24 病院、再会
病院の自動扉が、勢いよく開いた。
キアロコは急いだ足取りで入っていった。顔が張りつめていた。
サリコがすぐ後ろについていた。
廊下は消毒液の匂いがした。モニターの音が空気を満たしていた。
二人は受付にたどり着いた。疲れ果て、荒い息をつきながら。
受付の女性は、すぐにサリコに気づいた。
ごく普通の目で彼女を見て、こう言っただけだった。
「こんにちは。何かご用でしょうか」
机の上では、お茶がまだ湯気を立てていた。
「はい、ソラの情報を知りたいんです。何号室ですか」
彼女は素早くパソコンを調べた。
「はい、ソラさんですね。先ほど運ばれてきました。意識を失った状態で。二一七号室、二階の左翼です」
そう言って、お茶を一口飲んだ。
キアロコとサリコは階段を駆け上がり、二階に着くと、廊下を端まで走った。
*
部屋の前で、キアロコは一秒だけためらった。
それから、そっと扉を押した。
ソラは横たわっていた。点滴につながれて。
呼吸はしていた。だが、肌の色は青白かった。
看護師がモニターを確認していた。
「近くに寄っていただいて大丈夫ですよ」
看護師が囁いた。
「数分前に目を覚まされました。ただ、とても衰弱していますので」
キアロコが近づいた。
ソラが目を開けた。
「キアロコ……」
低い声で呟いた。
彼はベッドの脇に膝をつき、その手を取った。
「ここにいる……大丈夫だ。もう、何も心配ない」
ソラは話そうとしたが、声が割れた。
涙が頬を伝って落ちた。
「わたし……怖かった。もう……会えないんじゃないかって、思った」
キアロコは視線を落とした。
「……すまない。いちばん必要なときに、そばにいなかった」
ソラは、残されたわずかな力で彼の手を握った。
「でも、来てくれた。……それで、じゅうぶん」
そして弱い笑みを浮かべて、話を変えようとした。
「ピザ……持ってきてくれた? リュウのピザ、食べたいな」
キアロコは短く笑った。割れた笑いで、目までは届かなかった。
「ちゃんと目が覚めたら、好きなだけ持ってきてやる」
その小さな日常のひとときは、長くは続かなかった。
サリコは扉のところから二人を見ていた。何も言わなかった。
その部屋は、神聖な沈黙で満たされていた。
機械の電子音だけが、そこにある唯一の音だった。
ソラは微笑もうとしていた。だがその身体は、脆かった。
*
医師がファイルを抱えて入ってきた。
その表情は、重かった。
「あなた方は、ソラさんのご近親の方ですか」
そう尋ねた。
「はい」
張りつめた声で、キアロコが答えた。
「何があったんですか」
「少しのあいだ、外へ出ていただけますか……」
出ていく前に、キアロコはソラを見た。
彼女は、やさしい目で彼を見返した。
「心配しないで……わたし、死なないから」
*
廊下に出ると、医師は扉を閉めた。
気まずい沈黙があった。
「銃創の治療を行った時点では」
そう切り出した。
「容体は安定しているように見えました。ですがその後、内部の損傷が見つかりました。臓器が深刻な状態です。……ソラさんは、亡くなる可能性があります」
キアロコは、世界が崩れ落ちるのを感じた。
「亡くなる可能性って、どういうことですか。もう良くなったと思ってた!」
「そう見えました。ですが身体が壊れてきています。今すぐに手立てが見つからなければ、保ちません」
「何かあるはずでしょう! どんな選択肢があるのか言ってください!」
「申し訳ありません。できるかぎりのことはしました。……回復の見込みはありません」
「そんな……」
サリコが呟いた。
「たとえ実験的な治療法があったとしても、ここにはそれを施す設備がありません」
キアロコは、黙り込んだ。
「……ここに方法がないってことは。どこか別の場所になら、あるかもしれないってことだ」
「どういう意味?」
サリコが訊いた。
「最高の医者のところへ連れていく。この惑星でも、どこの惑星でもいい。医学で助けられないなら……別のやり方を見つける」
サリコが頷いた。
「死なせたりしない」
「本気でやってみるおつもりなら」
医師が言った。
「急がなければなりません。ソラさんに残されているのは……三日です」
沈黙が、二人を包み込んだ。
キアロコは一瞬、脚から力が抜けるのを感じた。
気づかないうちに、サリコの手を強く握りすぎていた。
「三日……? それだけなんですか」
キアロコが訊いた。
「申し訳ありません……。身体が、崩れてきています」
サリコが首を振った。その手は震えていた。
キアロコは目を閉じた。
その内側で、影が震えていた。
「……なら。医学で救えないなら、その先へ行く」
絶望が、考える前に言葉を吐かせていた。
苛立ちが、刻一刻と彼を悪いほうへ追い詰めていた。
医師の言っていることが、キアロコには信じられなかった。
サリコが彼を見た。
何を言っているのか、分からなかった。
だが、これだけは分かっていた。キアロコは諦めない。
道がないかもしれないと知っていても、どんな方法でも探しにいく。
サリコの頬を、涙が伝っていった。
扉の窓越しに、ベッドの上のソラを見つめながら。
医師はそこに立って、二人を見ていた。
もう、かけられる言葉はなかった。
解決策などないことを、知っていたからだ。
ここにも――そして、ほかのどの惑星にも。




