34 魂の亀裂
あなたのグリモワールを手元に置くことを忘れるな。そして第一話から読み返せ。旅立つ宇宙の中で迷子にならないために。そして、「六天の契約」はまだ始まったばかりだ。
空は、晴れていた。
そこへ突然、エネルギーの爆発が大気を裂いた。
一隻の船が、流れ星のように惑星の地表へ向かっていた。雲を貫きながら。
遠くには、青い帯だけが見えていた。まわり一面が水であることを示す帯だった。
だが降下するにつれ、その速度はいっそう凄まじくなっていった。
そして、島と思われる場所の上へ――暴力的に着地した。
――ドォン!
衝撃が大地を揺さぶった。
地面に陥没が開き、船は剥き出しになった。
そしてその中心に、老人の身体が意識を失って横たわっていた。
着地は、あまりに乱暴だった。
避ける術も、衝撃をやわらげる時間も、なかった。
*
離れたところで、細身の美しい若い女が、その私有の島で鍛錬をしていた。
まわりで何が起きているのかも知らずに。
その衝突の音が、彼女を集中から引き剥がし、鍛錬の均衡を崩した。
轟音のもとへ走った。
そして着いた瞬間、立ちつくした。
年老いた男が、傷つき、弱りきって、苦しげに呼吸をしていた。
その背後では、脱出用のカプセルがまだ煙を上げていた。
急いで近づいた。そして老人を見た。
「大丈夫ですか」
やわらかな声で、そう訊いた。
答えは、返ってこなかった。
*
彼女は決めた。
やっとのことでその身体を抱え上げ、自分の邸へ運んだ。
孤独のために建てた、上品で穏やかな隠れ家だった。
慎重に、海を見晴らす硝子の窓の前の長椅子へ横たえた。
そのそばに留まり、その呼吸を見守った。
何者なのか、どこから来たのかも知らないまま。
それでも、内側の何かがこう告げていた。
――もう、何ひとつ元には戻らない。
濡らした布を探して、その額に載せた。
そして、この人が目を覚ますかどうかを待った。
待ちながら、救急に連絡して引き取ってもらうべきかと考えた。
だが、待つことにした。
その前に、この人の話を聞きたかった。
*
何時間ののち、老人がやっとのことで目を開けた。
身体が震えていた。
その声は、かろうじて囁きだった。
ちょうど布を替えようとしていた彼女は、目覚めたことに気づいた。
起き上がるのを手伝おうとした。
だが老人は、自分の力で身を起こした。
慌てていた。思い出したことに、怯えきっていた。
「契約が……破られた……」
混乱したまま、そう呟いた。
「戦争が……ここに来ている……宇宙が……」
彼女は一歩下がった。
老人は話し続けた。ますます、苦しげに。
「戦争が……保持者が……断片が……わしを、探しに来る……」
若い女は、さらに下がった。怯えきって。
「いや! わたしに何もしないで!」
そう叫んだ。
そして邸の外へ駆け出した。怯えたまま。この老人は正気を失っているのだと思って。
だが外で、彼女が見たものは、息を奪った。
*
空から、巨大な船が降りてきていた。
既知のどの技術とも違う船だった。
唐王朝の船だった。
兵士たちが、軍隊の規律で降りてきていた。
その先頭で、暗く強大な影が、計算する目つきで地形を見渡していた。
「何をしに来たの……? どうして来るの? あなたたちは、誰なの?」
震えながら、そう囁いた。
どこへ逃げればいいのかも、分からないままで。
すべて現実だった。
あの老人が言っていた戦争は、幻覚ではなかった。
もう、始まっていた。
若い女は身を返し、また家のほうへ走った。
隠れるべきなのか、戦うべきなのかも分からなかった。
はっきりしていたのは、自分の世界が永遠に変わってしまったということだけだった。
*
老人は、まだ足元をふらつかせながら――外から、引き裂くような叫びを聞いた。
あの娘が危ない。
銃声と、絶望の叫びが耳まで届き、その心臓が速くなった。
唐王朝の兵士たちが、真珠だけを目当てに来たのではないと分かった。
彼のことも、探しに来たのだ。
真珠はもう、すべて砕けてしまっているというのに。
「そんな……まさか……」
そう呟いた。
「見つかった、か」
弱りきった身体でありながら、外へ押し出す力の波が湧いた。
その決意は、どんな傷よりも、どんな疲労よりも強かった。
駆け出して外へ出た。
そして遠くに、兵士たちが娘を追い詰めているのを見た。
「動くな! 逃げ場はない!」
銃を向けながら、隊長がそう言った。
娘は傷を負っていた。
その両手は、血にまみれていた。
*
もう逃げ道はないと見えた、まさにそのとき――老人が戦場へ踏み込んだ。
「その子から離れろ!」
確かな動きで、兵士たちのものとは異なるエネルギーを流した。
同じ技術ではなかった。
その身体の動きは違っていた。その両手は、彼らの知らない紋様を描いていた。
それでも――どこかで、うっすらと見覚えのあるものだった。
同じ海から来て、違う岸から来たかのように。
最初の銃撃が、空中で崩れて消えた。
光の奔流が、幾人もの兵士を倒した。
老人は進んだ。一人また一人と打ち倒しながら、残っていたものを流し尽くしながら。
敵は互いの顔を見合わせた。訝しげに。
完全には見分けがつかなかった――だがその戦い方の何かが、彼らを警戒させた。
まるで、その型を前にも見たことがあるかのように。ずいぶん昔、噂の中で、古い語りの中で。
娘は、木のそばに倒れたまま、地面から戦いを見ていた。
身体が、少しずつ重くなっていくのを感じていた。
命が、少しずつ抜けていくのを感じていた。
部下の半分が倒れるのを見て、隊長が歯を噛みしめた。
「退け!」
兵士たちが船へ乗り込みはじめた。
「これで終わりではないぞ! また会おう、老人!」
乗り込む前に、隊長がそう叫んだ。
船が上昇した。
そして、雲のあいだへ消えていった。
*
すべてが終わったとき、老人は娘のもとへ近づいた。
だが、何かがおかしかった。
その腕が、紫に変わりつつあった。
毒が、血の中を走っていた。
「オブシディアンの毒……」
打ちのめされたように、そう囁いた。
近くに解毒剤はなかった。この惑星には、ない。
そしてもう、別の宇宙へ戻る術も分からなかった。
その力は、もはや届かなかった。
まだ残っているものは、かろうじての一時的な贈り物でしかなかった。借りものの、最後の一息でしかなかった。
その脇に膝をついた。
木の下で。
「許してくれ……。あなたを救う手立てを、持っていないことを」
*
娘は、ますます青白くなっていった。
その唇が、紫の色を帯びていった。
その目が、落ちはじめていた。
手の傷口から、暗く、ほとんど黒い液体が滲み出ていた。
涙が、その顔を流れていた。
うまく話すこともできなかった。
残っている力は、ほとんどなかった。
「あなたが誰なのか、わからない」
そう囁いた。
「これが……あなたのせいなのかも、わからない。だから……わたしの死を、あなたのせいにしていいのかも、わからない」
老人は、その前で泣いていた。
その力は銃撃を崩すことができた。兵士たちを倒すことができた。宇宙を渡ることさえできた。
だが、目の前で命が消えていくのを見るその痛みは――砕くことができなかった。
「すまない……許してくれ。こうするつもりではなかった。こんな場所に行き着くとは、知らなかったのだ」
そして言った。
「そうだ。責めていい。ここへ来ていなければ……あなたは、生きていた」
娘が咳き込みはじめた。
もう、動くこともできなかった。
口から、血が出ていた。
「たとえ……あなたのせいだったとしても」
息を切らしながら、そう言った。
「どうせ……わたしを生かしていたものは、もう奪われていたから。……この、クソみたいな惑星で、生きていく情熱をくれていたものは」
一瞬だけ、目を閉じた。
「だから……自分を責めないで」
娘の手から、力が抜けはじめていた。
その身体が、あの木の幹に寄りかかったまま、少しずつ落ちていった。
老人は、ただそこにいた。
見ていた。
あの娘の涙と、彼自身の涙が、島の広い草地の上へ、止まることなく落ちていくあいだ。
*
陽は、動き続けていた。
硝子の窓の向こうの海も、動き続けていた。
世界は、二人のために止まってはくれなかった。
そして老人は――戦争から逃げるために宇宙をひとつ渡ってきたその老人は、気づいた。
戦争は、それでも追いついたのだと。
そしてこのたびは、カプセルも、船も、救うべきダクリも、何ひとつないのだと。
ただ、木の下の娘がひとり。
ただ、膝をついて、それが消えていくのを見ている自分がひとり。
この次元の時は止まらない。魂の亀裂は、炎と犠牲によってのみ満たされる。
リズムに合わせて繋がっていよ。ショーはまだ始まったばかりだ。
俺たちは常に動き続け、王座に君臨し続ける!
我々は地上で働きながら、別の銀河から綴っている。アルモリア。




