74話 告白
「……そろそろ頃合いかな」
家も直した。怪我人の治療もした。
後は今回の件に関してみんなに告げてここを去るだけだ。
ーー僕がムト襲撃の発端だということを。
「リン、行くよ」
「どこに〜?」
「そうだ、次はーーああ、もう一つだけできることがあったかな」
だとすると、次の目的地はあそこだね。何やら面倒なことが起きそうだけど、どちらにしろ一度は行こうと思っていたし、ちょうど良かったのかもしれない。
「でも、その前にみんなを集めないと」
「……寝てていい〜?」
「いいけど、準備はできてるの?」
「たぶん」
「そんなに信用のならない“たぶん”はそう無いと思うな。ちゃんと果物が欲しいなら言っておいてよ? ただでさえ手に入れるのが難しい状況なんだから」
「ん〜、もうもらったからだいじょうぶ」
「貰った?」
「ん。これ」
リンはそう言って、ドライフルーツがはち切れんばかりに入った袋を取り出した。……僕のリュックから。
「なんで僕のリュックに入れてるのさ。っていうか、どうしたの? それ」
「ん〜とね、みつぎもの?」
……ああ。そういえば精霊は神の使いなんだったっけ。リンの生みの親が天照さんらしいから、ある意味合っているのかな?
でも、天照さんって地球の神様だから、この世界の人には御利益とか無いと思うけど。それに、リンに貢いだところで何もしてくれないし効果も無いんじゃないかな。
「お礼は言った?」
「ん。よきにはからえ、って言っといた」
「それはお礼じゃないでしょ……」
どこの殿様よ、それ。というか、それってちゃんと意味通じたの?
「なんか、ひれふしながらを息をあらくしてたけど、えがおだったからだいじょうぶだとおもう」
「いや、それはそれで大丈夫ではないと思うんだけど!? 何かされなかった?」
「べつに? とくには」
よかった。もし何かされたんなら、分子レベルで分解して宇宙の彼方に捨ててこないといけないとこだった。
「みてるだけでいいんだって〜」
この世界には警察はーーあ、兵士がいるじゃないか。今度会ったら突き出してやろう。あ、でも自分で処分したほうが早いか。……うーん、どっちがいいかな。個人的には自分の手で消しとばしておきたいなぁ。確実だし。
「……何、処分だとか消し飛ばすとか物騒なこと言ってるのよ」
「うん? なんだ、カリナか。どうしたの?」
「いや、こんな道のど真ん中でブツブツと怪しいことを喋ってたら、誰だって気になるでしょう」
「僕なら避けるけどね」
「……私も避けたかったわよ。でも、それが知り合いだったら声をかけざるを得ないでしょ。犯罪を未然に防ぐためにも」
「まるで僕が犯罪者になるみたいな言い方だね」
失敬な。僕はそんなに野蛮じゃないって。もし僕が犯罪者予備軍なら、あの暴力シスターは大罪人だよ。
……あ、比較なんてしなくても、あの人はもうすでに大罪人みたいなものか。
「あ、そうだ。ちょうどいいところに出会った」
「何かしら? 共犯者にはならないわよ?」
「いや、それはまた今度で」
「そんな機会は一生来ないわ」
つれないなぁ。ただ、ちょっと犯罪者狩りをするだけなのに。ゲームで言うPKK的な?
「えっと、村の人たちを集めて欲しいんだけど」
「出来なくはないけど、どうしてかしら?」
「ちょっと話したい事があってね。みんなにも知っておいて欲しい事なんだ」
「私からその内容を伝えてもいいけど?」
「いや、できれば自分で直接言いたいから。頼めるかな?」
「……そうね。あなたの名前を使ってもいいかしら? そしたら一時間くらいで集まると思うわ」
「なんで僕の名前で集まるのか知らないけど、いいよ」
「分かったわ。それじゃ、一時間後に」
どうやって集めようかと考えてたのに、まさか一時間で集められるなんて。カリナって本当にただの村娘? 秘書とか似合ってる気がするなぁ。……子供の姿だけど。
カリナの言ったように、一時間後には村中の人が集まった。老人から子持ちの年頃の男性女性、果てはまだ歩き始めて間もない赤ん坊まで。おそらく、文字通り本当に村中の人が集まったんだろう。
そして、そんな視線を集中的に浴びているのがーー僕だ。
正直言って逃げ出したい気持ちが強い。でも、それ以上に真実を伝えるべきだと思っているから、逃げるに逃げられない状態なんだよね。しかも、調子に乗ってちょっとした舞台まで作っちゃったもんだから、より視線が集まってる。こんなことなら作らなきゃよかった。
「あー」
僕が声を出すと、ざわつきが一斉に静まった。……なんで? まだ「あー」しか言ってないのに。静かになるまでにたったの三秒って、校長先生もびっくりだよ。
「えっと、みんなも知ってると思うけど、僕は唯斗。よくユートって呼ばれてるよ」
すると、元気のいい少年少女たちが「ユートお兄ちゃん」だとか、「ユートにぃ」だとか、いろんな呼び方で呼びながら手を振ってくれた。
……あぁ、ありがたい。ちょっとこの重苦しい空気が和らいだよ。
深呼吸をして心を落ち着け、意を決して口を開く。
「集まってくれてありがとう。僕から重大な報告があるんだ」
重大な報告と聞いてか、ざわめきが大きくなるのを感じた。半数以上が、不安そうな顔をしているのが見える。
「これを聞いて、キミたちがどう思おうとキミたちの自由だ」
僕が罵声を浴びせられる程度のことでみんなが前に進めるのであれば、それくらい受け止めるよ。
だから、
「あのダンジョンを創り出した邪神ムト」
それが終われば、
「その狙いはーー」
お別れだ。
「僕だ」
……。
…………。
………………あれ?
どういうわけか、誰の声も聞こえてこない。まるで時が止まったかのように静かだ。
「……えっと」
すると、その静寂に戸惑っているような声が一つ聞こえてきた。
隣から聞こえてきたってことは、カリナだよね?
「ユート?」
「何? 言いたい事があるなら言ってくれて構わないよ。僕がここに居たからムトが襲撃してきたという事実は変わりはしないからね」
「……あ、うん。その、ね?」
「はっきり言ってよ。別に何を言われたって手は出さないから」
「……はっきり言うわよ?」
「うん。遠慮なんてしなくていい」
カリナは少し意外だったけど、友人とか親しい人が亡くなったのかもしれない。悲しむようなそぶりなんて一度も見た事なかったから。……ずっと我慢していたんだろうな。
「あのね?」
「……」
「あなたが狙われていたって言うのは、ここにいる全員が知っているわよ?」
「……………………えっ?」
うん?、いや、でも、はい? どういうこと?
「あなたがまだベットで寝込んでいるときに、リン様が色々と説明してくださったのよ」
えっ、リンが? 何も言ってなかったけど? 僕、何も聞いてないけど?
「……最初はあなたの言ったように、あなたを批判する声もあったわ。でも、リン様も言ってたけど、あなたがいなければ私たちはアムラスの襲撃で死んでいたのよ。この辺りでは、水は命と同等、もしくはそれ以上の価値があると言われているほどに貴重なものだから」
「えっ、でも、そのアムラスもムトの差し金かもしれないし……」
「絶対ないとは言えないかもしれないわね。でも、どちみちアムラスはこの村に来ていた可能性が高いのよ」
「えっ?」
「あなたが来る数ヶ月前から、この辺りでアムラスの目撃情報があったの。しかも、最近はその頻度も増えてきていたわ。でも、元村長の意向で兵は呼ばなかったの。だから、どちらにせよ、この村は近々アムラスに襲われていたと思うわ」
「でも、それはーー」
「ええ。かもしれない、という可能性に過ぎないわ。でも、それを言うなら、あなたの言っている“ムトの差し金かもしれない”というのも可能性に過ぎないわよね?」
「あっ……」
そっか。僕が言っているのも可能性の話でしかないんだ。“かもしれない”だとか、“もし、〜だったら”なんて、考えていたらキリなんてないのにね。
「……あなたはダンジョンに入って、二人しか救えなかったと思っているみたいだけど、ここにいる全員の命を救っているのよ。それは仮定や可能性の話じゃないわ。実際に現実で起きた事実よ」
……満面の笑みを浮かべて手を振る子供たち。その子供たちの頭を撫でながら控えめに手を振ってくれる大人たち。杖をつきながらも、震える手で手を振ってくれる老人たち。
そんなみんなのことを、僕は救えていたんだ。
「……ありがとう」
「それは私たちが言うものよ。……助けてくれて、本当にありがとう」
すると、堰を切ったように「ありがとう」と言う声が僕の耳に次々と届いた。老若男女問わず、一人一人の声がしっかりと。
……助けることができて、本当に良かった。
「でも、なんでリンは僕にそのことを言ってくれなかったんだろう?」
いわゆる、“照れ”っていうやつかな? 全く、リンも素直じゃないんだから。驚きはしたけど、感謝している。お返しに何かプレゼントでもーー
「ふふっ、大成功だね! お兄ちゃん、びっくりしてくれてたね!」
……うん。そう考えていたんだよ? 少女のその言葉を聞くまではね。
「こ、こら! それを言ったらーー」
「言ったらどうなるのかな?」
「っ!……あの、いえ、これは」
小さな女の子を脅すわけにはいかない。だから、威圧はその隣に立つその子の親らしき人に向けることにする。
「話してくれるかな?」
「な、何をでしょうか?」
「カリナとかも知ってるみたいだけど、多分みんな吐いてくれないんだよね。だから、違う人に教えてもらおうと思って」
カリナにちらりと視線を向ければ、引きつった表情でそっぽを向かれた。ハクやベル達もだいたい同じような反応だね。
「私は何も……」
「ふーん。なら他の人に聞いてみようかな? 幸い、ここには多くの人が集まっているみたいだし」
「なっ!? ……ヒッ!」
僕がそう言うと、周囲の鋭い視線がその男性へと向かった。
ま、そうなるよね。だってこの人が黙っていたら、次は他の人が対象になるんだもん。そんな嫌な役は誰だって引き受けたくないはずだ。
「うぅ……」
「どうする?」
男性に一歩近づくと、顔を青ざめながらもポツリポツリと話し始めた。
「……精霊様が言わないようにと」
「理由は?」
「……驚かせてやろうと、言ってました。……あと、面白そう、とも」
「笑顔で?」
「……無邪気な笑顔で」
なるほど、なるほど。おーけー、よく分かったよ。
「りーんー? ちょっと出てこようかぁ?」
ちょーっと、話し合いとお仕置きが必要なようだね。これを見て笑っているところを想像すると、なおさらその気持ちが溢れてやまない。
ーーここできっちりと決着をつけようじゃないか!
「リン!!」
服のフードの中から気配を感じた僕は、勢いよく手を突っ込んでわし掴んだ。
「……うん?」
でも、取り出してみれば、それはリンじゃなかった。というか、生き物ですらなく、ただの紙だった。いや、文字が書かれているから手紙といったほうがいいのか。
……にしても、なんでこんな紙からリンの気配がするんだろ。
不思議に思いながらもその手紙を読んでみると、
「……は、はははは、ハハハハハハハハハハッ!!」
「……お兄ちゃん怖い」
おっと、ごめんね? でも、笑わずにはいられなかったんだよ。
だって手紙には、“ぷぷっ! おもしろかったよ。やっぱりユートはおバカだね”って書かれてたんだから。
……なんというか、ムトを彷彿させる内容だ。
「……よし」
決めた。旅に出よう。
リンなんて置いて行ってやる。




