51 笑顔が、ゆっくりと消えていった
朝の光が、窓からゆっくりと部屋に入ってきていた。
カーテンのあいだから差し込み、床の上に金色の縞を描き、少しずつベッドを這い上がって――やがて、彼女の顔に届いた。
目覚まし時計が鳴った。
ソラはぱっと目を開け、跳ねるようにベッドの上に起き上がった。身体に収まりきらないほどの元気で。
天井に向かって両腕を伸ばし、微笑んだ。
外では鳥が歌っていた。空は晴れわたっていた。
今日は、絶好の――
ソラは、ぴたりと動きを止めた。
――登校日和だった。
*
笑顔が、ゆっくりと消えていった。
足を引きずるようにベッドから出て、着替えはじめた。
一枚身につけるたびに、気分が少しずつ下がっていった。
まずスカート。次にシャツ。それからボタンを、ひとつずつ。ひとつ留めるたびに、前のボタンより重くなっていくかのように。
靴紐を結び終えたころには、目覚めたときのあの元気は、もうどこにもなかった。
部屋は静かだった。
きれいで、片づいた、美しい家の中で。
*
台所へ下りた。
トースターに食パンを二枚入れ、冷蔵庫からオモリ・アマリージョのボトルを取り出した。
コップに注ぐと、窓の光に透けたその鮮やかな色が、小さな笑みを誘った。
カチッという音とともに、トーストが跳ね上がった。
台所のテーブルに座り、ゆっくりと、一口ずつ食べた。椅子の下で足をぶらぶらさせながら、太陽が街をすっかり目覚めさせていくのを、窓越しに眺めて。
それから、壁の時計を見た。
(家にいると、時間ってあっという間……)
ため息まじりに、そう思った。
(学校でも、こうならいいのに)
オモリの最後の一口を飲み干し、コップを流しに置き、リュックを手に取って、少ししょんぼりしたまま家を出た。
*
外の歩道の脇で、黒い車がエンジンをかけたまま待っていた。
その横に、黒いスーツの男が立っていた。両手を前で組み、何年もこの仕事を続けてきた者の、まっすぐな姿勢で。
ソラはうつむいたまま、彼のほうへ歩いていった。
学校への憂鬱を、もうひとつのリュックのように背負って。
男は彼女を見て、思わず笑みをこぼした。
「おはようございます、ソラさん。ははっ、どうやら学校が前ほど楽しくなくなったみたいですね」
「おはよう、ホロホ……。笑わないでよ」
ソラは車に乗り込み、扉を閉めた。
*
街は、もう目を覚ましていた。
車は朝の渋滞の中を進んでいった。
歩道では、人々が急ぎ足で歩いていた。片手にコーヒー、片手に電話を持った会社員たち。背中でリュックを弾ませて走る学生たち。車のあいだを縫うようにジグザグに走る、自転車の配達員。
年配の男が自分の店の入口を掃き、その隣では女性がショーウィンドウに「営業中」の札を掛けていた。
赤信号で、車が止まった。
目の前を、人の群れが早足で横切っていった。
一人の少年が、みんなの後ろを走っていた。もう遠ざかっていくバスに、追いつこうとして。
ソラは頬杖をついたまま、窓越しに彼を目で追った。
信号が青に変わり、車はまた走り出した。
少しずつ、通りのあいだから学校の建物が見えてきた。
*
ソラは車を降り、小さな仕草でホロホに手を振って、ほかの生徒たちと一緒に校門をくぐった。
廊下は、声と、笑い声と、ロッカーの扉が閉まる音でいっぱいだった。
何歩も進まないうちに、三人の女の子が駆け寄ってきた。
「ソラ!」
友だちだった。
廊下の真ん中で彼女を囲み、笑顔と囁きのあいだで挨拶を交わし、小声でいろいろなことを話し、自分たちにしか分からない何かに笑い合った。
ほんのひととき、ソラは、ここにいたくない気分だったことを忘れていた。
チャイムが鳴った。
一人ひとりが別れを告げ、それぞれ違う教室へ散っていった。
ソラも、自分の教室に入った。
*
時間が過ぎていった。
昼の光が、教室の窓から穏やかに差し込んでいた。
ソラは自分の机で、ノートに集中していた。歴史の授業に、なんとかついていこうとして。
先生が黒板に年号を書いていた。マーカーの擦れる音が、クラスメイトたちのざわめきと混ざり合っていた。
何もかもが、普通だった。
――普通すぎるほどに。
*
だが、彼女の内側で、何かがひび割れた。
寒気。
予感。
うなじをかすめていく、目に見えない影。
そして――
ドォォン!
爆発が、校舎を揺るがした。




