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72話 新たな村長

「ですが、今まで通りというわけにはいかなくなりますからね。これからは忙しくなりますよ」

「何か問題でもあるの?」

「それはもちろん。ダンジョンが現れたということは、そこに出る財宝を求めて多くの冒険者が集うことになります。となると宿を増やさないといけませんし、武器や防具、食料なども必要です。もう村とは呼べなくなるほど賑わうでしょうね」


 ああ、そっか。確かダンジョンには宝箱が出るんだっけ。


「でも、僕が入った時には宝箱とかは見なかったけど?」

「宝箱が見つかるのは極々稀ですよ。それに、宝箱だけがダンジョンのメリットではありません。中に森があったんですよね?」

「うん。結構広かったよ」

「でしたら、木材もこの辺りではよく売れます。この辺りには木々なんて生えませんから」

「なるほどね。ただ財宝だけがダンジョンの全て、っていうわけじゃないってことか」


 ハクが狩った恐竜も食べれたぐらいだから、きっと他にも食べられる魔物がいるんだろうし、牙なんかも使い道があるって聞いた。となると、ダンジョンっていうのは案外人々の生活に役立つ存在なのかもね。


「ですが、良いことばかりというわけでもありません。時折、中にいる魔物がダンジョンの外に溢れ出ることがあるのです」

「えっ!? それはまずいんじゃないの? 一般人が勝てる相手じゃないでしょ」

「ええ。ですから、ダンジョンが近くにある街には冒険者たちの存在が必要ですし、万が一を考えて国が援助できる環境が必須です。幸い、ここゴルタル国には優秀な兵が揃っていますから問題ありませんが」


 とは言われたものの、「なら安心だね」なんてことは言えない。僕はゴルタル国の持つ戦力がどの程度のものかなんてまだ見てないから、その言葉を鵜呑みにはできない。井の中の蛙だという可能性も否定できないからね。


 他はダメでも自分は大丈夫ーーなんて思い込みは、とても恐ろしい結果を招く。それは身を以て知っていることだ。この世に絶対なんてことは無い。どんなことでも起こり得るものだ。……だからどうする、というわけでもないけど。


 だって、全てを想定して動くなんてことは人間にも神にさえもできやしないんだから。それに、そんなのいちいち考えながら生きてちゃ頭がおかしくなっちゃう。


 だから、できるとしたら思い込みだけはしないことだ。あれは絶対に起こらない、これは絶対にこうだから安心だ。そんな思い込みさえしなければ、窮地を切り抜けられることもある、……と、僕は思ってる。思ってるだけで、あまりできていないのが現状な気がするけど。


 もちろんこれは僕の考えだから、誰かに押し付けたいわけじゃない。ただ、少し親近感を覚えている相手が、死んでしまう可能性が少しでも無くせるのであれば、僕は迷わず注意しておこうと思った。


「ユエンーー」


 でも、そう呼びかけたところで、僕は言おうとした言葉を飲み込んだ。

 だって、そういうことに関しては真っ先に指摘しそうなハクが、何も言っていないことに気がついたから。


「どうかしましたか?」

「あ、いや。ちょっとね」

「油断はしてませんよ」

「えっ!?」

「あなたは顔に出しすぎですね」


 ……また言われた。もういっそのこと常に仮面を付けて生活しようかな。完全に不審者だけど。


「相手はあの邪神ですからね。……ましてや、この村は大きな被害を受けている。そんな状況で相手を舐めてかかるようなことはしませんよ」

「……しっかりしてるね。そんなに小さいのに」

「あなたには言われたくありません。それに私の方が少し大きいです」

「いや、キミの方が三ミリほど小さいじゃん」

「いいえ、あなたの方が四ミリ小さいです」

「うん?」

「ええ?」


 ……神力なんて大きな力を持っているからかな。僕は無意識のうちに増長していたのかもしれないな。やっぱり、僕も人間だったってことか。いや、それが人間だという証明にはならないけど、神と聞いたら完璧なイメージがある。なんでだろうね?


「まぁいいでしょう。身長に関しては認められませんが、次に移りましょう」

「そうだね。身長に関しては認めないけど」

「……お主ら、子供じゃのう」


 呆れた様子のハクには、後で肩もみでもしてあげよう。大丈夫、これでも「マッサージが上手い」ってよく言われたものだから。……ただ、少しだけ痛くするかもしれないけど、それは仕方ないよね。


「うぬぉ!? ……なにやら寒気が」

「大丈夫ですか? 後で血行の良くなるツボを押してあげましょう」

「……いや、遠慮しておくのじゃ。何やら嫌な予感がする」

「そうですか……、チッ」


 何やら怪しい笑みを浮かべるユエンの方から舌打ちが聞こえたような……?


「では次に元村長についてですが、その前に」


 ユエンはごそごそと懐の鎧の隙間から丸めた紙を取り出すと、オルンの目の前に差し出すように置いた。紙の中程に巻かれている紐は程よく装飾されていて、何やら高そうに見える。

 ユエンが開くように視線で促すと、オルンが恐る恐るその紐を解いて中を見た。


「なっ!?」


 中を見たオルンは徐々に目を見開き、そして大声を上げた。


「こ、これって!」

「ええ。現時点をもって、あなたがこの村の村長となりました。よろしくお願いしますね」


 何かと思えば、オルンを村長に任命するという書類だったみたいだ。


「……私にはできません」

「どうしてですか?」

「そ、それは私の父がーー」

「それは関係ありません。あなたとあなたの父は同じ人物ではありません。別人です。ただ血が繋がっているというだけの話ですよ」

「ですが……」

「別にあなたは今回の件に関して加担していたわけではないでしょう? むしろ、あなたはあなたの父に反抗していたそうではありませんか。裏で虐げられる人に手を差し伸べたと村人の方から聞きましたが、それは嘘だったのですか?」

「いえ!」

「なら、あなたは十分に村長になる資格はあると思いますよ。というか、あなたにその資格がないと私が思ったら、その場でこの書類は燃やす予定でしたから」


 そう言ってユエンは手に何かを持ってチラつかせた。ロンドさんの店にも置いてあった、火をつけるための魔道具に似ているけど、同じものかな?


「私でよろしいのですか?」

「私が、そして国王様が直々に許可したのです。あとはあなたの意志だけですよ」


 オルンは目を閉じ、深く、深く深呼吸した。そして次に目を開けた時には、何かを決意したようにその両目はぶれることなく定まっていた。


「……分かりました。父のようにはならないよう、精一杯努力させていただきます」

「ほどほどにしてください。ストレスを溜め込みすぎて妙なことにはまり込んでしまうのは困るので」


 だね。何事もほどほどが一番良いと、僕も思う。まぁ、オルンなら良い村長になれると思うな。


「ですが、あなたの父はもうダメでしょう。覚悟はできていますか?」


 村一つを危機に晒したんだ。それ相応の罰は与えられることになるだろうね。しかも、この世界は命がとても軽い。なら、どんなことになるかなんて容易に想像がつく。おそらく元村長は……。


「……なんの気持ちも抱かないわけではありません。ですが、覚悟はできています」

「分かりました。ではーー」

「ですが、見つかったなら最後に一度だけ会わせてもらえませんか?」

「……いいでしょう。その際は兵の誰かが付きますが、構いませんか?」

「はい。よろしくお願いします」


 ……話はある程度纏まったかな。あとは今、元村長がどこにいるかが問題かな。


「ユエン、元村長の居場所は分かってるの?」

「いえ、残念ながら目撃情報が全くないのですよ。今も何人かで足取りを追っているのですが、現在の時点ではまだーー」


 その途端、部屋にノックの音が響いた。ユエンが許可を出すと、扉の向こうから甲冑がチラリと顔を出し、その全貌が明らかになる。どうやらユエンの部下の兵士みたいだ。


「失礼します」

「ご苦労さまです。それで?」

「はい。元村長の行き先が掴めました」

「何処ですか?」

「はい。どうやら、メゾリアに向かったようです」

「……厄介な」


 メゾリア? 確か、ゴルタル国の砂漠地帯にある小規模な街の名前だったかな。


「厄介って、何が?」

「……あそこは砂漠のど真ん中ですからね。食料やら水やらを用意しなくてはいけませんし、そして何より」


 何より?


「ーーあそこは治安が悪いのですよ」


 ……なるほど、確かにそれは面倒そうだね。


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