71話 似た者同士
「……それでは、集まったようなので話し合いを始めましょうか」
現在、僕はユエンの言っていた話し合いに参加している。この場にいるのは、王都から来たユエンと兵士数人、ハク、村長の息子であるオルン、そして僕だ。
カリナも声はかけられていたようだけど、用事があるからと断ったようだ。
僕にお誘いの連絡が来なかったのは、別にのけ者にしようとしたわけではなく、僕の体のことを気遣ってのことだったみたいだ。自由に動けるほど体調が良くなったとはいえ、面白くもない話し合いに参加させるのは気が引けたらしい。
僕としては別にそんなの気にしてないし、村長のことも気になったからこうして参加させてもらっている。
「それでは皆さん、私のことは知っていると思うので、自己紹介は省いて早速本題に入りましょうか」
「ユートとはもう話はしたのかのう?」
「はい、先程。面白い方ですね」
「そうじゃろう。お主とよく似ておる」
ちょっと待って、ハク。それは聞き捨てならないなぁ。
「ハク、それってどういう意味?」
「ほっほっほ。どちらも子供っぽい、という意味じゃよ」
「……それは見た目が?」
「中身じゃ」
ならいいや。いや、いいってことはないけど、見た目が子供だと言われるよりかは何万倍もマシだね。
「ハクさん、私はそんなに子供っぽいですか?」
「ちょっと待って、“そんなに”って僕がとても子供っぽいって聞こえるんだけど」
「ええ、その通りですけど?」
言い切ったよ!? そこは普通、「いや、そう意味ではなかったんですけど、そう聞こえてしまいましたか?」とか言わない?
「そういうところじゃよ。お主、面白がっておるじゃろ? 顔がニヤついておるぞ」
「おっと、これは失礼しました。以後、可能な限り前向きに改善できるよう努力を怠らずに願っておきます」
……それって、結局願うだけで実行する気ないよね。
そんな僕の呆れを感じ取ったのか、ユエンは僕を見てニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「相変わらずじゃのう」
「そう簡単に変わりませんよ。この性格はカビの根のように奥深くまで根付いていますので」
「言いたいことはよく伝わるが、その例えは気持ちが悪いのう」
同感だね。性格をカビと例えるなんて、自分の性格を好ましく思ってないのかな?
「その性格が嫌いなの?」
「いえ、結構気に入ってますよ。ただ、私の性格を知った途端に離れていく人も多いですが」
しまった。不覚にも、その気持ちをよく理解できちゃったよ。ということは、やっぱり僕とよく似ているってこと……?
「っと、そんな私の性格なんてどうでもいいんですよ。まずはこの村のことについて話しましょうか」
「ふむ。お主の判断としてはどうするつもりじゃ?」
「私はこの村に来るまでは、この村はもう捨てた方がいいと思っていました」
「そ、そんな! どうしてですか!!」
村を捨てる。ユエンがそう口に出した瞬間、オルンがそう叫びながら立ち上がった。その顔には怒り、そして若干の失望が含まれているように見える。
「この村には家族が、子供がいるんです! 捨てることなんてできません!!」
「落ち着つけい」
「落ち着いていられるものですか! 大人たちは問題ありませんが、子供たちは長旅なんてできません。あなたは子供達に死ねというのか!!」
「もう一度は言わん。落ち着け」
「っ! ……」
ハクが武将のような鋭い眼光を向けると、オルンは顔を青くしながらゆっくりと倒れるように椅子に座った。僕が気遣って声をかけても、それに気がついた様子はない。それほどまでに、オルンは恐怖で周りが見えていないみたいだった。
「ハク、やりすぎじゃない?」
「うむぅ、すまんのう。少しやりすぎたか」
ハクがいつもの好々爺に戻ると、少しずつオルンは落ち着きを取り戻してきたみたいだ。頬にはだんだんと赤みが差してきた。
「すまんかったな」
「い、いえ。……こちらこそ取り乱してしまいすみません」
「まぁ、仕方ありませんよ。なんと言ったって、元近衛兵の隊長に睨まれたのですから。普通の人なら気絶していてもおかしくありません」
だね。仕方ないよ。なんせ、元近衛兵の隊長ーーなんだって?
「ぬぅ。ユエン、言いおったな」
「……あれ、言ってなかったんですか?」
「元近衛兵の隊長……まさか、“血鬼”!?」
……なにそれ。いや、そんなことより、
「ハクって近衛兵だったの?」
「……まぁ、の。昔の話じゃ」
なるほど。ハクはこの世界で出会った人間の中で一、二を争うほどに強そうな気がしていたから、只者ではないとは思っていたけど、やっぱりただの商人じゃなかったか。
そもそも、ハクは出会った時に恐竜を片手で引きずってたんだよ? 少なくとも一般人ではないし、商人っていうのも限度がある。多少腕に心得がある商人はいるだろうけど、ハクはそんなレベルじゃなかった。でも、元近衛兵の隊長だと言われたら、……うん、納得がいく。
「でも、何で隠していたの?」
「理由はいくつかあるが、……まぁ、一番の理由は恐がられるからじゃな」
「どうして?」
「……お主はワシよりも強いからそうは思わんのかもしれんが、そこのオルンが言ったように、ワシはこれでも以前は“血鬼”と呼ばれて恐れられておってな。色々と暴れまわっておった。まぁ、若気の至りというやつじゃ」
呼ばれていたってことは、二つ名みたいなものか。……ああ、二つ名と言えば、僕も随分と恥ずかしい奴を持ってたなぁ。
「けっき、って?」
「“血”の“鬼”と書いて血鬼じゃ」
あー、これもまた、なかなか恥ずかしい呼び名だね。僕の“黒の死神”と良い勝負してるよ。
「ちなみに、由来は?」
「……何じゃったかのぅ? 忘れてしもうたわ」
「まだボケるには早いですよ」
うんうんと、唸っても思い出せない様子のハクに対して、オルンが呆れたようにそう言葉をぶつけた。
「単純な話です。ただ、返り血を浴びながらも暴れ続ける様子から、そう名付けられたそうですよ?」
「本当に単純だね」
「ええ。こういうものは、一目見て分かるような特徴から名付けられるものですからね」
僕も確か、常に黒い服を着ていたからだったっけ。……あれ、だったら死神ってどこから来たんだろ。まぁ、疑問に思ったところでそれほど知りたいわけではないけど。むしろ、あの呼び名については封印したいくらいだ。
いっそ、人々の記憶から消え去って仕舞えば良いのに。
「まぁ、昔はワシを見かけるだけで、声を上げて逃げ出されたものじゃ」
「ふーん。今のハクからは想像もできないね」
僕からしたら、近所に住む、孫のいるいつもニコニコしたお爺ちゃんって感じがするから。……まぁ、怒らせると一般人なら気絶する程度に恐いという注意書きが付くけど。
「あー、村について話を続けてもいいですか?」
「あ、ごめん。どうぞ」
って、その話を逸らすようなことを口走ったのはキミなんだけどなぁ。
「オルンさん」
「……はい」
「先に言っておきますが、この村を捨てることにはなりません」
「えっ?」
「私は、“この村はもう捨てた方がいいと思っていました”と言ったのです。ダンジョンは財源になるからまだ良いとしても、アムラスによって水源の絶えた土地に住むことなんてできません。住めない土地にダンジョンがあるなんて、最悪以外の何物でもないのです」
「ーーではっ!」
「ええ。今回は異例中の異例でしょうね。そこの“馬鹿としか言いようがない”人が水源を用意してくれたみたいなので、この村は無くなることはないでしょう」
「ああっ! ……よかった。……本当に良かった」
涙して喜ぶオルンを見て、僕もあの人器[鯱鉾]を創って良かったと思う。
もしあれを創らなければ、もしかしたら僕と一緒に家を作った子供たちが死んでいたかもしれない。村だって無くなっていたかもしれない。そんなもしかしたらという想像をすると、より一層その気持ちは大きく感じる。
……でも、
「なんでそんな感動の場面で、カリナの声真似なんかして僕をけなすのかな?」
「なんで? ですか。……まぁ、一言で言えば、さっきの重たい空気を吹き飛ばすため、ですかね? 私、こういう空気ってあまり好きじゃないんですよ」
……なるほど。ハクの言う通りだった。
キミはとてもとても、驚くほどにーー僕によく似ているよ。




