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75話 旅の再開

「ユート〜」

「……」

「ユートってば〜!」


 ホガ村を出て丸一日になるかな。こうも荒れた風景ばかり見ていると心まで荒んでしまいそうになっちゃうよ。


「聞いてるの〜!」


 ハクたちはもうしばらく村に残るらしい。ハクが言うには、ユエン達だけでは少し心配なのだとか。

 ユエン達もゴルタル国の兵士なのだし、鍛えているだろうから大丈夫だと思うけどね。


「無視しないでよー!」


 まぁ、ハクとベルにはまた会えるでしょ。なんとなくだけど、またどこかで会うような気がするんだよね。

 僕も用事が終わったらゴルタルの王都に行ってみるつもりだし。


「ユートー!!」

「……うるさいなぁ」


 耳元でそんなに大きな声で叫ばないでよ。

 リンが鈴のような綺麗な声をしていると言っても、そんな大声で叫ばれたら鼓膜が破れそうになる。


「なんで無視するの!!」

「それはリンがよく知ってるでしょ。忘れたとは言わせないよ」

「あれは……やりすぎたとおもうけど。でも置いていくことないでしょ!」


 そう。あれから僕は本当にリンを置いて村を出た。結果はこの通り、一日後には合流できたね。


 お互いにどこに行ったが何となく分かるし、すぐに追いかけてくることも分かっていた。

 だから、さらに嫌がらせーーじゃなくて、お互いの絆を確かめるために、それなりの速さで走ってここまできたんだけど。……意外と時間がかかったみたいだね。もう少し早く会えると思ってたんだけどな。


「ま、いいじゃない。でも随分と時間がかかったね」

「むぅ。ごまかそうとしてる」

「いやいや、そんなことはないよ」

「……ならこれでおあいこね」

「分かったよ」


 僕もこれ以上何かする気は無いし。リンの焦る顔が見れたからもう十分だ。

 ふっ。これで少しは反省するがいい。


「で、どうしてこんな時間がかかったの?」

「? リンは急いでとんできたよ。ユートがはやすぎなだけ」

「え? 僕はリンでも追いつけるような速さで来たけど」

「むぅ?」


 以前リンが飛んでいた速度よりも数段落として走ったつもりだったんだけどなぁ。休憩も長めにとったし。

 ……つまりこれが意味するのは、


「もしかして、リンって飛ぶの遅くなった?」

「えっ?」

「いや、違うな……。もしかして、太った?」

「っ!?」


 精霊とはいえ女の子のお腹を触るような真似は流石の僕でもしないけど、服越しで見ても分かる。リンは少し太った。

 うん、間違いない。昔は筋肉質とまではいかないけど、それなりに全身が引き締まっていたもん。


「やっぱり太ったよね?」

「そ、そんなことないもん」

「でも、前よりも随分と動きが悪くなった気がするよ? いつからか僕のフードに入って移動するようになったし、あれだけよく食べて動かなかったら太るんじゃない?」

「……ユートきらい」

「僕は事実を言っているだけだよ」

「むぅ」


 そんなむくれた顔したって、僕は言ったことを撤回なんてしないよ。実際に昔よりもほんの少し丸くなったし。


「女性にふとったなんて言っちゃダメ!」

「なら大丈夫だね。リンは女性じゃなくて()()()だから」

「むぅ〜!! こどもじゃない!」


 いや、子供でしょ。一桁の年をした少女――いや、幼女が何を言っているのやら。


「……だいえっとする」

「リンにできるの?」


 長続きするとは思えないなぁ。三日坊主になっちゃいそうだ。


「できるもん! 天照さまの部屋にあっただいえっとの本よんだもん!!」


 ……そ、それは少し意外だったよ。


 天照さんはスタイルが完璧というか、完成されているように見えたから。正直言って、あの人以上にプロポーションの整った人は今まで見たことない。

 何の苦労もなくあのスタイルを維持しているわけではなかったんだね。


 でも、それって暴露しちゃっても良かったのかな? そういうは隠しておきたいものだって、とあるホテルで清掃をしていたおばちゃんから聞いたことがあるけど。


「……あとで覚えておきなさい」

「ひっ!?」


 ……何処からか天照さんの声が聞こえたような気がする。幻聴かな?


「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 いや、リンが怯えているところを見るに現実だったみたいだね。

 とりあえず、さっきの話は聞かなかったことにしておこう。誰かに漏らそうものなら、僕はきっと天照さんに滅殺されるだろうから。


 ……ほんと、この世から消えちゃうから。






「ユート、どこに向かってるの?」

「ああ、まだ言ってなかったっけ。メゾリアっていうとこだよ」

「どんなとこ?」

「治安が悪いらしいよ。あと、砂漠の真ん中にあるらしい」

「なんでそんなとこいくの?」


 うん。当たり前の疑問だね。普通ならそんなとこに行きたいとは思わないよね。


「理由はいくつかあるんだ。まぁ、元村長がそこにいるから捕まえるっていうのもその一つだよ」

「いちばんのりゆうは?」

「……実はね、そこに神剣が一振りあるっていう噂を聞いたんだ。この世界に五本とない剣と聞いたらちょっと見てみたくならない?」

「ううん」

「……そう」


 リンは精霊だからそういうのには興味ないのかな?

 でも、あの豊穣の短剣ですら持つのが精一杯だろうからなぁ。自分が使えないようなものに興味なんて湧かないか。


「でも、ユートが楽しそうだからいい」


 楽しそう、か。そうだね。


「楽しいよ。リンと一緒に旅を始めてから、ずっとね」


 ……リンを置いて一人で村を出てから、久しぶりに寂しいと感じたんだ。


 もう長い間リンと一緒だから忘れていたけど、やっぱり一人というのは静かで……孤独だ。人間は一人では生きていけないなんて聞くけれど、もしかしたら本当にそうなのかもしれない。


 もしリンがいなくなれば、僕は旅を続けることができるのかな? ……今は分からないけど、少なくとも楽しい旅にはなりそうにない。


「リン、これからもよろしくね」

「うん!」


 それじゃあ、“楽しい旅”を再開しようか。

 でも、その前に、


「リン、飛ぶのはどうしたの?」

「あきた。もうどうでもいい」


 三日坊主どころか、三分持ったかどうか。

 やっぱり、リンにダイエットなんて無理だったか。でも、完全に丸くなったリンなんて見たくないから、適度に運動をさせるように気をつけよう。


「ん? 何あれ」

「むぅ〜? ……まもの?」


 何かの気配を感じて見上げてみれば、前方から何かよく分からないものが飛んでくるのが見えた。

 飛んでくると言っても、翼をばたつかせて飛んでいるわけじゃない。そもそも翼なんてものは付いてないみたいだし。

 だからより正確な言い方をするなら、浮いているっていうのが正しいかな。


「……あれ、もしかして箒?」


 近づいてくるにつれてその全貌が明らかになってきた。

 どうやら、箒に人が乗って飛んでいるみたいだ。体格からして女性だろう。


「あらあら〜? 珍しいですねぇ。精霊さんですか」


 まるで魔女のように箒に座って飛んできたその女性は僕らの目の前で停滞すると、僕の頭の上に座るリンを見てそう言った。


「珍しい?」

「えぇ。最近はあまり見かけませんねぇ。あれ、最後はどこで見たんでしたっけ……?」


 最近っていつの話だろ。できればこの世界の精霊たちにも会ってみたいんだよね。特に例の国を作ったっていう精霊には。

 ダンジョンで会ったあの精霊とは楽しく会話なんてできそうにないから、そっちの精霊に会って話ができるといいな。


「おっと。こうしてはいられないんですよぉ。早く用事を済ませて帰らないと」

「用事って?」

「素材を取りに来たんです。アムラスっていう魔物の牙なんですけど、どこかで見てませんかぁ?」

「あ、それならこの先の村にあるよ。たぶん少しくらいなら譲ってもらえると思う」

「本当ですか。それは重畳。ありがとうございますねぇ。少年さん」


 そう言うと、箒に乗った女性は早々にその場を飛び去っていった。


「……ふぅ」

「だいじょうぶ?」

「うん。にしてもすごい人だったね」

「だね〜」


 本当にすごい()()()だった。

 二十代後半くらいに見えたけど、あれはたぶん師匠と同じレベルの人だね。対峙してあの人が身に纏う雰囲気ですぐに分かった。

 敵には回したくない部類の人だ。さすがに、経験の差だけはそう簡単には埋まらないからね。


「なんだ。この世界にもすごい魔術師がいるじゃん」


 あの人なら家を建てることくらい片手間にできるだろうね。

 だって箒で空を飛ぶくらいだもん。あれは相当力の使い方が上手くないと出来ない芸当だよ。


「……あ、名前聞いとけばよかった」


 名前が分かれば調べようもあるんだけど……ま、仕方ないか。今更追いかけるわけにもいかないし。


「次に会ったら話をしてみたいな」


 きっといい魔術談義ができる。










「ふふっ。あの少年さん、面白そうでした。……次はきちんとお話ししたいですねぇ」



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