのとき、歩道の段差につまずいた。危うく転ぶところだった。


「最高……今度は地面まで、わたしの敵なの」


二人が笑った。


「はいはい」


ソラがぶつぶつ言った。


「かわいそうな傷だらけの戦士を、笑えばいいよ」


「かわいそうなのに、笑っちゃう。両方いっぺんだね」


サリコがにっこりした。


サリコには、特別な才能があった。人をからかう才能だ。



   *



角に着いた。信号は赤で、車が三人の前で止まった。エンジンが低くうなり、ヘッドライトが横断歩道を照らしている。そばでは、ほかにも信号を待つ人たちがいた。買い物袋を提げたカップル、電話を耳に当てたスーツの男、自転車にもたれた配達員。何人かが、灰と血にまみれた三人の若者にちらりと目をやり、すぐに視線をそらした。


待っているあいだ、キアロコは眉をひそめて空を見上げた。街の明かりのあいだから、最初の星がのぞき始めていた。


「気に入らねえ……」


キアロコが言った。


「あの女……いったい何者なんだ?」


「うん」


ソラがうなずいた。


「いきなり現れて、なんの理由もなく、わたしたちを木っ端みじんにしかけた」


「あいつは、俺たちを助けに来たんじゃない」


キアロコが言った。


「それに、何かがあったから、帰っていったんだ」


信号が青に変わった。三人はほかの人たちと一緒に、足音のざわめきと歩行者信号の電子音のなかを渡った。


サリコは、何も言わずに聞いているだけだった。彼女は、何が起きたのかを知っていた。


「それに」


キアロコは続けた。


「一瞬、あいつは俺を知ってるみたいな目で見た。あの憎しみが、俺を殺したがってるみたいに。あの目は、前にも見たことがある」


「うん……正直、何が起きてるのか、分かりにくいよね」


サリコが言った。


「ソラも一度、同じ憎しみの目で、キアロコを見たことがあるよね。殺したいみたいに」


「ほんとに、そう」


ソラが言った。


「いなくなってくれて、よかった。なんでか分からないけど、一瞬だけあの人が自分に戻って、帰ることにしたんだ。ちょうど、わたしたちのほうに来てたときに」


深く息を吸う。


「よかった」


サリコは、疲れきって限界に近いソラの髪をなでた。


キアロコは少し後ろを、ゆっくりと歩いていた。夜がすっかり街に降りていくなか、空を見上げている。建物の明かりが、その瞳に映っていた。


物思いに、沈んだまま。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。