73話 触らぬ神に祟りなし
「よう、ユート」
「うん? ああ、ゲングか」
子供たちに会いに行く途中、腰に金槌やら鋸やらをぶら下げたゲングに声をかけられた。
相変わらず背の低さの割には体格がっちりしている。やっぱり見た目で印象が随分と変わるなぁ。僕もそれなりに鍛えて筋肉はついてるんだけど、手足が細いからいつも貧弱に見られるんだよね。まぁ、向こうはドワーフで僕は人間っていう種族差もあるんだろうけど。
思わずジロジロと見ていると、ゲングが眉をひそめたので、一つ咳払いをして誤魔化しておく。
「ゲングは今から仕事?」
「おう。つっても、お前さんがほとんど直しちまったから、大変な作業はねえがな。お前さんは?」
「僕は子供たちと遊ぶ約束をしてるから」
「そうか。村の若けぇ男なら仕事しろって言うんだが、お前さんはもう十二分に働いたからな。それに、お前さんがガキどもを見ててくれるんなら安心だ。むしろ、もっと休まなくて大丈夫なのか? ガキどもの世話も疲れるだろ?」
「うーん。僕は遊んでる感覚だから、むしろいいのかなって感じはするけどね」
「お前さんが無理してないならいいんだ。また暇な時にでも遊んでやってくれ。この村では男手はどこも必要でな。遊んでやれる大人はいねぇんだ」
言われてみれば、子供たちと大人が遊んでいるところは見たことがない気がする。
「誰か遊んであげられないの?」
「普段なら女共が構ってやってるみたいなんだが、アムラスやらダンジョンやらで忙しくてな。お前さんのおかげでかなり楽になったんだが、まだまだやることは残ってんだ」
「手伝おうか?」
「いや、いい。……別にお前さんに遠慮してるだとか、嫌ってるとかじゃねぇぞ? 俺らにしかできねぇ仕事だってあるって話だ。やり方を教えたらお前さんもできるかもしれねぇが、それで全部やってもらうのも違うからな。俺らの生活は俺らがするもんだ。だから……あ〜、うまく言えねぇ。察しろ」
「あ、うん。何となく分かったよ」
下手に手を出してやり直しとかした方が大変だもんね。僕にできることならするけど、できるようになってまで手伝うのは違うっていうことだね。
「ま、お前さんがガキどもと遊んでるだけで助かってんだ。あいつらも楽しそうだしな。俺の知り合いのやつなんて、こないだのお前さんがあいつらと建てた家を見て、感動して泣いてたんだぜ? いやぁ、あれは傑作だった」
そう言ってゲングはカラカラと腹を抱えて笑った。
詳しく聞いてみると、子供たちの中にその知り合いの子供がいたらしい。そして親は大工らしく、息子が将来有望だと涙を流しながら喜んでいて、それをゲングは側で笑いながら見ていたようだ。
というのも、
「あいつ、いつもは寡黙でほとんど表情に出さねぇのに、息子のこととなるとあんなに感情的になるんだ。笑いが止まんねぇ」
だそうで。
その人のことはともかく、子供たちが考えて僕が建てた家は、どういうわけか大工の間でかなり評判がいいらしい。
最近は同じようなものばかりで飽きてきていたらしく、もっと個性的なものがあってもいいんじゃないかと、常日頃から考えていたようだ。そんな時に僕があれを建てたもんだから、余計に大工魂を刺激してしまったみたいだね。
まぁ、僕もあれは面白い建物だとは思うよ。住みたくはないけど。
建てておいてなんだけど、あれは取り壊されるか、ただのオブジェになりそうだ。
別に僕としてはどっちでも構わないんだけどね。衝動的に作ったものだし。
「ああ、そういえば、お前さんが建てたあの家な。全部人が入ったぞ」
…………え?
「嘘でしょ?」
「嘘って何だ、嘘って。お前さんが建てたんだろうが」
「いや、でも」
「ものすごい競争率だったぞ。入りたい奴が殺到してな。結局は、くじで決めたが」
そんなに? 入りたいって思う人なんていないと思ってたんだけどなぁ。
……いや、待てよ。まさかとは思うけど、
「それって、全員大工だった?」
「ん? ああ、そうだが。よく分かったな」
うん。納得した。この村に何人大工がいるのか知らないけど、家を建てるのに2、3人な訳がないもんね。そりゃ、全員が入りたがったら、そこそこ競争率は上がるだろうさ。
「何だったら、新しいの建ててくれ。土地はいくらでもあるから、どこに建てても良いぞ」
「嫌だよ。あれで、もの凄くカリナに怒られたんだから」
「アイツの怒りが何だってんだ。俺はあんな奴のことなんて全然ーー」
「あら、私のことなんて、何なのかしら?」
うわぁ、まるで狙ったかのようなタイミングで登場するね。もしかして影でこっそり様子を伺っていたりする?
突然背後に現れたカリナに驚いたゲングは、魚のように口をパクパクと開け閉めしながら、数歩逃げるように引き下がった。
「……カリナ、何で」
「私がどこに居ようと勝手でしょう? それとも何、私が居ちゃいけないとでも?」
「いや、そんなことは……」
「それよりも、私さっきの話がもっと詳しく聞きたいの。良いわよね?」
「さっき? ああ、俺の知り合いのーー」
「馬鹿ね。私の悪口を言おうとした方よ。あなたの知り合いが泣いてたことなんてどうでもいいわ」
……それって会話の始めの方だよね。絶対に聞き耳立ててたじゃん。
「あら? ユートも何か私に言いたいことでもあるのかしら」
「何もないよ。ある訳ないよ。本当に大丈夫だよ」
「そう。なら、早く子供たちのところに行ってあげなさい。楽しみに待っていたみたいだから」
それってもう会話の一番始めーー
「行きなさい?」
「了解」
邪魔者は早々に立ち去ることにしよう。うん、それが良い。一番良い。
何やらゲングが恨みのこもったような目で見てくるけど、僕にそんなことを気にしている余裕なんて無い。
だって、カリナがこの世の者とは思えないような目で僕を見ていたんだもん。……僕の方を見ていたからゲングには分からなかっただろうけど。
あれは関わらないほうがいい。とばっちりを受けるのはごめんだ。
何やら立ち去った直後、ゲングに背を向けた瞬間に、幽霊でも見たような悲鳴が聞こえたような気がしたけど、僕は何も知らない。聞いてない。
きっと幻聴だったんだ。
……そういうことにしておこうと思う。
「あ、ユートお兄ちゃん!」
「ほんとだ! ユート兄ちゃん!!」
ワラワラと集まってくる子供たちに手を振りながら近づく。
ああ、この子供たちを光と例えるなら、さっきのカリナはきっと暗黒だ。光さえも飲み込んでしまうから、きっとこの子達を近づけないほうがいいだろうね。
「さて、今日は何して遊びたい?」
「ボール遊び!!」
「おにごっこ!!」
「かくれんぼ!!」
「家づくり!!」
暇そうにしていたから、いくつか地球の遊びを教えてあげたんだけど、随分と気に入ってくれたみたいだね。
だけど最後のやつ、キミはダメだ。そもそも、それ遊びじゃないし。それに、それを流行らせると、僕がカリナに殺される。
「家づくり以外でね」
「ええ〜」
「そうじゃないと、僕と一生遊べなくなっちゃうよ?」
比喩や例えじゃなくてね。
「……それはイヤだから我慢する」
「うん、いい子だね。それじゃあ、どうする?」
「うーんとね……じんせいげーむ!!」
「いいよ。じゃあ、また地面に書いてやろうか」
「うん! 頑張って家建てるの!!」
……そこまでして家を建てたいのか。何がキミをそこまでさせているのかな?
結局、その日は夕方までずっと子供たちと人生ゲームをすることになった。
他の遊びをしたいと言い出す子も出てくるんじゃないかと思っていたんだけど、そんな子は一人もいなかった。みんな熱中していたみたいだから、きっと楽しめたんじゃないかな。
かく言う僕も結構楽しかったし。
「明日は何をすることになるかな?」
また新しい遊びを教えるのも、いいかもしれない。




