二十四、
その日のデートは、奇妙なデートだった……。
中学生のあたし、高校生のせんぱい、他の人の目には映らない幽霊の千歌とが、互いの距離感に戸惑いながら特別な日の京都を歩き始める──。
せんぱいには姿を見ることができない千歌を、せんぱいはあたしの向けるカメラのレンズの先に追う。
せんぱいが千歌に話し掛けるのはあたしの持つカメラに向けてで、千歌の言葉は録画に撮ったのを再生してから……。
だから時間差がある。
でも…──、そんなふうに最初はぎこちなくてもどかしかったあたしたち三人だったけれど、やがてそれぞれの振舞いに慣れてくれば、ちゃんとデートになってくる。
◆ ◆ ◇
賀茂川を〝鴨川デルタ〟までそぞろ歩いて、そこで『飛び石』を観光客とすれ違いながら渡る先輩と千歌とを撮った──。
〝ぴーかん〟の青空、鴨の川面も陽光を反射させていたので、F5.6の絞り値、1/1250秒でシャッターを切った。そうすると、結構な大股でひょいひょいと石の上を跳んでいくせんぱいと、後ろから追いかける千歌の笑顔が切り取れた。
多分そこにいるだろうと、後ろを振り見遣りしなのせんぱいの、ちょっとはにかんだ表情がいいな、と思った。
それから出町柳の駅まで歩いて、叡電で八瀬に出て、八瀬からはケーブルカーとロープウェイを乗り継いで比叡山頂駅──。
あたしは(恥ずかしながら)比叡山に登ったのは初めてで、まだ乗客もそれほど多くないケーブルカーの車内で「なんで比叡山なんですか?」とせんぱいに訊いてみた。
答えは「涼しいから」で、このときあたしは山の上が街の中より気温が低いことを知ったのだった……。
山頂には〝|お庭の美術館《ガーデンミュージアム比叡》〟があって、そこでは緑と青空のコントラストと花の香りが待っていて、あたしたちは絵画の世界を再現した(?)庭園を回ったり、琵琶湖のパノラマを見下ろしたりした──。
すっかり燥いだ様子でせんぱいに戯れる千歌の笑顔はやっぱり愛らしくて、色とりどりの花と空が遠まで広る、そんな景色の中でさえ輝いていた。
その中の一枚は、せんぱいが左手を伸ばした瞬間を後ろから切り取った一枚──…千歌の伸ばした右手が重なった画で、せんぱいを見上げる千歌の少し上気した横顔の表情が上手く捉えられていた。
昼食は園内のレストランでせんぱいにご馳走になった。
──…ケーブルカーとロープウェイの一日券もせんぱい持ちで、それなら〝お昼はあたしが〟って思っていたのだけれど、メニューのその値段を見て断念するしかなく……。
そういうのが表情に出てしまったあたしに、せんぱいは「これは専属カメラマンへのお礼だから」と笑ってそう言った。
そんな訳で、あたしは新鮮な夏野菜の使われたラタトゥーユのスパゲティを美味しく頂いて、千歌はせんぱいの隣で、お皿から立ち昇るオリーブオイルとトマトの夏の香りを楽しんでいた。
食事の後は園内の〝カメラマーク〟から印象派の絵画を観て回った。
あたしは絵画が構図の勉強になることを知って、モネの『散歩道、日傘の女』に目を留めたときには、千歌をモデルにその構図を撮ってみたりした。
その逆光の中の不思議な雰囲気の千歌は、あたしの〝お気に入り〟の一枚になった。
◆ ◆ ◇
そのあと千歌は、あたしとせんぱいとにそれぞれメッセージを残したいと言い出して、あたしは動画を二本撮った。
──あたしの分とせんぱいの分。
それぞれ〝日が落ちてから見て欲しい〟と念を押されて、あたしもせんぱいもその中身は見ていない。
最後の伝言──つまり〝書き置き〟…──を撮る間、あたしは千歌との最後の時間を笑って過ごそうと決めていたけれど、いつ涙を流して千歌の表情を困ってように曇らせてしまわないかと、気がきでなくて……。
どうにか泣かないで撮り終えたあたしは、液晶画面の中の千歌だって〝がんばって〟浮かべているだろう笑顔に、なんとか笑顔で返すことができた。
◆ ◆ ◇
そうやって夏の京都の一番暑い時間を山頂で過ごしたあたしたちは、陽が落ち着いてきた頃合いで山を下りた。
今日の陽が落ちれば〝だいもんじ〟…──。
千歌との時間が終わる……。
──…千歌は今日、楽しかっただろうか?
せんぱいは、〝吹っ切ること〟ができただろうか?




