80話 隠されていたもの
昔むかし、そのまたむかし。
人間のことが大好きな神様がいました。
神様という存在は滅多に人々の願いを叶えることなどありません。一人一人の願いを叶えていたら神様だって疲れてしまうからです。
しかし、その神様は違いました。人間が、ドワーフが、エルフが、竜人が、獣人が、精霊が、その世界に住む全ての種族が好きで好きでたまらなかった神様は、みんなの幸せを願い、そして笑顔を見るために、毎日人々の願いを叶えていたのです。
争いが起これば仲直りをさせ、怪我をした人には癒しを与え、飢餓が起これば自ら出向いて食べ物を創る。
そしてそんな願いを叶え続けるにつれ、神様の加護を求めて様々な種族が集まり、いつしか笑顔の絶えない素敵な国が出来ました。
しかしそんな幸せも長くは続きません。
その幸せの国に目をつけたとある怖い怖い神様が、その神様を殺してしまったのです。
人々は嘆き悲しみました。何日も何日も泣き続けました。
そして怒った人々は神様の仇をとるために、力を合わせて怖い神様に立ち向かいました。
しかし相手は神様です。みんなが力を合わせても、その怖い神様を倒すことはできませんでした。
怒った怖い神さまはその国を砂の国に変えました。食べ物も水も無い、人の住めない国にしてしまったのです。
それからはみんな散り散りになっていまいました。もう戦う力も残っておらず、生きるのに精一杯だったのです。
幸せの国は誰もいない悲しい国になってしまったのです。
「……この辺りかな?」
砂漠の街メゾリアから数キロ離れたところに、僕は今立っていた。
見渡す限り砂ばかりで何も無い、側から見ればコイツ何やってんだ? ってなるような場所だけど、もちろん意味があって僕はここにきている。
というのも、この砂漠に入ってから感じた力の波動がこの辺りを起点として流れているように感じるんだ。
となれば、もうここには何かあるとしか思えないよね。
そんなわけで調査をしにここまできたんだけど……、
「隠蔽されてるなぁ」
さっきからこの辺りをグルグル歩き回っているのはこれのせいだ。
よっぽどこの結界のようなものを壊されたくないのか、途轍もなく高度な隠蔽が施されていて正確な位置が分からない。
しかもこれは魔術じゃない。神力を感じるから、これを施したのは間違い無く神だ。
「……こんな時はリンが居てくれると助かるんだけどなぁ」
……いや、ダメだダメだ。リンには今ロンドさんに付いていて貰ってるんだから。それにこれは自分でなんとかしないと。
あいつに頼るっていう方法もあるけど、今変わるのは得策じゃないし……、どうしようか。
さっさと確認してリンと合流しないといけないし……。
「……あまり使いたくはないけど」
この場合は仕方ないか。結構神力を消費するからやりたくはなかったけど、
「…………」
神力にはそれぞれ違う性質がある。
天照さんなら太陽を司るから太陽の性質。ミルは豊穣を司るから豊穣の性質。
そして僕はーー自由。
「……【消えろ】」
文字通りある程度のことなら自由にできる。今みたいに隠蔽の力の一部を消して無効化したり、ね。
ただ、難点は馬鹿みたいに神力を消費する。僕が使える神力は元々少ないから、このデメリットはかなり痛い。
でも、
「こうして入口が見つかったんだから、良しとしようか」
それにもう神術が使えないっていうほど消費したわけでもないし。
力の使い方によって神力の消費が変わるけれど、今回の消費は僕が使える神力の総量の十分の一程度かな? これくらいなら許容範囲だね。あの死にかかった時に半自動的に肉体を復元する力に比べてたら全然マシだ。あれは本当に神力を使うからね。
「……っと」
力の流れ出る場所の砂を少し掘ってみれば、そこには地下に繋がるであろう重厚な鉄の扉が砂の隙間から顔を出した。
「……いかにもって感じだね。【サーチ】」
…………うん。罠は無いっぽい。
中の通路は大人が手を広げて歩けるくらいに広いね。それに一本道だから迷うこともなさそう。
その先は……、
「小部屋、かな?」
いや、小部屋とは言えないか。小部屋と呼ぶにはあまりにも広すぎる。
うん? ……いやいや、一体どこまで広がってーー
「っ! ……弾かれた、か」
どうやら何らかの術では見れないように罠が仕掛けてあったみたいだ。
あとは直接入って自分の目で見てみるしかなさそうだね。
「……仕方ない」
相手が神なら油断はできない。……いつも油断ばっかりしてる僕が言っても説得力はないだろうけど。
でも今回は神だって分かってるんだから、全力だよ。全力で防御を固めるよ。
……攻撃? 攻撃なんて二の次だよ。
攻撃は最大の防御? それは攻撃力のある奴が言えることで、僕みたいな火力不足の半人半神には無理だって。
だって仕方ないでしょ。本物の神に比べたら使える神力の量が違いすぎるんだから。あいつならまだしも、僕は搦め手を使わないとかないっこないよ。
「……って、何で言い訳なんてしてるんだろ」
まぁ、それが事実なんだけどね。
僕にそんな力は無い。攻撃は最大の防御なんて言えるのは僕の師匠くらいだよ。……実際言ってたし。
あ、天照さんもできそうだけどそんな脳筋みたいなことはして欲しくないなぁ。
閑話休題。
とりあえず中に入ってみようか。というかもう入ってるんだけど。
鉄の扉は神力で強化したら簡単に開いた。普通ならビクともしないんだろうけど、こういう時は神力様様だね。
中は真っ暗だった。地面の下だから当然と言えば当然なんだけど、こう、何というか、あんな隠蔽がかけられていたくらいなんだから、中に入ったら自動で明かりつくくらいのことはして欲しかっーー
「うぉい!?」
なんて思ってたらついたよ! 通路を照らすようにロウソクの火みたいなのが両側の壁側に真っすぐと。
「……これは何? 僕が文句を言ったからつけてくれたとか?」
あれ? でも口には出してないはず。
それに誰かの気配なんてしないけどなぁ。……いや、ムトのこともあるし、僕が見つけられていないだけかも。
どちらにしても、こんなに心臓に悪いつけ方はしないで欲しいね。
しばらく進むと、例の大部屋へと出た。ありがたい事に大部屋もきちんと明かりがついている。
「うわっ! 真っ白だなぁ」
どういうわけかこの大部屋は壁も床も真っ白だ。さっきまでの通路は砂漠の砂を固めたような色と質感だったのに。
「それに、やっぱり広い。これは空間自体が拡張されているのかな?」
神ってどうしてこう空間を広げたりするのが好きなんだろう。
天照さんも自分の世界を創っていたみたいだし、剣術の方の師匠も自分の空間を持ってた。流行りとか? まぁ、どうでもいいか。
……別に僕も欲しいわけじゃないからね?
「おっと」
【サーチ】が効かなかったのはここからだっけ。
「……これは、術の解除と幻惑の力が働いてるね」
あの隠蔽を解いて中を確認しようとしても、中に入らないと見れないようにしてる。
二重対策するなんて、この先にあるものは相当に危険、あるいは大切なものなんだろう。
「……これは触れても特に問題はなさそう」
他に罠が仕掛けられている様子もないし……入ってみるしかないよね。
覚悟を決めて一歩を踏み出す。そして目を開けるとそこには、
「……剣?」
台座に突き立てられた剣が二振りあった。




