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84話 一緒にいたいから

 竜人……それは体に鱗があって、人よりも身体能力が高い種族。

 ユートがこっちの世界に来てからいろいろ調べていたときに、リンも聞いていたから少しくらいは知ってるの。

 確か、この世界に住む種族の中で最も力があるって。今までそんなそぶりは見せていなかったけど、“バレるとは”何て言ってたから力を隠していたのかもしれない。


 でも、だとしたら……。





 ーー神力を身に纏ったリバーの力は計り知れない。






「……ふむ。やはりムト様のお力は素晴らしい」


 そう言ってリバーは手を開いたり閉じたりした。そして不意に、地面に落ちている鎧の破片を拾うと、あっさりと握りつぶしてしまった。


 ……あれ金属なのに。リンには逆立ちしてもできないの。


「……ああ、ムト様。感謝致します」



 ……少しまずいかもしれない。

 リバーがムトの力を借りれるかもしれないとは思ってた。もちろんそうだとしても、勝つ自信があったの。たとえ元メイドさんが居なくても、一人で勝てる自信が。

 でも、それはリバーが人間っていう種族だった場合の話。


 与えられた神力は身体強化にしか使うことができない。そう聞いたらたったそれだけしかできないのかと思うかもしれない。

 でも、違う。天照様のそばで学んでユートと一緒に旅をしたリンには、神力がどれほど強力なものなのか。

 リンはそれをこの目で見てよく知ってる。


「お呼びですか」

「うん。今のリバーはーー」

「ええ。分かりますとも。……あれは少々厄介ですね」

「そうなの。でも作戦は変えない」

「それではリン様が危険では?」

「リンは隠れても隠れなくてもすることは同じ、剣とかを飛ばすこと。だったらリンがあいつを引きつけてあなたにとどめを刺してもらうのが一番確実だと思うの」

「ですが……、いえ。そうですね。分かりました」

「うん。じゃあ、お願いするの」


 元メイドさんに幻術をかけて誰にも見えないようにする。……うん。これでリバーには元メイドさんの姿が見えないはず。念のためいつもよりも丁寧にかけておいたから、ムトにだってバレない。


 正直に言うと、この今のリバーを相手にどこまでリンがやれるかは分からない。……もしかしたら、すぐに死んでしまうかもしれない。でも、リンがあいつを引きつけるのが一番勝つ可能性が高いと思うの。

 二人とも姿を消す方法も考えた。でも、それだと周囲を警戒されて隙をつくのが難しくなってしまう。

 仮にリンが代わりに姿を消したとして、さっきの理由からそれほど意味はない。


 だからこそ、リンが囮になるのが一番いい。

 もちろんそう簡単に負けるつもりはないの。


 ーーリンは、もっと。もっともっとユートと一緒に居たいから。


「……姿が消えた。貴様の仕業か、羽虫」

「お前には絶対に見つけられないの」

「……そうだな。貴様の幻術の腕前だけは認めよう。だがーー」

「リン様!!」

「ッ!?」


 ーー速い!!


 明らかに速くなってる!

 神力を借りているからっていう次元を超えてる!!


「所詮貴様は羽虫だ」


 迫り来るリバーの拳を寸前で避ける。と、同時にリバーのもう片方の手がリンに向かって伸びてくるのが見えた。


 ーーこれは避けれない!!


 そう理解したリンはほとんど無意識の状態で、浮遊させていた剣の一つをその伸びてきた手を斬りとばす勢いで叩きつける。

 するとまるで鋼鉄を金槌で叩いたかのような音が響き、リバーの手が逸れた。

 無意識で動いたからどこか別の誰かが助けてくれたような感覚がしつつも、必死でリバーから距離をとる。


「……チッ、逃したか」


 ……危なかった。あの時元メイドさんの声が無かったら。あの時無意識のうちに剣を動かしてなかったら、もしかしたらリンは死んでいたかもしれない。


「……ありがとう」


 元メイドさんにお礼を言う。

 もちろん居場所がバレるから返事は返ってこないけど、『どういたしまして』と言っているような気がした。


 ……にしても、予想を遥かに超えていたの。

 今回は不意をつかれたけど、絶対に避けられない速さじゃなかった。リンの位置を騙したりすれば避けられないわけじゃない。

 でも、一番予想外だったのはあの硬さ。

 リンが本気で飛ばした剣が、切りとばすどころか傷すら付かなかった。

 正直あれでは手の出しようがない。ーーリンの攻撃ではあいつを倒せない。


「……むぅ」


 元メイドさんを見れば、何か考えがあるみたいで頷いてた。

 ……仕方ない。リンはリバーを引きつけることだけに集中するの。


「さっき聞こえた声はあっちか。……いや、もう既に動いているだろうな。やはり先に向こうを殺した方が良かったか?」

「リンも倒せないのにあの人は倒せないの」

「チッ……。やはり羽虫は鬱陶しいな。不快極まりない」


 ……危ない危ない。今、リバーがリンの視線を読んで元メイドさんの場所をつかもうとしてた。


「……ああ、うざったい。一秒でも早く貴様をこの世から消し去りたいものだな」

「消えるのはそっちの方。もう二度とリン達に会わないように地獄に送ってやるの!!」


 使えそうな武器を全部浮かして、リバーに向けて飛ばす。

 でもリバーはその場から動かず、何本かの剣だけ腕で振り払ってそれ以外は避けようともしなかった。


「無駄だ。ムト様のお力によって強化された俺の体は羽虫程度の力では傷すら付かん」


 ……分かってる。分かってるの。

 リンは力不足だって。役立たずだって。……ユートの力になんてなれないんだって。

 でも、それでも努力してきた。力をつけた。技を磨いた。


 苦しい思いだってした。

 辛いこともあった。

 痛い思いもした。

 泣いたこともあった。

 死にそうになったこともあった。


 でも……。

 でも、少しでもユートの役に立ちたくて。……ユートを助けたくて。


「諦めてここで死ね。黙ってその首を差し出すのであれば楽に死なせてやるぞ?」

「………………ーーない」

「ああ?」


 ーーユートが好きだから。

 ーーユートがいると楽しいから。

 ーーユートともっと一緒にいたいから。



「……だから……だからリンはーー」


 こんなところでは死なない。死にたくない。だからーー、


「絶対に諦めない!!」






「なら死ね」


 リバーは壁に突き刺さった針のような杖を引き抜くと、リンの体めがけてそれを投げ飛ばしてきた。

 でも大丈夫、そっちはリンの幻。本当のリンはーー


「こっちか」

「ッ!!」


 まるで隕石のような拳を、寸前のところで避ける。でも、その余波だけでリンの体はやすやすと飛ばされてしまった。

 勢いを殺して、壁に当たる直前で何とか止まる。

 ……あのまま叩きつけられたら体の骨が折れていたかもしれない。


「こう何度も見せられれば、貴様が幻をどこに作り出すのかくらい大体の予想がつく」


 ……ちょっと単調過ぎたみたい。ならーー、


「もう少しパターンを変えて、か?」

「ッ!!」

「単純……あまりにも単純だ。が、羽虫の貴様にはお似合いだな。所詮は虫だということだ」


 ……悔しい。……悔しいの。


「貴様ごときでは俺はーーッ!!」


 突然リバーが防ぐようにして腕を掲げたと思えば、その腕に大きな切り傷ができた。


「チッ! ……油断し過ぎたか」


 誰がやったかなんて分かりきってる。元メイドさんだ。

 でも、これでもリバーを倒せなかった。

 ならもっとリンが時間を稼いでーー、と思った瞬間。元メイドさんが、自分の首を指差していた。


 首? 首でも痛めたの?

 と思ったけどその後リバーを指差したから、多分首を狙えってことなんだと思う。

 でも何で首? 心臓だって急所だとーーあれ?

 そういえばリンがリバーに剣を飛ばした時、いくつかの剣は弾いたけど、それ以外の剣は無視していたの。

 確かその時弾いたのは、……()()()()()()()()()()()


 ……もしかして首から上の、たぶん鱗の無い首から上ならリンの攻撃も効くってこと?


「なら……」


 随分壊されて少なくなってしまった剣を、もう一度リバーの周囲に浮かせる。


「……ふん。学習能力のない」


 元メイドさんを警戒しているのか、リバーはその場から動こうとしない。

 好都合なの。

 リンが手を振り下ろすと同時に、全ての剣がリバーを襲う。

 そしてリバーが弾いたのは、


 ーー()()()()()()()()


「馬鹿め。無駄だというのがまだーーッ!」


 ペチャクチャと喋るリバーに向けて、残りの剣を全て飛ばす。もちろん首から上しか狙ってない。


「チッ! まさか羽虫ごときにッ!!」


 やっぱりリバーの弱点は首から上だったみたい。

 なら、リンがやることはただ一つ。


「この羽虫がぁあああああ!!」


 弾かれても、弾かれても、折れていない剣はすぐさまリバーに向けて飛ばす。

 そうしていると、遂に剣を掴み取ってその場で握りしめて壊した。


「ーーそれを待ってたの」


 剣に意識を集中したその瞬間。

 最もリバーが元メイドさんへの集中を切らせたこの瞬間を、その人が見逃すはずがない!


 現に元メイドさんのナイフがリバーの首に添えられて、そしてーー、


「ーー残念だったな」


 でも、リバーの首を落とす前に元メイドさんの体が空を舞った。

 振り抜かれたリバーの拳が、何が起きたのかを物語っていた。


 ーーあの神力で強化された拳で殴られた。


 あんな拳が当たったのなら、元メイドさんでもひとたまりもないと思う。……()()()()()()()()()


「気配が漏れていたぞ? 残念だったな。これでーー」

「ええこれで終わりです」


 空を舞っていたはずの元メイドさんが幻のようにかき消えた瞬間ーー、リバーの首から大量の血を吹き出した。


「なッ!? ……どう、……して」

「簡単なことです。あなたが殴ったのは私の幻だっただけですよ。……リン様を侮ったあなたの負けです」


 元メイドさんの言葉に対する返事はなく、リバーは崩れるように地面に倒れ伏した。


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