81話 リンの覚悟
「……ユート」
ロンドさん達の後を追いながらも、リンの頭の中はユートのことでいっぱいだった。
信じていないわけじゃない。信じていないわけじゃないけど、またユートに何かあったらと思うと気が気じゃなかったから。
今のユートはとっても不安定で、いつその“自由”という力が暴走するか分からない状態。言ってみたら、ちょっとした衝撃で今にも爆発する寸前の爆弾みたいなもの。もちろん爆発すれば、ユートの命だけじゃなくて周りも大変なことになっちゃう。
そんなことになったら、きっと天照さまはユートを……。
だから、それだけは避けたい。ううん、避けなくちゃいけないの。
ユートは……リンの親友は死なせたりしない。
「……落ちつこう」
大丈夫。今は天照さまにユートのことを見守ってもらっているから、絶対にそんな事態にはならない。
天照さまがついているなら、リンは安心できる。だって天照さまに出来ないことなんてほとんど無いから。
だから、今はリンに出来ることを。リンにしか出来ないことをする。
ユートにはロンドさんを守るように言われたけど、リンはロンドさんを危険にさらすヤツを倒すのが一番話が早いと思うの。
つまり、ユートを不安定にさせるあいつを倒すこと。あいつを倒せばユートとの約束も守れるし、それがユートを助けることに繋がる。
ユートはそんなこと望んで無いかもしれない。危険だから止めろって言うかもしれない。
でも、リンはそうしたいの。……ユートをこれ以上苦しめたくないから。
「……大丈夫。リンならやれるもん」
そんなことを考えていると、ロンドさん達がとある店の中に入って行くのが見えた。
後を追って中に入ると、中には剣や槍などの武器、あと魔道具なんかが棚に陳列されていた。どうやらここはそういった類のお店みたい。
そうこうしているうちに、ロンドさんが店員の一人に誘導されてさらに奥の部屋へと入っていった。
……まだあいつはいる。何のためにここに来たのかは知らないけど、絶対に逃さない。
扉が閉まりきる前に中に飛び込むと、ロンドさんが目元に傷のある野性味溢れた男と対峙していた。
「……久しぶりじゃねぇか。ロンド」
「ええ、お久しぶりです。レグナさん。お元気でしたかな?」
「テメェ、よくのこのことここに顔を出せたな。テメェが俺にしたこと忘れてわけじゃねえだろ?」
「もちろん覚えておりますとも。しかし、あれはあなたが悪いのですよ? 私の大事な部下に手を出したのですから」
「この街では人間だって売り物なんだぜ? 郷に入れば郷に従いやがれ。ったく、アレのせいで一体どれだけの損失になったか」
「知りませんな。それに、あなた方がしたのはその辺の野盗がしていることと変わりませんよ」
「違うな。した、じゃねぇ。している、だ」
「……全く、懲りない人ですね。今度こそ二度と立ち直れないようにしましょうか?」
「やるか? 今度はあんなヘマはしねぇ。確実にテメェを殺してーー、いや。商人らしく売り払ってやるぜ」
まさに一触即発な状態。
レグナって男が何かで指示を出したのか、この部屋に続々と人が集まりつつあるみたい。扉越しだから様子までは分からないけど、多分武装していると思う。何か金属音もするし。
ロンドさんと昔何かあったみたいだけど、今ロンドさんに死なれるのは困るよ。ユートが悲しんじゃう。
まだあいつにバレたくなかったけど、ロンドさんが死にそうなら手を出すしかないかも。できれば不意打ちで倒したかった。
しばらくにらみ合いが続いたけど、ロンドさんが大きなため息を吐いて、
「今回は辞めにしておきましょう」
「……は? テメェ、どういうつもりだ?」
「今日は別件できたのですよ。あなたを牢屋に入れるのはまた今度にしておきます」
「ふざけんなよ? テメェはそれでも、俺はテメェをーー」
「申し訳ありませんが、私としても少々急いでおりましてな。こんな所で時間を無駄に使うわけにはいかないのですよ。お分かりですかな?」
「っ!」
ロンドさんがそう言い終えた直後、部屋の中にいた五人の男の護衛達が全員崩れるように倒れた。
……たぶんあの元メイドさんがやったんだと思う。ユートも言ってたけど、リンもあの人は人間には思えないな。
「話を聞いてもよろしいですかな?」
「……チッ。何だ?」
「この街の商人で、ウェステリア国に武器や魔道具を売っている連中をご存知ですかな?」
「っ! ……なるほどな。テメェ、確か今はエルムスに居るんだったな」
「ええ。それで?」
「ああ、知っている。俺は売っちゃいないがな」
「でしょうな。あなたは神様がーー」
「ああ。大っ嫌いだ。この世で一番嫌いなのが神とかいうクソみたいな連中だからな。そんな奴を信仰している連中と取引なんざしたかねぇ」
「それで、どこまで知っていますか?」
「大抵のことは知っているぜ? テメェにやられてから情報には気を使ってるんでな。大体のことは頭に入ってる。それに、ここまで聞けばテメェが何を知りたいのかも分からぁ」
「ではやはり」
「ああ、戦争は起きる。間違いなくな」
……戦争?
まさかこの世界で戦争が起きようとしているの?
「規模はどのくらいになりそうですかな?」
「ま、かなりデケェだろうな。あの魔道具の量から察するに、アレだけでも国を一つ滅ぼせるくらいはある」
「……そうですか」
「加えて奴隷も相当な人数そろえてやがる。下手すりゃこの国も危ねぇな」
「魔道具の豊富なこの国でも、ですか」
「ああ。だが、まぁそれは一対一ならだ。どうせ今のエルムスの国王ならゴルタルと組むだろ。なら負けはまず無ぇ」
……負けはない、か。
この男の言葉を信じるにしろ信じないにしろ、戦争に巻き込まれるのは避けたい。
「分かりました。では、武器や魔道具のリストをいただけますかな。もちろん、対価は払いましょう」
「……仕方ねぇ。買うってんならこっちも文句はねぇさ」
ここはやっぱりユートを説得して一度地球に帰るのが一番安全ーー
「それは困りますねぇ。我が主は両国の滅亡を望んでおられるのですから」
「……はぁ?」
「……モーリス?」
ロンドさんの部下の一人、モーリスと呼ばれた男の言葉に周囲の人が固まる。
「何を言っているのですか? モーリス」
……違う、その人はモーリスじゃない。
その人はーー
「……皆さん、ここで死んでください」
次の瞬間、モーリスと呼ばれた細身の男がロンドさんに迫る。
その右手には鋭く光るナイフがあって、もう瞬きをする間にロンドさんは刺されて死んでしまう。
……でもそれはダメ。そんなことになったら、ユートが悲しむから。いつものユートじゃなくなってしまうかもしれないから。
だから。
だからリンは……、ここであいつを倒す!!
「ーーグッ!?」
低いうめき声と共に、モーリスと呼ばれた男は壁を突き破って姿を消す。と同時に、リンは今まで自分にかけていた不可視の幻術を解いた。
「精霊様!?」
「おいおい、何でこんな所に精霊が、ってさっきの奴は」
……何もできなかった頃のリンとは違う。幻術しか使えなかった頃のリンとは違う。
今なら、……今のリンなら戦える!
「ロンドさん、アレはモーリスさんじゃないよ。アレは」
「……やはりいましたか、この羽虫が。お前はここで潰すことにしましょう」
それはリンのセリフ。ユートを苦しめるお前達をリンは絶対に許さない。
「ーー邪神ムトの手下だよ」




