11 見えない絆
一週間後、実業家は会社へ戻った。
脚の具合はずいぶんよくなっていた。それでも、まだわずかに引きずっていた。
回復に何日も費やした。だが、その決意は一秒たりとも揺らがなかった。
脚に残った傷痕は、すべてを失いかけたことの証だった。
そして同時に、それを乗り越えた戦いの証でもあった。
本社の執務室に入って最初に気づいたのは、その場を支配している張りつめた静けさだった。
もうマフィアはいない。数週間前まで垂れ込めていた陰鬱な空気もない。
清められ、ほとんど生まれ変わったような場所だった。すべてが元に戻ろうとしているかのように。
そしてその真ん中に、娘がいた。
自分と同じ決意で、会社の手綱を握っていた。
つい先ごろまで、商売のことなど何も知らない娘だった。
それが今、父の席に座っている。
書類に囲まれ、帳簿に目を通し、生まれながらの指導者のような速さで判断を下していた。
極限の状況ではあった。だが病院で過ごした時間と、あの体験が、この子に自信を与えていた。
会社を掌握し、安定を取り戻すだけの自信を。
実業家は娘に近づいた。
足音に気づいて、娘が顔を上げた。
視線が合った。そこには厳粛な空気があった。
だが、それだけではなかった。誇りがあった。
「お父さん」
娘が、やわらかく微笑んで言った。
「主要な投資家とはもう話をつけました。会社は私の管理下にあると、はっきり伝えてあります。いくつか組織も立て直して、失った地盤も取り戻しはじめています」
実業家は頷いた。満足と、安堵の混ざった頷きだった。
会社を取り戻しただけではない。
娘が、未来を担う用意を整えているのを、この目で見ていた。
「よくやった」
その声には、心からの称賛がこもっていた。
「お前ならできると分かっていた。誇りに思う」
「ありがとう、お父さん」
感情を隠しきれない声で、娘が言った。
「簡単ではなかった。でも、あれだけのことを一緒にくぐり抜けたんだもの。私はもう、進んでいける。もちろん、お父さんのために……そして会社のために」
二人はしばらく黙っていた。
交わした視線の強さが、言葉を越えた理解を分かち合っていた。
これから進む道は、決して楽ではない。だが今、手綱は自分たちの手にある。
*
実業家はゆっくりと執務室の大きな窓へ歩き、街の地平線を眺めた。
脚は絶え間なく疼いていた。だがその痛みは、胸の中の空洞に比べれば何でもなかった。
振り返り、大きなガラスの机に目をやる。娘が積み上げた、会社の収支が入った赤い書類挟みが何十冊も並んでいた。
「未だに信じられん、この惨状が……」
老人が呟いた。声は割れていた。
「盲いた野心のせいで、あんな連中をここへ引き入れて、わしらは殺されかけた。警察が事務所へ入ってきたとき、あれが連行されていったのは、この世でいちばん当たり前のことだった」
娘は深く息を吐き、ペンを机に落とした。
目の下には濃い隈があった。それでもその目には、完全な静けさが宿っていた。
「分かってる、お父さん」
娘の声は、揺るがず、それでいて包み込むようだった。
「でも気に病まないで。私たちのせいじゃないんだから」
「なぜあんなことをしたのか、わしには分からんのだ」
実業家は首を振りながら続けた。宙に答えを探すように。
「あれは何もかも持っていた……会社のことを学ぶ時間も、備える時間も、いくらでもあった。何があの子を、わしらにあんなことをさせるまで追い詰めたのだ。鉄格子の向こうにいるあれを見るのはつらい。そして、そこへ入れたのがこのわし自身だということが、もっとつらい」
「そうね、お父さん」
娘は父をまっすぐ見つめて答えた。
「でも、だからといって出してあげようとはしない。今はしばらく、自分のしたことの重さを考えてもらう時間よ」
「分かっておる……」
老人は溜息をつき、肩を落とした。
「ただ、起きたことをまだ飲み込みきれんのだ」
父の顔に浮かぶ苦しみを見て、娘は椅子から立ち上がった。
机を回り込み、父のそばへ寄る。
そっと肩を抱き、強く抱きしめた。その体温で包み込むように。
「大丈夫よ、お父さん。心配しないで」
やさしく囁いた。
「大事なのは、あの人があれだけのことをしたのに、お父さんも、私も、兄さんも、まだ生きているっていうこと。今はただ、時間が物事をあるべき場所に戻してくれるのを待つだけ」
そう言いながら、安堵の小さな笑みが唇に浮かんだ。
娘はバルコニーのほうを向き、高みから広がる街の全景を眺めた。
嵐は、ようやく過ぎ去ったのだと感じながら。
*
入口の薄暗がりで、キアロコは黙ってその光景を見ていた。
魂の傷は、身体の傷より癒えるのに時間がかかる。それは知っていた。
だがあの家族の抱擁の中に、帝国を建て直すのに必要な力を見た。
実業家は娘からそっと身を離し、深い敬意をこめてキアロコを見た。
「お前には命を借りた。そして、この一族の未来もだ」
偽りのない声だった。
「お前が入ってこなければ、息子はわしらを、会社もろとも墓場まで引きずっていっただろう」
キアロコは、微かな笑みの影を浮かべて頷いた。
彼を彼たらしめている、あの神秘的な静けさを崩さないまま。
「火はもう消えた。だが、瓦礫を片づけるのはあんたたちの仕事だ」
そして、こう続けた。
「この場所を立たせておくために、必要なことは何でもやれ。……これで、あんたとの貸し借りはなしだ」
こうして、影と、裏切りと、暴力から始まった戦いのひと巡りが終わりを迎えた。
新しい始まりに、道を譲るようにして。




