61 奪われた光、砕けた空
ビルの向こうに日が沈み始めるなか、三つの人影が歩道を進んでいた。
街の色が変わっていく。屋根の上で夕焼けのオレンジが少しずつ消え、明かりがひとつ、またひとつと灯っていった。街灯、店の看板、アパートの窓。夜の空気は生ぬるく、まだ昼の熱を含んでいた。
ソラは足を引きずって歩いていた。服は焦げて破れ、髪はグリルから出てきたばかりのようだった。
キアロコはその後ろを歩いていた。険しい顔で、疲れきっている。服はぼろぼろで、切り傷の血はまだ、アンジーニの攻撃の水と混じり合っていた。
サリコはソラの隣で、腕を組んでため息をついていた。
「ほんとに、ちょっと休まなくていいの?」
サリコが、少し笑いながら聞いた。
「足の生えたフライドポテトみたいだよ」
「ひどい格好だな」
ソラを見ながら、キアロコが正直に付け加えた。
「おほめにあずかり、どうも」
ソラがうなった。
「この黒焦げスタイル、すっごくがんばったんだから」
キアロコは首をかしげた。
「そのとおりだ。フライドポテトみたいだ」
「もう、ちょっと! キアロコまで?」
ソラが抗議した。
サリコがキアロコの横に並んだ。
「そっちだって、たいしてましじゃないけどね?」
そう言って、彼の肩に手を置いた。
「いっ……! おい、そこ触るな!」
キアロコが、痛みに顔をしかめて文句を言った。
サリコはにっこり笑って、少し前に出た。振り返って彼と向き合い、後ろ向きのまま歩き続ける。
「まあ、その黒い粉のメイク、似合ってるよ?」
キアロコは目を伏せた。何を言いたいのかは、よく分かっていた。木の幹の灰で、顔じゅうが覆われていたのだ。髪もそうだった。ソラは彼の顔を見て、小さく笑った。
それから自分の髪を見て、ひと房を指でつまんだ。
「うん。でも、わたしの髪、フライヤーに長く入れすぎたみたい。もう金髪にも見えない」
「きっと注文がキャンセルされて、フライヤーの中で忘れられたんだね」
通りを歩きながら、サリコが笑って言った。
キアロコは髪に手をやり、半分目を閉じて、疲れた息をついた。ソラは目的もなく、元気もなく、足を引きずって歩いていた。
サリコは声を上げて笑った。だが、二人の傷にもう一度目をやると、その表情が変わった。
「ビルに着いたら、手当てしよう。そのあとで、お父さんと話そう」
ソラはうなずいた。ちょうどそのとき、歩道の段差につまずいた。危うく転ぶところだった。
「最高……今度は地面まで、わたしの敵なの」
二人が笑った。
「はいはい」
ソラがぶつぶつ言った。
「かわいそうな傷だらけの戦士を、笑えばいいよ」
「かわいそうなのに、笑っちゃう。両方いっぺんだね」
サリコがにっこりした。
サリコには、特別な才能があった。人をからかう才能だ。
*
角に着いた。信号は赤で、車が三人の前で止まった。エンジンが低くうなり、ヘッドライトが横断歩道を照らしている。そばでは、ほかにも信号を待つ人たちがいた。買い物袋を提げたカップル、電話を耳に当てたスーツの男、自転車にもたれた配達員。何人かが、灰と血にまみれた三人の若者にちらりと目をやり、すぐに視線をそらした。
待っているあいだ、キアロコは眉をひそめて空を見上げた。街の明かりのあいだから、最初の星がのぞき始めていた。
「気に入らねえ……」
キアロコが言った。
「あの女……いったい何者なんだ?」
「うん」
ソラがうなずいた。
「いきなり現れて、なんの理由もなく、わたしたちを木っ端みじんにしかけた」
「あいつは、俺たちを助けに来たんじゃない」
キアロコが言った。
「それに、何かがあったから、帰っていったんだ」
信号が青に変わった。三人はほかの人たちと一緒に、足音のざわめきと歩行者信号の電子音のなかを渡った。
サリコは、何も言わずに聞いているだけだった。彼女は、何が起きたのかを知っていた。
「それに」
キアロコは続けた。
「一瞬、あいつは俺を知ってるみたいな目で見た。あの憎しみが、俺を殺したがってるみたいに。あの目は、前にも見たことがある」
「うん……正直、何が起きてるのか、分かりにくいよね」
サリコが言った。
「ソラも一度、同じ憎しみの目で、キアロコを見たことがあるよね。殺したいみたいに」
「ほんとに、そう」
ソラが言った。
「いなくなってくれて、よかった。なんでか分からないけど、一瞬だけあの人が自分に戻って、帰ることにしたんだ。ちょうど、わたしたちのほうに来てたときに」
深く息を吸う。
「よかった」
サリコは、疲れきって限界に近いソラの髪をなでた。
キアロコは少し後ろを、ゆっくりと歩いていた。夜がすっかり街に降りていくなか、空を見上げている。建物の明かりが、その瞳に映っていた。
物思いに、沈んだまま。




