15 目覚める影たち
15 目覚める影たち
キアロコは、身の置きどころがなかった。
頭の中が噛み合っていくようで、同時に崩れていくようだった。
この会話は、一言ごとに彼にとって重くなっていった。
彼はただ、人の世からも、警察の目からも隠れていたかっただけだ。
その自分が、この地区でも指折りの重要人物を救っていたことなど、気づきもしなかった。
ほんの数日前まで、あの男はどこにでもいる誰かだと思っていたのだ。
今となっては、自分が勇作の話を聞いているのか、それともただの狂人の話を聞いているのか、分からなくなっていた。
得体の知れない何かのせいで、世界が一日で滅びるなどと信じろというのか。
だが、キアロコにも分かっていることが、ひとつだけあった。
自分が何者なのかも、自分の家族がどこにいるのかも――何ひとつ分かっていない、ということだ。
「……それで。俺は、結局なんなんだ」
キアロコが訊いた。
勇作が微かに微笑んだ。
「それは、君自身が答えを出さなければならない問いです」
そして続けた。
「……手遅れになる前に」
キアロコは奥歯を噛んだ。
一語ごとに、逃れようのない真実の重みが打ちつけてきた。
「つまり、それだけか。……御せるようになるか、死ぬか」
「そのとおりです」
勇作が答えた。
「力を求める者たちは、殺すことをためらいません。そしてキアロコ、君は――その全員にとっての脅威だ」
再び沈黙が落ちた。
キアロコは自分の両手を見た。
皮膚の下で、影が脈を打っていた。
「なら、俺に選択肢はない」
「いいえ、あります」
勇作の声は揺るがなかった。
「生き延びること。学ぶこと。そして戦争が始まったとき、どちら側に立つのかを、自分で決めること」
間があった。
それから、少しだけ軽い調子で言った。
「――ところで、その内側の力とは、うまくやれていますか」
「ああ、問題ない。……ここ何日も、何も感じない」
勇作は、好奇と警戒の混ざった目で彼を見た。
「それは、すべてが順調だという意味ではありません」
そして続けた。
「ときにその力は、身を隠すのです。ですが、常にそこにいる……目覚めるべき正確な瞬間を、待ちながら。備えておかなければなりません」
キアロコは眉をひそめた。
この静けさは、おかしかった。落ち着かなかった。
「君がまだ、それを理解していないからです」
勇作が付け加えた。
「本当に目覚めたとき……今のようなものではない。そして、自分が何者かを知らなければ……止めることはできません」
キアロコは地平線へ視線を戻した。頭の中は問いでいっぱいだった。
「明日、会社へ来なさい。見せたいものがあります」
「……分かった。行く」
やがて、そう答えた。
「心配は要りません」
勇作が、意味ありげな笑みを浮かべた。
「何事にも、その時があります。明日になれば分かるでしょう」
そして、こう言った。
「さあ、行きましょう。面倒を起こさないよう、宴に戻りましょうか」
キアロコは、少し上の空のまま頷いた。
だが、これ以上問いを重ねる時ではないことは理解していた。
*
二人が戻ると、会場はもう人で溢れ、それぞれが楽しんでいた。
社員たち、親しい友人たち、幾人もの取引先が、賑やかに語らっていた。
流れる音楽が、くつろいだ空気を作っていた。
キアロコは、今この瞬間に意識を向けようとした。
それでも祝いの只中で、内側の何かが告げていた。
これから来るものから、目を逸らすことはできないのだと。
勇作は頷いてみせると、招待客のあいだへ紛れていった。
ソラは近くにいた。何人かの子供たちと遊んでいた。
その姿が幸せそうで、キアロコは救われる思いがした。
一瞬だけ、この子の穏やかな人生を想像することができた。
*
何時間かして、宴が終わった。
ソラは、とても嬉しそうに、みんなに別れの挨拶をした。
「…………」
――また来てね。本当にありがとう。
そう伝わるように、一人ひとりの顔を見て、笑って、手を振っていた。
キアロコは、微かに微笑んでその様子を見ていた。
その一瞬だけ、この子はただの一人の子供だった。
戦争もなく。影もなく。痛みもなく。
「もちろんよ、ソラ」
サリコが言った。
「また近いうちに来るから。元気でね」
勇作もまた、揺るぎない目で二人を見送った。
夜は、静かだった。
だがキアロコは感じていた。
何かが――とても大きな何かが、すでに風の中で動きはじめていることを。




